第2話 ~無茶~
今回はエドワード皇子と一緒に戦わせます。全力で無茶ぶりをさせます。
現在午前の魔法訓練で、二人一組になって魔法コントロールを学んでいる。当然相手はエド皇子だ。
「おい、貴様は本当に初心者か」
「その通りであります。教官殿」
中隊の担当教官によると、俺は魔法に、エドは剣魔法に優れているらしい。
「貴様、センスで魔法をこなすとは、どんな変態だ」
「できるものは仕方がないだろう」
「貴様はあのクレイトス以来の逸材か」
「そのセリフは武魔法で全成績トップであるお前に言われたくないな」
無駄話をしていると、魔法担当にしては口の悪い教官が怒鳴り込んでくる。
「貴様ら二人でクレイトス一人にも及ばんぞ!このクソどもが。のぼせあがるな!」
たとえ何があろうとも教官は絶対。これが士官学校です。
「「はい!その通りであります!」」
だがこの場合、皇子のおかげで多少殴られる回数が減少しているのは言うまでもない。それにしても、現在最前線で戦う「神殺しのクレイトス」がいなければ、前線はどうなっていたか分からない。エドも俺を正面から神獣とやり合って殴り勝つようなやつとは比較しないで欲しいものだ。
「貴様らにはもっとハードな訓練が必要なようだな」
新しいおもちゃを見つけたように嬉々とした顔をする教官を見てこう思う。拒否権ってなんでしょうか。
「「その通りであります。教官殿!」」
「よし!ついてこい!」
こっちって、上級生用の実習区画ではないだろうか。エドに目をやると、あきらめたように首を振られた。あの不審者の襲撃以来、完全に教官に目を付けられたようだ。エドに目で合図を送る。
『エド、お前のせいだぞ』
『暴れたのはお前さんも同様だろうに』
『あの一件後、しばらく購買のバイトの子から怖がられたじゃないか』
目でこんな会話をしている俺らは何者なんだろう。ふとそう思った。客観的に考えて気持ち悪い。
『貴様、気がついてないのか』
『何のことだ。』
『ほら、貴様以外その“バイトの子”なる女の子にはみん―。』
耳に巨声が響く。
「ここに入れくそったれども!」
『空気読めー!』
そう言ってもこの教官には無駄だと思うぞ、エド。空気を読まない教官は、話を続ける。いや、むしろ空気読める教官は気持ち悪いだけだ。
「ここは召喚魔法と精霊魔法の訓練場だ。あたりには十分な結界が張ってあるから、思い切りやっていいぞ。さぁ!シュウ候補生!この間説明したサラマンダーでも召喚してみろ!」
「教官!?」
エドが変な声をあげる。そりゃそうだ。士官学校生が精霊の召喚なんぞ普通できない。卒業→契約→練習→召喚が普通の流れだからだ。普通契約しないと精霊魔法なんて使えないし使わない。が、火のエレメントを感じつつ、教えられたように杖を床につきたてる。
「えいっ。」
「GYAAAAAAAAAA!!!」
……俺が“ギャー”だ。全長4メートルはある燃え盛るトカゲ、いわゆるサラマンダーが出てきた。
「馬鹿と天才は紙一重だな」
出た。なんでだ。そして、どうやってコントロールしようか。何しろ契約していない。
「こんなでかいのを出せとは言っとらんぞ、シュウ候補生。二人で何とかしろ」
「「冗談でしょう教官」」
二人して顔が引きつる。普通このクラスの精霊獣なんて、近衛兵8人がかりでやっと互角の勝負ができる化け物だ。倒せと言うのですか、教官殿。
「いや、一時間後に戻るから、それまでに何とかするように」
燃え盛る炎をよけつつ結界から出ていく教官の後ろ姿に、俺は殺意を覚えた。今俺の隣にいる奴は、召喚した俺に殺意を覚えているだろう。
「で、貴様何か考えはあるか」
「無い。このランクの精霊は小細工でどうこう出来る相手じゃない。俺達の実力じゃどうしようもない。時間まで耐えきって、教官に怒られよう」
「そうだな」
燃え盛るサラマンダーが襲いかかってくる。とりあえずエドを主軸に、俺が援護といったと戦法で時間を稼ぎ、逃げ回る。炎が舞い、エドが飛び、俺は走る。俺だけ地面だ。
「任せろ!」
エドが確実に一撃離脱をこなし、
「シュウ!」
「もうやってる!」
俺が魔法を連続して撃ちこむ。炎にさえぎられ、周囲に魔法の残照が輝く。
「ふん。一枚の絵にしたいな」
「あほか。相手に攻撃が通ってないぞ」
そう言いながら風魔法で土ぼこりを起こす。
「忍法目くらまし!」
「忍法ってなんだ」
会話はのんびりしているが、体は汗だくになって行く。こんなときこそ俺の出番だ。
「秘技! 落とし穴!」
サラマンダーの移動先を予測して地面に穴をあけ、上にかっ飛ばした岩を、落とす!
「しゃああああ! あたったああああ!」
そして、こんなときでも調子に乗るのが皇子様品質だ。
「必殺! 教官への恨み!」
エド専用の長剣が全く止まらずに振られ、一筋のつながった閃光になる。
「き、切れねぇじゃねぇかあああ!」
結局30分ほど当て逃げを繰り返していると、ふと思いついた。剣士を援護?エドをパワーアップさせられないか?そんなことを軍では偶に行うらしいし。剣の強化魔法式を思い出しながら、魔力を行使する。魔法式を理解し、それに慣れると詠唱する必要などない。
「エド、お前の剣を氷系の魔法剣にしてみる」
言いながらエドの剣に魔法をかける。
「馬鹿野郎!そういうことは早く言え!手が凍るところだったぞ!」
エドは剣と手の間に布を巻きつけて手が凍らないようにしている。これなら保護魔法なんて使う余裕はない。
「いいから早くしてくれ。魔法を使い続けるのはしんどい」
この強力な“魔法剣”が“偶に”しか行われないのも理由がある。魔法を維持すると、時間に応じて術者の負担が増大していく。なぜなら世界に反する“魔法”を行使し続けると、それに伴って反動が増大するからだ。そのため、巨大な魔法は精霊という存在を利用して使うのが普通だ。
「そろそろきつくなってきた」
繰り出される炎をよけつつエドが精霊獣に近づく。
「今やってる!」
エドの言葉に、魔法を意地で持ちこたえる。エドが精霊獣の隙をついて剣を振りかぶったのに合わせて魔法を限界まで強化する。
「うおりゃぁぁぁぁ!」「いけぇぇぇぇぇ!」
エドの持つ剣にまとわりつく氷と液体窒素や液体酸素は、精霊獣が生み出す火の光を反射して、あるいはきらめいて気体になりながら、幻想的な光景を生み出していく。さながら、太陽に向かっていく巨大な彗星の様で――
一瞬後に、完璧なタイミングでエドの斬撃が決まった。真っ二つになり消え去る精霊獣に気をやる余裕などない俺は、その場に崩れ落ちた。
「もうだめだ。動けない」
「このヘタレが。俺はまだまだいける」
ゼーゼー言いながらエドもぶっ倒れた。今襲われたら死ねる自信がある。
「ふん、まぁ合格だな」
偉そうなクソ教官の声を聞きながら俺は気絶した。嵌められた。勝たなきゃよかった!
起きた時にいきなり教官の顔なんて最悪中の最悪だ。
「おお、丁度起きたか、便利な奴だ」
「何の御よ……」
声がかすれたので机に有った水差しに手を伸ばす。水が美味い。お茶党な俺としてはこの場合末期症状だ。
「教官殿、何のご用でしょうか」
「うむ」
あんな無茶させておいて「うむ」ってなんだよおい。
「シュウ候補生、貴官には卒業し次第、近衛兵となることが決まった。皇子のお付きである!名誉だろう!喜べ!」
いいえ全く。そんなことを言ったら俺はどうなるのだろうか。とにかく、あいつと知り合ってから一日たりとも心休まる日がありません。
「喜んで務めさせていただきます!」
「うん、そのためにもこれからの訓練をしっかりと行い、兵の手本となるような立派な士官となるのだ!あと五分で次の授業だぞ!」
俺の昼休みが…。どうやらこの学校は子供を崖から突き落とした揚句に這い上がった時点で睡魔というハイエナに襲わせる気らしい。ボロボロなんですが、俺。
「シュウ候補生!次の授業に向かいます!」
「うむ、頑張りたまえ」
体が言うことを効かない。これが狙いか?そう思いながら教室の入り口でエドと鉢合わせした。
「貴様も元気なようだな」
「お前も元気そうで何よりだ」
ふふふ…とお互いを牽制し合う。お互い体はボロボロのはずだ。その後の座学をどうにか寝ないように耐えきった後、その日はそのまま眠りに就いた。回復役が欲しいなーなどと思いながら。
昨日のアレが定期試験…だと?入学時にもそんな話は聞いていない。
「で、昨日のが定期試験だと言うんだな、お前は」
「俺じゃなくて、教官が言ってた。実技が“アレ”になったのは俺達のレベルだとあれ“ぐらい”で“ちょうどいい”と思ったからだそうだ。無謀にもほどがある。」
「筆記の方はどうなんだよ」
「学年首席様が何をおっしゃいますやら」
「なに?そうなのか?じゃぁ、お前の方は」
「俺は次席だ。貴様のせいでな」
悔しい顔をしたエドに思わず顔がにやける。いわゆる「ドヤ顔」だ。
(ドヤ)
「…殺す!」
これがクラスの魔法派と武闘派に分かれたヴィスワ中隊全員の乱闘に発展した。もちろん教官達に鎮圧され、二人とも暴れられなくなるまでこってりと教官に絞られたのは、言うまでもない。こうして、士官学校の一年目が何とか終わった。
このぐらいが作者の現在の限界です。なんとか、日々精進することにします。いつかはもっと綺麗な文章が書けることを目指して。誤字脱字、わかりづらいところなどがありましたら、注意していただけると幸いです。