第5話 ~3人の八つ当たり~
本話は、食事前後、食事中に読まないことをお勧めします。
まだ軍師としての本題に入りません。どうしたものでしょうか。そして、正式な爵位やら何やらを使うのもまずいので、「この作品に出てくる人物、地名などの固有名詞は作者の妄想によるフィクションです」としておきます。そして、R15という微妙な指定の本領を発揮させていただきます。
「で、結局振られたわけだ(ぷっ)」
ショボン!
「いててて、すまん、痛い!放してくれ!アルバイトを紹介してやるから!」
そう言って皇子はまた厄介事を持ち込んできた。俺は図書館の整理あたりを期待したが、皇子の飲むチョコラテよりも甘かった。
「……なんだ?」
「“碌な事じゃない”みたいな引き方はやめてくれ」
「少なくとも目的は達しているな。さすがは皇子様だ。さぁかえろ―」
皇子に首根っこを掴まれた。
「ふふふ、今回は絶対に逃がさんよ。これは命令だ」
そう言って皇子は命令書を見せつける。
「残念ながら本物だな」
「俺は貴様には嘘はつかない」
「嘘であってくれ!」
「どういうことよ!」
爆音とともに扉が吹き飛び、今回の厄病神とのご対面がかなった。食べる前からもう満腹です。
「今回の仕事は、このじゃじゃ馬の護え――」
「誰がじゃじゃ馬よ!」
爆音とともに皇子が吹っ飛ぶ。・・・間違いなく、この女性は元老院議長の一人娘であり、皇子の幼馴染、2年前に魔法学校を首席で卒業した、「紅蓮の魔女」ことフィアー・レッドフィールド男爵だろう。赤い髪、赤い目、赤い爪、ほんのり桜色の肌、黙っていれば美人、そして……「傍若無人で有名だから」しまった声にだし!
「なんですってぇ!」
ギリギリで覚えたての防御結界を張るが、返って火に火薬を投げ込んだようだ。
「へぇ、やるじゃない」「ば、馬鹿っ!」
後者はエドだ。とんでもなくでかい火球が俺に向かって投げつけられる。燃え盛る大火球が辺りを焦がしながら突っ込んでくる。
「耐えきれるかあぁぁぁぁぁ!」
この人に護衛なんかいらない。あの時の精霊よりどでかい火球ってどういうことだよ。
「やるじゃない。噂通りの切れ者ね。エドちゃんが薦めただけあるわ」
……とっさに風魔法で火球と自分の間の空気を減らしていなければ間違いなく死んでいました。空気が無ければ火は消えますが、その代わりに今は急性の減圧症状態です。毛細血管が……。
「何?私みたいな美人と出会えたからって、血の涙まで流さなくても良いのに」
「違いますっ!」
し、死ぬ……。本気で死ぬ……!エドの時が生ぬるく感じる!
「それで、レディ=フィアー、俺達を呼んで何をしようと言うのですか」
ゲホゲホ言いながら尋ねる。
「そうだな、シュウの言うとおりだ。あんたの凶暴さなら別に俺達は必要な――ぎゃぁぁぁあっぁ!」
エドの髪が燃えている。生粋の勇者だな、お前…。
「あんたじゃないのよ!必要なのは知恵なの!」
「確かにあんたじゃ不足――うっぎゃああぁぁぁあああぁ!!」
いままでよく燃え尽きなかったな…この皇子は。
聞いたところによると、奴隷を生贄にささげるのをやめさせたいらしい。奉げられる対象が愛天使って……おいおいおい。
「確かに下級と言われれば下級ですが、ええと、……最悪、最上級愛神を敵に回しますが……」
最上級愛神、つまり、愛の神を敵に回すことになる。絶対にそれだけは避けないと。言い伝えによると、他の神が子供に見える程だと言う。
「そうならないように考えるのがアンタの役目でしょう。それに、そうなったら神に助けてもらえるわ」
自慢げにでかい胸を張っているが、抜本的に認識がおかしいぞ、この人は。この人の言う絶対唯一の神は、人類が生じてはるか後に発明されたもので、恐怖と理性を司っているにすぎない。
「あのですね……唯一神は、他の神々を“力による恐怖”で押さえつけるだけで、人間の味方をする存在ではないんですよ。それに、そもそもこの世界の魔法は、この書物の通りに支配され、用いられています」
書くと以下の通りとなる。
――上――
色欲=愛?
怠惰=光 傲慢=闇
憤怒=火
強欲=土
暴食=水
嫉妬=風
――下――
以上の神がそれぞれの属性を司っている。“他にもある”みたいなことを賢者セディエルク氏の残した書物には示唆していたけれど、とりあえずそれは置いておく。そして、上の方の神ほど、強力とされる。唯一神は、理性のタガの外れた人間のタガの役割をしているだけだ。このレディーは、そういった意味でむしろ天罰が当たるだろ。
「でも! 悪い奴なんでしょう!」
そう言って手を振りながら赤い髪を揺らす。揺らすのはいいが、一緒に火を出すのは室内ではやめて欲しい。一応説得を試みる。
「違います。確かに欲望に溺れるのは問題ですが、必要悪ですよ。なくなったら人間は本当に滅びます。それに、これは元老院も法律で認めていることですし、奴隷制度に伴う利権問題と、統治体制の安定も絡んでいます。さすがに手出しはできません」
そう言っても目の前の魔女は言うことを聞かない。
「ちょっと! 神のもとで人間は絶対に平等のはずでしょう!」
あっつい!
「法の下では相対的に平等です」
「そ、それに、そんな神、い、い、いやらしい! 変態よ! 女の敵よ! 生贄って……ふええぇぇん」
泣きながら駄々っ子の様に火魔法をぶっ放してくるのには弱った。しかもちょっと服を焦がされた。これでも……20歳だよな……と脱力する。手のかかり方は…エド以上だ。
「エド、どうすればいい」
古い知り合いだろう。
「泣かせたのは貴様だ。自分で考えてくれ。まぁ、燃やされる前に何とかしてくれ。」
…目糞鼻糞だった。アイディアの代わりに殺意がわいてくる。まぁ、調べるだけ調べて、どうしようもないことを証明しておこう。道理で皇子に話が来たわけだ。これなら危険も無いし、説得に皇子の権威が使える。俺は疲れるが。とりあえず、調べてみましょうか。
「にしても、生贄ねぇ……」
全くやる気のない格好と雰囲気丸出しの男二人に、
「ええ、しっかりお願いね」
やる気120%で臨戦態勢の装備を整えた女が一人。疲れませんか、その格好…。部分鎧に真っ赤な分厚いローブ、戦闘用の大きい杖と、食糧などの荷物が無いこと以外は、このまま戦争に出ても全くおかしくない装備だ。
「聞きこみがほとんどになるはずですが、そんな装備で大丈夫でしょうか」
「大丈夫、この格好ならみんな正直に話してくれるはずよ!」
あぶねぇ。街中で火魔法を使う気だ…とってもあぶねぇ…。エドも歩きながら遠い目をしてるし…って、普段のお前と同じだ!自覚しろ!
「まずは、神殿に行こうか……。ハァ」
ため息も出るってもんですよ。少し歩いてから神殿に着いた。出てきた低位の神官と思われる、ローブで顔を隠した相手に一言、
「こちらはエドワード皇子です」
その効き目は抜群だった。挨拶の声もそこそこにして、あわてて神殿の奥に案内される。
「こちらへどうゾ!」
案内に従って、小奇麗な大理石造りの建物と、それなりに良いと思われる淫卑な装飾の間を通る。
「ふむ、なかなかのものだな。そう思わないか、シュウ」
「芸術は解らん」
本当に解らん。
「つまらん奴だ」
それにしても、レディー・フィアーが顔を真っ赤にして俺の後ろにいるエドの服の裾をつかみ、後ろからちょこちょこと着いてきている。いつもの生き生きとした暴虐さはどうした。そう言ってやりたい。全力で言ってやりたい。昼間なのにぼんやりと明るい廊下の角を曲がると、突然目の前に肥った男が現れる。
「お目にかかれて光栄です、殿下。私がこの神殿の司祭を務めるマグネシウス・スターラーです」
俺はふと違和感を覚えた。魔力の様子がおかしい気がする。魔力が「見える」訳ではないのではっきりとは解らない。隣の魔女に聞きたいが、俺の裾すら握ってびくついているこの様子では使い物になりそうもない。
「それで、どういったご用件ですか。そちらのお嬢様との愛の手ほどきでしたら――」
これ以降は卑猥な表現が尋常じゃなくなったので省略するが、この神殿は子宝にも効果があることから、そっちの話だと勘違いされたらしい。当然と言えば当然だ。一人息子だし。エドと魔女がさっさと逃げ出したので、俺も、と思いたかったが、一応聞くだけ聞いてみた。
「質問をしてもよろしいですか」
「ええ、どうぞ」
そう言ってマグネシウス司祭は妙な香りのするお茶を勧めてきた。…媚薬が入って無いか、非常に疑わしい。
「魔力の流れがおかしい気がするのですが、何かあるのでしょうか」
「ええ、お気づきになられましたか。最近送られてくる生贄の様子がどうもおかしいのです」
「と言うと」
相手がお茶に手をつけたのを見て、こちらもお茶に手を伸ばす。
「それが、どうも喜んで生贄に奉げられている印象を受けないのです。身を清めては来ている様なのですが、ただそれだけという印象を受けてしまいまして」
各神々には、奴隷の身分や、罪からの解放として、喜んでその身を自らの信じる神に奉げようという連中が沢山いる。彼らは身を清めてから生贄になるのだが、そこに問題があるということか。
「なるほど。そこを調べれば良いわけですね」
本来、身を清めるには決まった手順での準備が必要で、結構なお金がかかるのだが、そこを省略してしまえばかなりの資金が浮く。
「ええ、よろしくお願いします」
もちろん、司祭がグルの可能性も捨てきれない。出てから俺に尾行がついたら、疑った方がいい。司祭以外は、先に出た皇子に目がいっている可能性の方が高い。さて、どう出てくるか……。
「ああ、今飲んだお茶には、性的に興奮させる媚薬が入っておりますので、外に出たらお気を付けください。習慣でして……御存じありませんでしたか。これは失礼を」
ま~た違った方向からの攻撃だ。
「近づいた相手を、少しですが興奮させてしまいますので。別に毒ではありません。ここに来られた方にお出しするものでしてな。」
だからあいつら先に逃げ出したのか。そうか、そうなんだな。
「いえ、習慣ならば仕方がありません」
そう言いつつ、俺は這う這うの体で逃げ出した。あの司祭、“異性に対して”なんて一言も言わなかったぞ!俺を明らかに“教育”する気だったろ!そう思いながらエド達に合流したが、尾行は付かなかった。媚薬の効果も、不特定多数に効くほどは強くは無かったようだ。ただ……。
「今日は宿で休んで明日から生贄を清めているヤツを調べよう」
俺を見捨てた二人が、苦笑いしながら同意した。
「それがいい」「そうしましょう」
あんな神殿二度と行かんぞ!
……その日、二人がやけにべたべた触ってきたのは気のせいだと思いたい。
翌日、生贄を清めている“専用の沐浴場”を訪ねた。あの神殿でないせいか、魔女がなぜか強気だ。沐浴場と言う全体に蒸し暑い場所での暑苦しい装備にも拘らず、生き生きしている。
「こちらで生贄を不正に扱っている疑いがある!調べさせてもらうぞ!」
正面突破も良いところだ。あのねぇ……
「返事が無いなら勝手に調べさせてもらう!」
エドまでその調子だと困るんだよ。お前、法律上ある意味で皇帝以上に権限が制限されていないんだから。そう思いつつ、あちこちをひっくり返す二人を無視して、ここの責任者らしい人物に話を聞く。彼らと違い、俺の目的は生贄の停止ではなく、生贄の不正の停止だ。
「噂によると、どうやら生贄の準備に不備があるようなんです。それを聞いて念のために伺ったのですが、お話をお聞かせ願えませんか」
皇子が調査に来たことに明らかに動揺はしているが、不信感を与えるようなたぐいの目の動きはしていない。…どういうことだ、ここが元凶ではないのか。
「そのような噂は聞いたこともありませんし、別にこれまでと変わったことはしていませんし、どうしてこのような事になっているのかさっぱり……」
「清めるのに使う道具や物品を確認させていただいても?」
「ええ、結構です。こちらに」
沐浴場前の広間から、地下への階段を下りる。面白いことに、殺気がビンビンしてくる。こんなタイミングで、あの二人を危険にはさらせないからな。この程度なら俺一人で十分だ。地下倉庫に下り、道具も物品も見せてもらったが、魔法の儀式に用いる物とは比べ物にならない程の良いものであった。すると……この殺気は?そう考えていると、殺気が遠くなっていき、外へ消えた。
「どういうことだ」
沐浴場前に戻ると、汗だくの二人がゼーゼー言いながら待っていた。沐浴場で運動するからだ。突っ込むのもアホらしい。
「おう、遅かったな。こっちは収穫なしだ。生贄も嫌がっている様子はないし、扱いも正当だ。問題はない。さっさと帰ろうか」
隣で魔女がギャーギャー言っているが、話がこじれるだけなので全力で無視だ。幸い湿度が高いので火は使いにくいはずだ。気温は上がっているみたいだけれど、許容範囲だ。
「シュウ、帰ろうぜ」
皇子は沐浴場を出ていくのについていくが、ついでに気になったことを入口の門番に聞いた。
「すみません、先ほど我々の前に出て行った人がいるはずですが、御存じありませんか」
……その答えは、予想を裏切らないものだった。
「二人とも、戦闘用の装備でもう一度神殿に行くぞ」
二人の反応が対照的だったのが面白かった。
神殿に着き、そのまま許可も得ずにずかずかと淫卑な神殿内に入る。司祭を見つけると、とりあえずあの下級神官について尋ねる。
「昨日案内してくれた神官はどこに行った!」
「え、ち、地下室で作業をしているかと……」
場所を聞き出してさっさと地下室へ向かう。近づくにつれ、昨日感じた違和感が増してゆく。
「これは……」
魔女も同感らしい。本来愛の属性を感じるはずが、水の属性を強く感じる。地下に行くにしたがって、腐臭もしてきた。間違いなく、暴食の使途で、しかも、悪い方だ。想像以上に広い地下室の中に、探していたやつがいた。上級暴食悪魔レベルの、でか~い蠅だ。最上級ではないのが救いか。
「やっぱりこいつか」「でかい蠅だ」「虫いやあああぁぁあああ」
愛を司るはずの司祭が太ったわけだ。こいつが本来の愛の天使から生贄を奪ってきたのだから。そして困ったことに、強い。狂乱状態で感情過多となり、力が相当発揮されているはずの、「紅蓮の魔女」の大火球が通じていない。水魔法を使って、むしろ押している。あちこちで水蒸気爆発が起こる。骨付き肉の様な杖から出てくる大量の蠅が燃え落ちているだけで、本体は平然としている。ベトついた液体が付いた足に至っては微動だにしない。
試しに俺が風魔法で牽制し、エドが嫌々剣で攻撃する。
「うりゃぁぁぁぁあ!」
しかし、切った腹から蛆が湧き出てくるのを見て、顔が引きつる。蛆はそのままうねうねしつつ、意外なほどの速さで襲いかかってきた。狂乱状態のレディー=フィアは本体にひたすら攻撃していて役立たずなので、俺が火魔法で蛆を焼きつくす。取り逃がした蛆はエドが焼き払っていた。このままでは、後から後から出てくる蠅を相手にしてじり貧になる。
「フィア!」
エドの声が響いて、眼の端に、フィアが吹き飛ぶところを捉える。あわてて受け止める態勢に入ったが少し反応が遅く、腐臭のする壁まで一緒に吹き飛ばされた。
「ぐっ」
重くない。女の子の重さはリンゴ3個分。だから大丈夫。
「大丈夫ですか」
「あ、ありがとう」
正気に戻ったのか、普通に礼を言われた。いや、普通に礼を言っているんだから正気じゃない。無視してエドに作戦を提案する。
「エド! 魔法剣だ! 急所を潰せ!」
俺の補助魔法とミックスして、燃え盛る剣を構えたエドが蠅をなぎ払いつつ一気に間合いを詰め、頭を落とした。
「畜生! 急所はどこだよ!」
……あの蠅、頭を再生しやがった。エドが今度は上から下まで真っ二つに切り伏せたが、切り口から体液とともに蛆を吹き溢し……そして何事も無かったかのように再び元通りとなった。
すぐに撤退を考えたが、
「そんなんじゃ倒せないヨ」
の声が聞こえ、入り口に何者かの気配がした。振り向くと、そこには昨日俺達を案内した神官がいて、笑いながら“消えた”。消えたのだ。物質が消える魔法なんて、聞いたことが無い。
「何ぼさっとしてやがる!」
エドの声とともに、現実に戻る。仕方がない。ひとまず、使える全属性を試すことにした。
火=効いていない
風=小蠅を吹き飛ばすので精いっぱい
水=蛆に当たると蛆が大きくなった
土=固体をぶつけても効いた様子が無い
光と闇=意に介した様子は見られない
愛=魔法とは少し習得方法が異なり、俺とエドは使えない
雷=これも愛と同様
物理も駄目、魔法も駄目、さて、どうしたものか。目に前に今まで見た中で最大の火が燃え盛っているが、
「あたしの火力で駄目だなんて」
効いた様子はない。もう3人ともボロボロだ。撤退も視野に入れたが、ここで引くと町に被害が出かねない。この町にはこの神殿しかないため、他の神の神殿に人々が逃げられない。むしろ、これ程の力を持った悪魔に対抗できるほど力のある神殿は少ない。
「気持ち悪いし……もう、限界……みんな……私のせいで……ごめん」
あ、思い付いた。ここが地下で良かった。
「エド、地下に部屋を作るときは、入り口を二つ作るんだよな。」
「ああ! それがどうした!?」
「エドは合図とともに反対側の入り口に向かって風魔法を全力で放ってくれ。レディー=フィアは全力の火魔法をお願いします。とりあえずは、俺の後に続いて入り口の外まで走れ!」
他に手も無いのか、2人は素直に言うことを聞いてくれた。3人で同じ入口に向かって走り出す。後ろから蠅の悪魔が追いかけてくる。悪魔が入り口に来た瞬間、
「今です!」
俺も同時に全力で風魔法を放つ。空気が不足して不完全燃焼を起こす程高温の火魔法に、空気が一方向から一気に送り込まれる。強力なバーナーの完成だ。青い色の高温の炎が一気に蠅を焼きつくす。効いているようだ。後は……
「うぁがぁあああ!」「も限界!」「もう少し耐えて!」
相手が燃え尽きるのが先か、こちらが力尽きるのが先かの根競べだ。
時間の流れが、ゆっくりに感じられる。数秒を、数時間に感じた後、灰も残さずに悪魔を焼きつくし、3人とも気を失った。あ、壁が溶けてる――
知らない天井だ。意識を取り戻し、起きると、同じベッドに厄介者二人が眠っていた。そうか、二人が……二人!?
「うぁあああ!」
とっさにベッドから転げ落ちる。いてて。あれ、誰か居る。
「司祭?」
「いいえ、愛の天使です」
確かに羽は生えているが、新手の詐欺ですか。
「天使なら間に合ってます」
「違います。あなたにお礼がしたいと思いまして」
確かに、ほとんど調べ物は俺がやりましたが、この場合はっきり言って余計なお世話です。愛の神殿では碌な目に有っていないから絶対に拒否したい。
「あなた、意中の女性がいますね」
そうくると思いました。
「いますが、それがなにか」
「力を貸しましょう」
やっぱりそう来たか
「結構です。好きな人の心ぐらいは、自分で射止めて見せますよ。ダメなら……あきらめます」
……本心でもあり、碌なことになりそうもない予感がビンビンしていたからでもある。
「では、代わりに×××を上手にいたします。」
なんだこれ。
「うああぁあぁあああぁああぁぁあああぁあああぁあぁぁっぁあぁあああ!」
「将来愛する人は、きっと喜ぶでしょう。では」
……有無を言わさず消えやがった。その瞬間、魔女が目を覚まし、下着姿の自分と隣に寝ていた下着姿のエドを見て悲鳴を上げた。一難去ってまた一難。早くこいつらから逃げたいよ。
建築資材として使われている大理石は大丈夫なんでしょうか。
ええ、中世の資料は沢山あって読み切れませんとも。