第3話 ~3話ですでにドラゴンが~
厳密な定義では、これは爆発ではないのではないでしょうか。
今回はドラゴンとたたかわせてみます。
死にかける経験は、士官学校1年の頃の対精霊獣戦で終わったと思っていた。だが、皇子と俺に襲いかかる教官の手からはまだまだ逃れられなかった。教官達も皇帝から厳しくするように言われているにしては危険が多すぎる。何を考えて居やがる!中隊で大雪山にいる氷竜の討伐とはどういうことだ!他の中隊のように最強でもガーゴイル程度がいる島でのサバイバルじゃないのか!こいつは連隊レベルの相手だ!
「貴様らは元気が有り余っているようだ!よって氷竜の討伐を命じる!指揮官は定期試験の成績トップのエドワード候補生に任命する!」
この間の懲罰ですかい。そうですかい。わかりましたよい。それにしてもエドの野郎に浴びせられる黄色い声はさすがだい。少しいじってやろう。
「さすが容姿端麗、頭脳明晰、性格良好のエドワード殿下です」
そう言ってエドの前にひざまいた。
「やめろ、虫唾が走る。それより、任務をどうやったら成功させられるんだ。考えているんだろう」
ヒガミはスルーですか、そうですか。
「いや、今回はさすがにあきらめた方が安全だろう」
立ち上がり、椅子に座ってから肩をすくめる。
「そういいつつも、貴様のことだ、なにか隠し玉が有るのだろう」
やめろ、俺に向かってニヤケるな。女子からますます嫌われる。作者と違って、睨まれて喜ぶ変態じゃない。…なにを言わされているんだ?俺は。
「無いね。可能性が高いのは状態異常に頼ることだが、俺達の魔力を全部集めても効くかどうか」
女子から「筆記試験首席のくせに使えねー」とじと目で睨まれる。
「そうか、魔法がだめなら落石とかはどうだ。物理的に仕留めるのは。なんなら、投石機でも借りてくるが」
数トンもある岩石を飛ばすような攻城兵器を持ち出す…それができるのは君だけだよ。何事もないかのようにそんなことを言わないでほしい。それに、
「相手にもよるが…山には持って行けないし、当たる気がしない」
「そうだな」
憂いを秘めたような顔を皇子様がすると中隊の女子がまたしても黄色い声を上げる。…なんだ?この落差は。背丈か?やっぱり背丈なのか?やっぱり恋の始まりのほとんどは見た目なのか!?大体!なんでこんな任務に限って女子と合同なんだ!自然としかめっ面になったのを勘違いした振りをしたエドから突っ込みが入る。
「貴様がそんなに悩むとはな。面白いものが見れた」
顔が引きつる。
「ああ、いっそ殺してくれ」
「どうしたんだいきなり…そうだな、俺に切られるのがいいか、もだえ苦しみながら毒で死ぬか」
「おい、本当にころ……?」
そうか、それなら行けるかもしれない。
「……毒はドラゴンに効かないぞ。」
「もっといい方法がある。毒は関係ないがな、毒より性質の悪い手法がある。前半は剣士たちに頑張ってもらおうか。最後は魔法でとどめになるが」
「また自慢げな顔をしやがって」
「それぐらいは良いだろう」
このあたりで声をひそめ、エドに顔を近づける。嗚呼!女子の目が痛い!
「ところで、発案は皇子ってことにしといてくれ」
“皇子”と呼んだせいか、エドの声が不機嫌になる。
「また特別扱いか」
「それも仕事のうちだ。皇子様はみんなの希望でなくてはいけない」
「…で、失敗したら“シュウ候補生の準備が甘かったせい”ということになるのか。おいしいところだけ譲ってもらうわけだ。責任は人に押し付けて…嫌な役回りだ」
「そう苦い顔をするな。それがお前の仕事だ。“皇族は常に徳高く有れ。”嫌われるのは参謀の仕事だ」
俺はエドのやつに冬季登山装備の準備をお願いした。そのあと、科学担当教官の所へ行き、大量の可燃物を用意して作戦に備える。後は…温度と物質を遮断する結界魔法が必要だ。
討伐対象のドラゴンを探して2日目、意外と簡単にドラゴンが出しゃばってきた。この地域一帯を荒らしているだけあって好戦的な奴だ。
「エドワード隊長!ドラゴンです!」
「ようし!作戦開始!雪洞にあいつを引きずり込め!」
両端に口の空いた雪洞中央まで、剣士たちが必死におびき寄せる。単に山の斜面に沿って穴を掘ったにすぎない。
「今だ!風魔法を斉射!」
氷竜には、足止めをして苛立たせるだけの効果しかない。が、それが狙いだ。
「GUOOOOOO!!!!!」
氷竜はブレスを吐いて周囲の温度を急激に下げ始める。
「ドラゴンの退路を断て!」「結界を展開しろ!」
氷竜の後ろから追いかける形でやってきた部隊にエドの指示が飛び、氷竜の後ろが落雪によって遮断される。俺の指示でこちら側に結界が展開される。これで一応、ドラゴンは袋のねずみとなった。ますます怒るドラゴンにより、急激に温度は低下する。ドラゴンの周囲にはもはやドライアイスが、液体窒素が形成されていく。とんでもない低温だ。
「シュウ、もういいか?」
「もういいでしょう」
魔法でできた結界に可燃物を投げつけ、一帯を火の海にする。さっさと逃げ出す中隊。
「こっちの入り口もふさげ」
こっちの入り口も雪を崩落させて塞ぐ。
「さて、科学のおさらいだ。密閉した容器内で液体や固体を高温にさらし、急激に気化させるとどうなるでしょうか」
結界が消えると同時にとんでもない爆音が響いた。
「結界が消えた瞬間に高温の火と液体窒素が接触し、膨大な体積の膨張が引き起こされ、密閉されていればそれは強力な爆発となる」
爆発の中心がうまい具合にへこんだため、ドラゴンの残骸(無残すぎて説明できません。)を掘り出した。あらゆるところで注意書きがあるように、興味本位だろうがなんだろうが爆竹を握ったまま火をつけては絶対にいけません。討伐も終わったし、さっさと帰ろうか。
「貴様、あちこちで雪崩が起こって道が通れないではないか。考えてなかったのではないだろうな」
「…道の方まで考えてなかった。すまん」
何とか中隊は帰還した。もともと山登りする気満々だったので、装備は問題なかった。そして自然現象とはいえ山を荒らした俺は、今回は俺だけこってりと教官に絞られることになった。今後もこんなことが続くのかなぁ。早く終わったので休暇が言い渡された。俺は帰るところが無いし、学校にいても教官以外は誰もいないし、購買のバイトの子も最近姿を見かけない。つまらん。…そう思っていたらエドに誘われた。
「貴様も一緒に来い。紹介したいやつがいる」
「…いいのか」
「近衛兵としての顔見せも兼ねている」
端的な表現で、準備していたことが丸見えだ。
「そうか、ならしょうがない。せいぜい宮廷で恥をかかないようにするさ」
「…貴様が来るのは私室で、誰が宮廷に行かせるか」
「げ、まさかお前の護衛という軟禁か!」
「ちょっと違う。議会図書室に軟禁だ」
なに?議会図書室…だと?
「心の友よ~~~~!」
パラダイスじゃないか!
「やめろ!抱きつくな!気持ち悪い!」
投げ飛ばされた。痛い。
シュウの夢は図書館を私有することです。