第14話 ~少数民族~
首相の奥さんが敵対する民族です。そりゃ当然の事態が生じます。
エルフのアルマさんと結婚したことによってエルフと仲の悪い各民族が反乱を起こした。さっさと鎮圧したい。しかし感情的な反乱なので手の打ちようが無い。少数民族優遇制度でも設ければいいのだろうが、能力主義が崩れてしまう。各民族が「独立」「独立」とうるさい。単に民族差別が表面化しただけだろうが、文明化が十分でない今の人間達には差別意識も根深い。当然言っていることも一理はあり、無下にできない。分業制度が成り立ちつつあるこの状況では独立は生活水準を下げる自己満足に過ぎないと思うが……。各少数民族区への投資額の方が多いんですよ。支援を打ち切っちゃいますよ~。と考えるのは悪い癖だろうか。困ったことに一部勢力では武装も始めている。もちろん隣のアヴァリス帝国の支援を受けている。早く叩きのめさないといけない。どうしようか。
「困ったぞ、エド」
「貴様でも困ることはあるんだな」
「感情ばっかりはな」
仕方が無いので、子飼いの武将マルスに軍を率いてもらうことにした。しかし、今回は強いだけでは意味が無いので、ひそかに俺もついて行く。
「マルス、今回は――」
初の指揮となるマルスに指示を与えようとしたが、
「わかっています。任せて下さい」
と聞く耳を持たない。士官学校ではトップで見どころもあったが、どうだろうか。とりあえずは最強硬派のドワーフを攻めてもらおう。軍を送り出す。
「山地での布陣は峰を軸に(以下略)」の書簡に対して、「戦場に居る将に対しては、いかに宰相と言えども口出しは無用です」との返事が返ってきた。
「ならいい」
送られてきた軍の布陣は、定法から外れたものであった。報告では、当然のように各地の洞窟からのドワーフの奇襲を受けた。
「うん、予想通りだ。さすがに山地のドワーフは強い」
そう言って余裕を見せるマルスを先頭にし、軍が算を乱して逃げたそうだ。やれやれ、ドワーフに自治区の提案をしよう。あの地区の役人は、こちらからの役人は引き揚げさせて、ドワーフだけにしよう。教育の差を思い知ってもらおう。まだ独立できるほどの人材が居ないだろうに。あの辺りは苦労するだろうな。同時に、敗戦により各地の民族紛争が激化したので、同様に自治区なり独立公国なり王国なりを認める。当然これまでの支援も法律文書も回収だ。
「マルスに帰還命令を」
「すまなかったな。マルス」
「いえ、生意気な事を言って申し訳ありません」
軍中で本国上層部に配陣まで送るなどと言うのは教えてない。俺の指揮下では有能な指揮官が多いために、指揮権の独立傾向が強い。
「策だろう。仕方がないさ」
各地の反乱は独立によって終息した。しかし逆に各民族では貧困や疫病、餓死までもが発生して社会不安が生じた。結果、バルト帝国への回帰運動が生じて、民族内での争いが起こる。結局3ヵ月程度で事態は大まかにだが沈静化した。そのころには憲法もできたのでさっさと発布した。……まだ文字も読めない地域が多いので、ほとんど道徳法に近い単純なものだ。憲法特有の文の美しさなど無い。
「法律は……各地で変えないとな。手伝ってくれエド」
「あー、そっちはアルマと相談してくれ」
手を振って逃げたぞあいつ。ったく。今アルマさんの仕事量は俺に匹敵しているんだぞ!
「私、頑張りますね」
「頑張らないで下さい」
エルフは体力が無いんだから、体の方が心配だ。倒れられても困――いや。
「アルマさん、これ飲んで下さい。体力が回復します」
「ありがとうございます」
人のいい笑顔で俺の渡した“飲み物?”を飲んでお腹を下し、医務室に運ばれるアルマさん。よし、良かった。医師に絶対安静の指示を無理やり出させて強制的に休暇を取らせることに成功した。結果、俺の仕事量が倍に!
「あはははははははははああはあはっはははあっははあはっはははははは」
仕事過剰による士気高揚だ。
「陛下ー!」
机に運ばせた書類を叩きつけて、ついでに決済やら相談やらの補佐官や官僚を数人置いて行く。
「それは任せますー!」
「なんだこの量は!」
エドが叫んだとたんに、お洒落な机が、潰れた。
「実用的なものに変えておいた方が良いようです。陛下」
撤収!
「フィアー! 手伝えぇえええ!」
「何よこれぇー!」
この日、王宮内各地に悲鳴を響き渡らせた。
「ひゃっはー!」
働き過ぎでしょうか、文字が2000文字に届きません。