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第12話 ~反間~

南のアマゾン国との戦闘です。

 その日から、アルマさんとの同棲生活が始まりました。はじまってしまいました。翌々日の昼にエドが俺を訪ねてきた。へらへら笑いながら尋ねてきた。

「おい、男になれたか?」

「おかげさまで」

エドの顔が凍りつく。「え? 悪い冗談はやめろよ」みたいな顔をするな。すぐに再起動を果たしたのか、顔がいやらしく変化した。

「で、どうだっ」

「誰が言うかぼけぇ」

「ほう。そう言える立場かね。俺様の協力があればこそ……」

「てめぇ悪質な思い付きしかしてねぇだろうがぁ! おかげで成り行きでするような男になったじゃねぇかぁ!」

「やかましい! 俺より先に幸せ満喫しやがってこらぁ! 貴様は考え過ぎなんだおらぁ!」

久しぶりに二人で殴り合いました。と言っても、ほとんど一方的に殴られた形ですが。

「で……だ。水を差すようで悪いんだが、北のティルグラフト連邦から使者が来ている」

ティルグラフトはエルフが人口のほとんどを占める孤立主義的な国家で、現在我が国と協商関係にある。

「ああ、条約の調印の件か。同じエルフのアルマさんが居てくれて良かった」

エドが深刻そうな顔をし始める。表情を作っているのがもろばれだぞ。そんなんで一国の元首が務まると思うな。

「それがな、全権大使がアルマを妻にしたいと言ってきた。言ってきたのは王位継承権1位のさわやか王子様だぞ。結婚の申し込み方も男の俺がほれぼれする程堂々としていたし――」

さぞかし心配だろうとばかりにわき腹をつつかれる。心配には違いない。

「さっき会ったよ。承諾した」

とりあえず「呆れた顔をしてやるか」みたいな顔をして、いかにも適当に

「は?」

と返事をされた。冗談じゃなくて、本気だから。

「嫁にくれなければ戦争だそうだ」

「おい、まさか一人の女のために戦争は起こせませんなんて言うんじゃないだろうな。あれは貴様にはもったいない女だ。手放すな」

暗に、国ひとつ位くれてやると言っている。俺だって国ひとつ位なら潰れてもかまわないさ。俺も彼女を“傾国の美女”だと思っている。彼女のためなら個人の感情で国民の血を流そうが、別に構わない。国ひとつ位くれてやってもいい。あ、あい……あいし……その、死んでもいいんだ。

「今は微妙なバランスの上にこの平和が成り立っているんだ。今崩すわけにはいかない」

「俺は別にかまわん。国民1人守れない国なんぞ意味がないからな」

「南の領土に不安、そのさらに南と東に敵国、本国の西は海だからいいとしても、この状況で他の選択肢はない。確実に東のネミス帝国が攻め込んでくる。ティルグラフトとネミスに同時に攻め込まれては勝ち目がない。エルフは即座に国に引っ込んで、この国がネミスに吸収される。そして南にある宿敵、大国アヴァリスとティルグラフトとの全面戦争になる。世界中が荒れ果てる。最終戦争それだけは避けたい」

その引き金が今回の話になりかねない。

「おいおいおい、ちょっと待て。すると本気か」

「怖い顔をしないでくれ。国程度ならくれてやるけれど、世界規模の人々の命となると話が――」

昔みたいに胸倉をつかんできた。

「他に選択肢は!」

「……」

もう手は打った。他に手があったらとっくに断っているさ。長い付き合いだ。わかっているだろ。

「俺が直接断ってくる!」

「やめろ!」

「くそっ!」

壁がバラバラに切れ、向こう側が見えた。

「親友の妻すら助けられないのか! 俺は!」

「……あと4日、時間がある。」


彼の執務室の扉を開けて机に向っている彼を問い詰める。

「私をあんな男と結婚させるってどういうことですか! シュウ以外の人と結婚するくらいなら死にます!」

視線を合わせてくれません。本気なんですか。いいんですか、泣いちゃいますよ。いつもみたいに、“あたふた”させちゃいますよ。

「今は、こうする以外仕方がないんだ。手が届かなくてすまない」

机を回り込み、座る彼の肩を掴む。顔を覗き込んでも目が合わない。

「目を見て言ってみて下さい。『好きでもない男と結婚しろ』って」

さぁ、早く!

「……」

目の前でうなだれる彼は、目を閉じてしまいました。エルフは鼻が聞くんです。この近さなら、涙が出てきた事ぐらいわかりますよ。

「シュウの為に行きます。シュウのために好きでもない男と結婚します。全部シュウのせいです」

「その通りです」

「だから最後に、シュウの匂い付けて下さい」

彼に抱きついて体をこすりつけます。ああ、シュウの匂いです。

「最後にもう一回だけ、シュウの香りに包まれたいの。向こうに行っても取れないぐらいに匂いを付けて欲しいの」

とたんに、彼が私を押しのけました。

「だめです」

こんなに冷たい声を聞いたのは2度目で、出ていく彼の袖をつかむ事もできませんでした。


 宮殿内でバルト国宰相の評判が最悪を下回ったようです。「あんな良い子を捨てる人でなし」「人間の屑」「悪魔でも契約は守る」「女を売った腰抜け野郎」と、言いたい放題言われています。それを彼女が止める。私の目に狂いはなく、やはり彼女は良い女のようです。先程も私に挨拶に来て、協商関係と両国友好の確認をしていきました。強い女が涙をこらえているさまは、ぐっと来るものがあります。彼女は嫌がる様子もまたすばらしい。このまま連れて帰れるかと思うと、ゾクゾクします。


 結局、大馬鹿シュウは見送りにも来なかった。あのヘタレが。色々と終わった顔をして、使節団と共にアルマがお持ち帰りされていく。不細工に見えるように化粧でもしたようだ。さすがに彼女は気がつくと思ったのだが、“恋は盲目”という言葉はここでも有効らしい。準備が整うまで、ヘタレの親友に仕事にげばを与えに行こうか。

「シュウ、仕事だ」

いつも以上にぼっさぼさの髪で仕事しているこいつを見ると、少しやりすぎた気がする。まぁ、いい薬だろう。

「アドリア領の事だが、逃げだした王子を何とかしてくれ。テロが激しくてかなわん」

死んだ魚でもこんな目はしないぞ、おい。

「アドリアよりさらに南のアマゾン公国に亡命したらしい。少し遠くなるが、頼む」

「……行くよ」

元気ねぇなぁ。少し効きすぎたか。


ソンを引きつれてエドの命令でアマゾン国境まで約5000の軍を進めた。やっと編成できた虎の子の諸兵科連合部隊だ。手紙でも片が付くと思ったが、保護国にする気満々なのでこうなった。一戦交えることになりそうだ。まぁ、向こうも適当に負けてこっちも適当に勝てばいい。

「ソン、どう見る?」

「元アドリア親衛隊をいかに早く叩きのめすかが問題でしょう」

「その通りだと俺も思う。向こうが出向いたらそうしよう。」

しかし翌日、予想に反して敵は未知の部隊を含む軍隊を送り込んできた。右に河川を置いてアマゾン軍は上流、こちらは下流に位置する。丘陵地帯に布陣した。何をしでかしてくれるか見ものだ。

「あれは……何でしょうか」

「わからん。ちょっと聞いてみてくれ。」

「……御冗談を」

「いや、冗談じゃないさ」

初戦にいきなり少数となった重騎兵隊を未知の敵が居る紫色で統一された部隊に突っ込ませる。持っている棒状の物はなんだ。旗が振られると同時に前方の部隊から閃光が騎兵隊に向かって直線に飛ぶ。まるでスターウォ……いや、なんでもない。その敵部隊の後方にある筒からも光線が曲線に飛んでくる。ただ、発射音が無い。無音だ。ソンが意見を述べる。

「魔法銃ですね」

「今研究中のやつだ」

火薬式の物と魔法式の物とが各国で研究されていた。これまで、射程も精度も悪くてどちらも威嚇程度の物しかできていなかった。装甲が貫通されてまたたく間に重騎兵がなぎ倒されていく。射程の短い魔法兵の欠点を改善し、さらに攻撃が直線的になったことで命中率も高くなっている。仕組みを知りたいものだ。そうこうしているうちに効果があるとわかった敵は紫の部隊を前面に押して攻めてきた。

「このままでは負けです。ご指示を」

真剣な顔で聞いてくるソン。そんなに期待に満ちた目で見られても何にも出ないぞ。

「面倒だから適当にやっといて」

「は?」


 三回戦って三回負けた。引きに引いて、現在は河を挟んで対陣している。

「閣下! 酒をおやめ下さい! 軍中ですぞ!」

ソンの諫言も無視して酒をかっくらい、辺りからの反感を食らう。兵たちの士気は下がる一方だ。

「指示はこの紙に書いといたから、後やっといて」

「閣下!」

さらに翌日、敵が渡河しての攻撃を仕掛けてきた。光の線を避けようとして、逃げる兵たち。もはや逃げ慣れている。

「閣下もお逃げください!」

ソンが奮闘している中、本陣まで敵の兵が近づいて来た。鉄を使わない独特の装備はアドリアの親衛隊だ。

「侵略者め! 覚悟しろ!」

聞いたことがあるような気がするが、ま、さっさと逃げ出すか。敗走する味方と追う敵の図ができた。さ、もういいだろう。隣のソンにうなずく。逃げる味方が歓声を上げて一斉に反転する。聞き覚えのある声で、

「ははは、やっと立ち向かう気になったか侵略者め! 軍中でも飲んだくれるアホはこの状況で反転するのか」

笑い声が腹立たしい。その上、内通者がいることをあの元アドリア王子はばらした。その笑い声とともに辺りからわらわらとバルトの精兵が湧いてくる。この至近距離、この複雑な障害物のある地形では、河川の多いアマゾン特有の強力な弓も、自慢の魔法銃部隊も宝の持ち腐れとなる。それに、包囲環境下でどうやって勝つと言うのか。

「俺が理由も無く酒をかっ食らう訳がないだろうが。間抜けめ。エルフと付き合う意味が解って無いようだなぁ! あぁん! 酒も! 肉も! 魚も! 食えないんじゃボケぇ!」

後半は八つ当たりに近い叫びとなる。ちょっと現状を思い出して鬱になる。

「閣下……」

「同情なら止めてくれ。それより、アマゾン軍に降伏するようにと」

「はっ」

指示もしていないのにアマゾン軍がアドリア親衛隊を攻撃し始め、一刻程度で一方的な戦闘が終わった。テロリスト一掃作戦完了だ。やっぱりちょこまかと永続的にテロをされるよりも、一ヶ所にまとめて叩いた方が楽だ。それにしても包囲殲滅は2度目か。よくもまぁ嵌ってくれるものだ。職業軍人が指揮すればこうはいかないだろう。属国になったアマゾンから新技術を持ち帰ろう。ソンが報告書と一緒にやってきた。

「今回の報告書です。負傷者258人、戦死8人です。それにしても、これで予定調和が成りますな」

これで潜在的な国力は大国アヴァリスに匹敵する。

「まったくだ。……成る? “成った”の間違いだろう」

「本国に帰れば解りますよ」

アマゾン国に国力とその気があれば、恐らく負けていたでしょう。いつだって一方的な戦闘になるのは新技術がうまく使われるか、感情的せいじてきに勝っている時だけです。

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