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第7話 ~軍師になろう~

軍師にもいろいろとなり方があります。ですが、シュウは、コネを使って無双したくないそうです。皇子エドワードに頭を下げさせたいそうなので、財力からくる力と、名声をつけさせます。あいつ、シュウのことを招聘してくれるだろうか。作者としては不安です。別に他国で軍師させても良いけれど。

 気が付いたのはどこか知らない部屋だった。石の天井に羽の布団、向こうが透けて見える布に描かれた特徴ある模様はエルフ特有のものであることを示している。よし、少なくとも頭はいかれていない。

「気がつかれましたか」

あ、アルマさんの顔が見える。ここは天国でしょうかそれとも……

「け、怪我はありませっ――っ痛つっ」

おう、まだ体がぼろぼろだとみえる。無事なのはこの頭脳だけか。

「動かないで!」

ちなみに、今アルマさんの声が裏返ったのは、俺のせいだよな、俺の。自爆したくなってきた。

「おじい様を呼んできます!」

パタパタとサンダルの音を立ててアルマさんが出ていった。この辺りからも軽さがうかがえる。体、丈夫なんだろうか。それと入れ違いに皇子エドワードが女を魅了する金髪を揺らしながら、部屋の中に入ってきた。慰めてくれなかったのか?

「よう、色男。ずいぶんな“ざま”だなぁ」

「やかましい。それより、無事か」

こいつには、いろいろと省いて話しても、大体は通じる。

「無事じゃないのは貴様だけだ。女に心配かけやがって、馬鹿野郎が。後で謝っとけよ。アルマさんとあの魔女フィアーにな。ついでに、治療してくれたエルフの長老にもな」

「そうか。そりゃ大事おおごとだ」

正直言って苦手だ。それを見抜いたのか、エドがニヤけた表情を向けてきた。何か言い返そうと思った時、

「おお、気が付かれましたか」

そう言いながら長老が入ってきた。あれ、アルマさんは? 自然と、がっかりした声になる。

「ええ、おかげさ」

言葉を遮るように、長老が無理やり話し始めた。

「体のことですがの、もう元の様には動けません。魔法も同様です。生活には不便をきたしませんが、リハビリと生活の補助のために、今後は孫娘のアルマがお世話をいたします」

その言葉に、俺よりもなぜか皇子エドの方がパニックに陥った。俺としては、最後の一言について詳しく聞きたかった。

「ちょっとまった。それは、士官学校も駄目だと言うことか。もう共に戦えないのか」

生活に不便をきたさない程度……ということは、戦闘なんぞは今後できないだろう。

「おい、落ち着けって。生きてるんだから良いだろう」

「やかましいこのヘタレが! 貴様が居なくなったら誰が俺の後ろを守れるんだ! ええ!?」

「女を守っての名誉の負傷だ。そう騒ぐな」

「馬鹿な! こんなことで、貴様は俺の隣から居なくなるのか! そんなのは許さん! 絶対に許さんからな!」

そう言い捨てて、エドは部屋から出て行った。まぁ、病気している方よりも、それを見ている方が大変だと言うし、あいつもそのうち頭が冷えるだろう。とりあえず、話題を変えよう。もっとまずそうな話題がある。

「連れが失礼を……申し訳ありません。ところで、アルマさんがリハビリを手伝ってくださるというお話しでしたが、詳しくお聞かせ願えませんか」

「お、おお。そうでした。アルマ、入ってきて良いぞ」

顔を真っ赤にしたアルマさんが入ってきた。いや、俺のリハビリなんぞ手伝う話が上がって大変申し訳ない。

「「あの」」

アルトとテノールが見事に調和した。歌で稼げそうじゃないかこれ。

「すみません。お先にどうぞ」

「いえ、シュウ様からお先に」

全力でこの話を断らないといけない。たかが神にここまでやられたのも男としてプライドが許さないし、こんな美人が傍にいたら、理性を保てる自信が無い。第一、アルマさんが気に入った男性を見つける時間が減るじゃないか!

「それでは……お世話になった事に感謝します。ありがとうございました」

俺から断るわけにもいかない。しかし、長老の爺さんが言いだしたことなので、断るきっかけを、何とかこう、アルマさんが話しやすい様に流れを作らなくては。

「いえ、こちらこそ助けていただいてありがとうございました」

「では、どちらも貸し借り無しということでどうでしょうか。リハビリなら自分でもできますし、士官学校でもらった給金もあるので、しばらくは生活にも困りませんし」

落ち着くために差し出されたお茶の様なものを一口ひとくち……に、苦い。ここまで全力で“良薬口に苦し”をで行っているのを初めて飲んだ。

「いえ、そういうわけにはまいりません」

「いえいえ、本当に一人で大丈夫ですので。」

「そうおっしゃられても、私に何か落ち度がありますか」

そうですね、しばらく交渉をした方が自然ですね。こちらにも花を持たせようという優しさが垣間見えた気がして、別れが嫌になった。結婚を前提に付き合えないことに心で泣いた。

「そう言うわけではなくて、ですね。今回の件は気にしないでいただきたいのです。士官学校の者として、準貴族として、当然の社会奉仕ことをしたまでですから」

確かに貴族には社会奉仕の義務があるので、言っていることは合っているのだけれど、まさか教官が言っていた女を落とすための言葉セリフを言うことになるとは思いませんでした。でも、この言葉セリフで“ころっといく人”なんているのだろうか。

「真面目な人ですね」

ほらー、教官。言わんこっちゃない。まさしく「くすくす」と笑われたー。失敗したー。いや……言葉の選択ミスをした俺のせいか。

「良く言われます。そう言うわけですので、今回の件を気になさらず、ゆっくりと平和を味わってください。未だ卵ですが、軍人として、俺達の努力の上に成り立った平和を、受け取ってくれる人がいて欲しいんです」

そうじゃなきゃ、軍人じゃなくて本当の意味で人殺しになってしまうから。

「そんな……じゃあ、あなたの平和はどうなるんですか。努力って、一方的な犠牲じゃないですか」

あれ、アルマさんの目が潤んでるよ。優しい人だなぁ……っと、とりあえずこの場を何とかしないと!

「一方的って訳ではなくてですね、ですから、そのためにただ飯を普段からですねぇ、食べさせてもらっているわけで、別に」

「私は“あなた”のことを話しているんです!」

泣かせてしまった。乙女じゅんすいなひとの涙って反則だよな。全ての理屈を吹き飛ばされる。

「ごめんなさい」

「私はあなたが何と言おうと付いて行ってお世話いたしますから!」

「はい」

負けた。一緒に居られるのが嬉しい反面、種族や寿命の関係で、恋愛関係になれないのが残念だったりもする。良くても、親友以上恋人未満的な辺りなんだろうなぁ。でもいつかは彼女も結婚するんだろうし、う~む。

「ちょっと外の空気を吸ってきます」

泣かせたことに耐えられず、また下の方に限界を感じ、部屋から脱走することにした。

「手伝います」

胸、胸が! 腕に当たっています!

「いえ、その」

ちょっとどころか行き先がとっても言いづらいのですが。

「俺が手伝おう」

そう思っていた矢先に、皇子様エドワードに助けられた。白馬に乗っていないのが残念だ。それとも別の色の方がいいだろうか。例えば、ブーケファラスのような。

「すまん」

「トイレだろう。まったく、普通あのタイミングで逃げ出すか。普段から余計な事ばかり考えているから、肝心な目の前の女に気が回らないんだ」

いや、その通りです。

「すまん」

「ったく、昔から女だけには弱かったからなぁ」

残念ながら、“ぐう”の音も出ない。

「まぁ、今日中に俺とフィアは帰るぞ。やることがあるし、フィアは……話もできない状態だ。今回の件を言いだしたのはあいつだし、だいぶ落ち込んでいる。今会わせるよりも、時間をおいた方がいいだろう」

「そうだな。苦労をかける」

「なに、そうでもないさ。どんな形でも、また隣に戻ってきてくれれば、それでいい」

彼らが立った3日後に、俺も荷物とお金を貰いに王都に向かうことにした。この勢いだと、士官学校も中退になるだろうし、とりあえずは商人にでもなろうか。しかし、商人を長く続ける気は全くない。エドの側に居てやらないと、あいつ暴走するからな。先に商売で財力を蓄え、その財力で人気と人脈を作る。それで培った評判を武器に、向こうから仕官させるように仕向ける。と、まぁ、大まかな計画としてはそんなところだ。初めから皇子エドのコネで仕官しても、政治的な足手まといになるだけだ。そんなことを考えていた時に、王都入り口の関所で、いきなりフィアの爺さんに呼び出された。元老院議長が、今の俺になんの用だろうか。

「娘のために、大変なことになってしまった。本当に申し訳ない」

質素な調度品が心地良い部屋の中で、白く短い髪が目の前に下げられている。

「いえいえ、お気になさらず!」

今をときめく議長閣下が目の前で頭を下げている。いくら居心地の良い部屋でも、さすがに居心地が悪くなる。直立不動で士官学校式に答礼した。

「何か欲しいものがあれば言って欲しい。善処しよう」

「いえ! 小官は任務を果たし――」

「善処しよう」

「その言葉だけ――」

「善処しよう」

はい。解りました。それにしても、押しの強さは、さすがに親子ですね。そっくりです。

「それでは、商売を始めたいので、国内での商売を許可していただきたいのです」

「良いだろう」

そんな言葉で大丈夫か。娘さんに甘いお人だ。


とにかく、商売にしても海外交易自体には国の利害もあり、各国の関係が不安定な政情では、交易自体が流動的で危険である。それに、大量の資金が必要となって、一個人ではもう食い込む隙が無いので、実は河川を利用した商売を考えている。下流からは塩や鉄、香辛料を、上流からは穀物や材木を輸送しようと考えている。普通に商売をしても十分に儲かるが、せっかく材木にも手を出すのだから、まとめて運んでしまえば金がかからない。板状に加工して筏にしてしまえばいい。それに、議長の領内は穀倉地帯であるが、まだ鉄製の農耕器具は普及が進んでいない。何しろ農家1件だけではお金が無いからだ。そこで、各町や村単位でまとめて数個、買い取ってもらう。代金はまだ貨幣がそれほど用いられていない田舎では、穀物や野菜で代金を受け取った方が喜ばれる。これで、農業生産力が上がり、それなりに飢饉の可能性が減るはずだ。人口も増えて豊かになり、議長閣下も喜ぶだろう。そして一番の問題である元手おかねは、

「ごめんなさい」

「お金は問題ないのですが、本当にお身体は大丈夫なのですか」

アルマさんからお願いしてもらって、前回知り合った“赤き森”の伝手で、各地の盗賊や行き場のない人たちに協力していただくことにした。この戦乱の時代にはそんな人が大勢いる。

「大丈夫です」

資本金も“赤き森”の資産だ。どうせ生き残った一人では管理もできないという話だったので、投資してもらった。あの辺り一帯はしばらくの間人が住める環境に無いので、継続的に食べていける仕事があるのは嬉しいらしい。それにしても、さすがに盗賊だけあって、あちこちの物の価値や情報に詳しく、商売の方が向いているんじゃないかと思う程だ。なぜか手伝ってくれたエルフのアルマさんの人当たりの良さのおかげで、商売は順調だった。むしろ、彼女の話せる圧倒的な言語数のおかげで、本来人間が商売できないような人種とまで商売できた強みは大きい。

「あの、なんで手伝って下さるのですか」

「これもリハビリですから」

「……社会復帰まで手伝わなくても……」

「それ以上言うと怒りますよ」

(そうですか)

特に、一般的には人間に敵対的であるはずのエルフや、猫族、翼人まで交易の手を広げられた。通訳万歳だ。ただ、やっぱりドワーフとエルフの仲は最悪で、良質の鉄器を製造するドワーフとの交渉は、俺が担当せざるを得なかった。ドワーフの言葉を覚えるのに苦労した。俺が元士官学校生の商人として国からの信用と知識を、アルマさんが各少数民族との交渉を、“元”盗賊の人たちは労働力と情報収集を担当して、上手く商売が回り始めた。そのころ、俺はフィアさんの所に謝りに向かった。何とか体も上手く動かせるようにもなったし。

「真珠のような白を基調とした花崗岩が、オルオン様式の模様を際立たせてる。見事な門だ」

「本当です。ここまで美しい白の御影石はなかなか見られませんわ」

「そういえば、頭に付けている白い髪飾り、変えました?」

別にアルマさんまでついてこなくてもいいと思います。

「え……よくわかりましたね。前のが壊れたので、同じものをお願いしたのですが」

腕を支えるつもりなのでしょうが、とうの昔に普通に歩けるようになっています。

「前のよりも、少しですが素敵だと思います。ところであのぅ、離していただけませんか」

それにしても、や、柔らかい。

「え!? ……やっぱり、大きい胸はお嫌いですか」

そう言って恨めしそうな顔をするのをやめて下さい。巨乳のエルフは淫乱扱いされるのは知っていますが、別に人間の前で気にしなくてもいいと思う……のは俺だけか。

「いえ、そんなことはありません。俺は好きですよ」

はっきりと言おうと思ったが、やっぱり段々と声が小さくなる。周りの男性からの視線が殺人的ですし。

「本当ですか!」

嬉しそうな顔で柔らかい物をムニムニと押しつけてくるアルマさん。

「いや、そうゆうのは人の居ないところで……」

何とか離してもらおうと押しつけられた腕を動かす。

「ぇ!? ぁっ!」

むしろギュッと抱きつかれました。それに、色っぽい声を出すのはやめてください。周りからの視線が物理的な破壊力を持ち始めました。門の中に逃げ込むと、殺人的な視線を感じさせない、完全に完全な使用人の鏡であるポーカーファイスをした執事殿が出てきた。いや、本当に無表情のまま動かんな。それは使用人として結構なことだが、顔の筋肉の存在を疑うほどのものはさすがにどうかと思う。

「シュウ様でございますね。お嬢様がお待ちです。どうぞこちらへ」

初老の白髪と対照的な真っ黒な服を着たポーカーファイスに案内される。無表示な顔に丁寧な物腰と落ち着いた雰囲気に誘われるような感じで、花のいい香りがする温室の一つに案内された。

「お久しぶりです。シュウ」

相変わらず燃えるような赤い髪、日の光に映えた桜色の肌、何より、生き生きとした……生き生きと……生き生き…………してない目だ。寝不足か何かであって欲しい。いやに目に哀愁が漂っている。俺のせいか。俺のせいなのか? ええと、こういう場合はエドに言われた通りにした方が、より賢明だと思う。

「フィア……さん。心配かけてごめんなさい」

え、なんで泣くの? 謝ったよ。誤ったか。皇子様エド助けて!

「謝るのは、私の方です。私のせいで……」

「大丈夫ですから。もうこんなにぴんぴんしてますし」

何とかこの場を収めようと体を動かすが、余計に事態が悪化していく。

「私、一生かけて償いますから」

……それは聞き捨てならない。

「なんでも言うこと聞きます」

…………それはもっと聞き捨てならない。一般の青少年ならその憂いを秘めた表情だけでも理性がぶっ飛ぶだろうに、その言葉セリフは洒落にならない。俺の頭の中も結構洒落になってない。

「良ければ、いくらでもこの体で償うから。どうか許して」

理性が180度+180度=360度回転して元に戻った。ええと、確かこういう場合は、相手に提案を飲んだ方が丸く収まるんだよな。ニヤリと笑みがこぼれる。

「……では、望み通り、体で払っていただきましょう」

ニヤニヤしたらアルマさんに抓られた気がするが、別にフィアさんが期待を込めた目になったから、良しとしよう。幸いに商売は順調で、仕事ならいくらでもある。せっかくだから、乾燥が必要な製塩業の方を手伝ってもらう。肉体労働でもして、気分転換をしてもらおう。

「はい……」

そんな声が聞こえた様な気がした後、フィアさんが服を脱ぎだした。下着アンダードレスまで赤ですかそうですか。いやそうじゃない。光の速さで体ごと向こうを向き、

「フィアさん、勘違いです! 俺はそんな人間じゃありませんよ!」

そう言って出口へダッシュした。アルマさん、後は任せた。

「ふぇ?」

顔を赤くして呆けたレディー=フィアーと、

「服を着て下さい」

しっかり者のアルマが後に残った。

まだこの先の流れがありましたが、長いので5000字を超えたところで切りました。この調子だと、戦闘描写はまだまだ先になりそうな予感がします。

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