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第4話 ~生殺し~

一部実体験です。本当に私とそれを反映させられるシュウのヘタレぶりは半端じゃないですね。

 休暇中の泊まり先、議会図書館へと俺とエドは向かっている。場所が士官学校から遠いのでエドの馬車に乗せてもらっている。それにしても、さすがに皇子の馬車となると違う。豪華な馬車であることはそうなのだろう。座席にはビロードと思われる布が張られており、クッションになっている。窓には透明度の高いガラスが入っていて、きれいな景色がゆがみなく見える。4頭の馬に引かれた馬車はゆったりとした速度で町を進み、馬の足音が耳に心地いい。中にはこうがたかれているのか、いい香りまでする。ただ問題なのは、馬車の外側には豪華な金の彫刻が飾られ、王家の色である赤と皇子の色である青がすさまじい自己主張の末にぎらぎらした外観である。その上、きらきらしている服装の近衛兵のみなさんがうっとうしい。儀仗用なのだろうが、身に付けた装備の半分程度は実用性が感じられない。将来、近衛兵に入隊したら、あんな恰好をして、俺も町を歩かなきゃならないと思うとうんざりする。それに、

「皇子、私はあの恰好だけはしたくありません」

「しなくていいように掛け合ってみよう」

馬車の中に野郎二人が向き合って座るのはいかがなものか。豪華な調度品も華やかな装飾も一挙に色褪せる。だから馬を貸してくれと言ったのだ。

「それで、お前が会わせたい人間って誰なんだ」

「俺の婚約者だ」

のろけ話を聞けと…。いやいや、将来の護衛対象か?

「護衛なら女性士官の方がいいだろう」

「違う、そうじゃない。婚約を解消したいから知恵を貸してくれ」

宮廷闘争か、はたまた外交の失敗か、いずれにしても、これは俺ごときが関わっていいやまではない。

「痴話げんかは家の中でやりなさい」

「たのむ」

「俺を殺す気ですか」

「実はだな」

「聞けよ!」

こちらの意見を完全に無視したエドワードが言うには、政略結婚なのだが、あまり政治的によろしくない結婚とのこと。あまりにも細かい詳細は省くが、交易品を扱う大商人の娘を側室に入れるらしい。いきなり側室を入れるのもまずければ、娘が嫌がっているのもまずい。別の貴族令嬢から当初は選ぶ予定だったのだが、エドが士官学校に行っている間にその話を親父殿こうていへいかがいつの間にか進めていたそうだ。目的は…珍しい宝石だとか。信頼できる重臣連中が全力で反対していることから、あまり裏が有るとは考えられないらしい。どちらかといえば俺もエドの判断を信じたいが、こいつは理想主義的なところがあるからなぁ。厄介だが、独自に調べておこう。

「一応、考えておく」

とたんに笑顔になる皇子やっかいものの顔が気に障る。俺のことを個人秘書か何かと勘違いしてないか。

 

 巨大な図書館の一室に案内され、目の前によく知っている顔をその中に見つける。

「…まさか」

「ええと、こちらがの方が僕の現婚約者ということになっている」

「アイリス・シンドラーです。ええと、購買によく来ていたシュウさんですよね」

スカートをつまんでクイッと音が聞こえそうな動きで膝を折り、アイリスさんはあいさつしてくれた。素敵です。お、俺、今感動しています。とにかく覚えていてくれただけでも俺は満足です!とりあえず馬鹿皇子エドワードを粛清しようか。

「お前・・・この人のなにが不満なんだ」

こんな場所で皇子に襲いかかるわけにもいかないので視線で馬鹿エドワードを攻撃する。

「ちょっと待て、落ち着け。むしろ俺は貴様の味方だ」

「事と次第によっちゃぁ容赦死ねぇ」

「待て、言葉が危ない。嫌とかじゃなくて政治的にダメなんだ」

嫌じゃないだと!

「するとお前はアイリスさんに気があるのか!敵か?俺の敵か?だめですよ、アイリスさん、こんな厄介者と一緒にいると、とんでもない事にとんでもない頻度で巻き込まれますから。むしろ俺みたいに安定したやつのほうがいいですよ。どうですか、俺は?友達からでもいいので、お付き合いしませんか」

「俺に巻き込まれる貴様と一緒になったら、それこそお先真っ暗だろうが」

今後も俺は皇子こいつに縛られるのだろうか。それは嫌だ。

「それに貴様この状況で告白するか、普通は。まだ俺の婚約者フィアンセなんだが」

「アイリスさんがお前を好きだとか俺を嫌いだとかならあきらめるが、それを聞くまではあきらめねぇ」

「あの……」

アイリスさんが声を出した。どうなんでしょう。

「俺じゃ駄目ですか」

「それより、婚約の解消を話し合いませんか。話はそこからだと思うのですけれど」

返事がないので納得はいかないが、

「「ごもっともです」」

理屈は合っている。ただ、脈はないような気がしてきた。いろいろ失敗した。もういい。仕事する。

「エド、いつこの話が出たんだ」

「ええと、士官学校にアイリスが来てちょっとしてからだったかな」

「…なんか結果が予想できる様な気がしてきた」

思わず顔が引きつる。

「それで、来たことを手紙に書いたのか」

「ああ、貴様の有頂天になった評価を一通り。貴様の人物評価の確かさ―。」

「それが原因だ!ぼけぇ!」

顔が~、顔が赤いよ~。誰の顔かは言わない。

「手紙に書いた内容は」

「大体がきれいだとかほめこと―」

やめてくれ恥しい。言葉を遮りつつアイリスさんに頑張って作った笑顔を向ける。

「とにかく!今回は悪の元凶たる皇子エド皇帝おやじさんを説得して終わりです。エド、さっさと行って来い」

皇子に対してひどい言い草だと自称皇子あほが怒るが、少しは責任を自覚して欲しいものだ。

「それができれば苦労しない。絶対に無理だ。親父はこの件で人の言うことを聞いていない。理屈を言わせりゃぁ帝国一の元老じいやで駄目なんだ。あの人があきらめているんだから、人間には不可能だよ。親父も何を考えているんだか」

こいつは何を言っているんだ。

「感情の問題だと当人たちも思っているし、そっちの問題なら重臣連中も口をつぐむんじゃないか。俺なら釘をさすだけで終わらせる」

「そうですね。状況を見るとそうでしょう。皇子が、他に好きな人がいるのだと陛下に伝えていただければ、全て収まります」

アイリスさんからの言葉が意外だったのか、エドが驚く。驚くなよ、お前近場のことに鈍すぎだ。

「どういうことか、理由を説明して欲しい」

アイリスさんが俺の方を気の毒そうに見てから返事をした。気遣いが心に痛い。

「あの、それは聞かれない方がよろしいかと」

もう泣きたい。

「おい、シュウ、俺に関することか。気になって寝れないぞ。俺は大丈夫だから教えてくれ」

「ですから、おやめになった方が」

いっそ殺してくれ。

「アイリスさん、もういいです。こいつは俺の言ったことをそのままラブレターにしてしまったんでしょう。それを陛下が勘違いしたと、そういうことなんだよ。はははははは」

多湿なはずのこの季節なのに、なんだか部屋がカサついたようだった。そして、その後に生じた親子の会話は、典型的な親子喧嘩だったという。そして、解決のお礼にと、アイリスさんが食事をふるまってくれることになりました。ほとんど彼女のことをあきらめていますが、それでも最高の御褒美です。二人きりじゃないのが癪だが、まぁ脳内でエドを削除して良しとする。

「お二人とも何が食べたいですか」

なに!選択肢ではなく何が良いか聞いてくれるだと!なんて良い子なんだ!だが!最難関の質問でもある!料理に自信があるのか?どうなんだ。もしかしたら作れない注文をして気分を害してしまうかもしれない。苦手な料理をお願いしてしまったら!だが、この好意を無下にするわけにもいかない。かといって何が作れるのか聞くのは料理ができないのを疑っているようで失礼だ。状況から察したいところだが、食材に何があるのかも把握できてない現状で、しかも料理のレパートリーの少ない俺では判断ができない。したがって「魚がたべたい」などの食材選択や「洋食がいい」などのジャンル選択という安易な選択肢に逃げることはできない。いっそのこと「お任せします」と逃げたいが、しっかり者の彼女に「私が聞いてきているんだから、それじゃ駄目です」と言われる可能性が高い!別にそう怒られるのは良いが、俺の評価が低下するのは避けたい。食べられないものを言えば何とか考えてもらえるのか。いや、そんなわけはない。選択肢を減らすことによりむしろ料理の幅が減ってしまう。だいたい食べられないものなんてないぞ!落ち着け俺の頭脳!なんとか彼女の持っているものや服装から彼女の味の好みを心理学的に推測しよう。黒い髪によく似合う色のワンピースだ。おそろいなのだろうか、ワンピースによく合うデザインのヒールの高い靴が背の高い彼女をより目立たせている。今日も彼女はきれいだ。…ち・が・う!それどころじゃない!集中だ!集中!そうだ!あえて「君の作るものなら何でもいいよ」と答えるか、「君が食べたい」と言うか!て!何を考えてるんだ俺は!だめだ、アイリスさんを見てしまうと方向性がずれてしまう。そうだ、こういう時は場馴れしたエドがいるから…こいつにこの件で頼るのは嫌だ!だめだ、自分で考えよう。彼女は商人の娘だからあんまり高いものでは無いものがいい。きっと手頃でおいしいものが得意なんだろう。そうだ!そう言えば食材が何があるか聞いてない。そこから判断しよう。(ここまででシュウの感覚的で1秒)

「あの……」

「そう言えばここってなんでも食材があるから、迷うな」

なんだと!それは本当かエド!なんてこった。これでは判断基準がない!それになんでそうお前は冷静なんだ!食事の場所の雰囲気はどうしよう。この場所は帝都の高級そうな…高級料理なんて頼めるわけないだろ!普通の人に作れるか!だめだ、何も思い浮かばない。自分のふがいなさに泣けてくる。そうだ、得意料理を聞いてそれを頼めばあるいは

「パスタが食べたい」

なん・・・だと・・・。

「いいですね、トマトですか」

「魚介がいい。貴様もそれでいいか」

「嗚呼…」

「じゃ作りますね」

「期待してるよ~」

エドはすげぇよ。自分でも遠い目になっているのが解る。ふたりできゃっきゃうふふか…。いいな。もう駄目だ俺。

。」の粛清完了。

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