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第11話 ~国取り~

どんどんぼろぼろになっていきます。シュウの賭けは外れたようです。オッズは良い感じだと思ったのですが。

 王宮内は、実に交易が盛んな国らしい珍品で溢れていた。

「こちらでしばらくお待ちください」

「待ちましょう」

応接間の様だが、どちらかと言えば私室だろう。アドリア王のタリが出るか、刺客が出るか。ユウに連れられて大仰に入ってきたのは、

「アドリア王、タリである。バルト帝国よりの使者よ、遠路はるばる御苦労であった」

王だ。年相応の格好にごく普通の礼装であり、奇をてらわない人物であるようだ。敵国である人間に礼を忘れないあたり、見事な外交手腕を持つと言えよう。外交は怒ったら負けであることが多い。

「ねぎらいの御言葉、有り難く思います」

2人とも俺が直答した事に目を丸くした。

「私は帝国宰相シュウ・トレヴィルであります。この度、我が主である皇帝エドワード一世陛下の代理として参りました」

さすがにここまでは予測できなかったようで、興味深い表情の変化を見せてくれる。ここで、「では、人質になっていただこう」と言って欲しい。欲しいが、国際的なバランスを考えると無理だろう。

「それで、降伏でも勧めに参られたか」

「その通りです。民もそれを望んでいるでしょう」

貴国の政体はもう古い……とはさすがに言わないが。

「見返りに、何をいただけるのかな」

「アドリア人民の安全です」

「不足である」

「それ以上を望まれない方がよろしいかと」

アドリアの中核をなしている商人たちは我がバルト国の政体に賛同している。関税も統一によって下がるし、街道の安全も確保される。それに私掠船も減少する。

「いや、もうひとつ条件を飲んでいただく。この者を牢に入れて拷問にかけよ。よの軍のかたきだ。それで我が国は貴国に降伏してやろう」

「陛下!」

……なんと……。王は感情を優先するらしい。俺としては自業自得だし、市民感情を和らげる点では効果的であり、現政権への支持を減らして次の政権への移譲をしやすくする効果がある。どうせ俺は戦力にならんし、いいか。


処刑台から降ろされたのはそれから一週間後だった。

「シュウ、遅くなってすまない」

「何、これ――ら――」

「医者はまだか!」


「水――」

知らない天井だ。これで何度目だろうか。知らない天井と言う存在に呪われているのではないだろうか。まぁ、いつもの半分しか見えないから良しとしよう。

「ほら」

差し出された水を“んぐんぐ”と“ごほごほ”の交互に音を出して飲んだ後、エドに聞いた。

「上手く行ったか」

「無条件降伏だ」

しばらく沈黙した。エドの目が泳ぐ。

「……自殺か」

ほっとしたような声でエドが返事を返した。

「自殺した」

アドリア王は自殺したようだった。当然だろう。国民の支持も、外国の支持も失ったのだから。少し、自責の念が無いでもない。

「子供は」

「生きていると思う」

『思う』か。ならそっちが問題だ。

「たしか1人息子で、名前はユウとかいったな。」

男だったか。それにしても、王子様町に出過ぎでしょう。その分町の人間からの支持は厚そうだった。担がれなければいいけれど。

「確認だが、逃げら」

「れた」

やれやれだ。のんびりと暮して頂けなくなったって事だ。まさか国の復興なんて考えちゃいないだろうな。あった印象から思うに、あっさりと現実の前に押しつぶされそうだ。

「馬鹿野郎」

「病人だからいたわってやればこいつは」

「ふん。それなら向こうの部屋にアルマが居るのはなんでか教えてくれ」

彼女が好む花の移り香がする。

「それはだな、その、勝手について来た」

「話したな」

しかし、今度は足をやられたか。左足が全く動かないし、右足がうまく動かせない。

「貴様もそろそろ肉をたらふく食べ飽きた頃かと思って」

また野菜生活に逆戻りだ。アルマさん、食事を作ったり一緒に食事したりする分には良いけど、彼女といると野菜しか食べられない。彼女のいる時に肉を食うほど無粋ではないつもりだ。好きだが、嫌いだ。

「もう少し肉とか魚とか食べたかったです」

うるうる

「その体だしな。しばらくは良いんじゃないか」

「エルフと一緒で食えるわけないだろ!」

目線でそう語ったらエドがニヤついたので殴ろうと思いましたが足が動かないのでやめておいてやりました。

「だれも一緒に食事させるとは言っていないぞ」

「っ」

指も動きが鈍いし、左腕も上がらない。

「ここには通訳として来てもらったんだが」

「ぐっ」

あちこちの火傷の痕と切り傷が痛む。さぞや良い顔になっただろう。

「そうか、そんなに一緒に居たいか。なら仕方がないな。アルマ、入ってくれ」

俺を見て怒って泣き叫ぶ彼女をなだめるのに苦労しました。話して無かったのかよエド。

「もう離れるわけにはいきません。シュウ……ひとつだけお願いがあります。私を死ぬまで傍に――」

今回最大の拷問だ。それを今聞かれたら――首を横に振ってしまう――青は藍より出でて藍より青し。結局ブルーになるのか。

「待て、アルマ。その話はこいつが落ち着いてからした方が良い」

彼女が断られるのが解るこいつは、止めた。いや、もういいエド、もう終わりにしよう。終わりにするんだ。

「いや、エド言わせ――」

ごほっ。違っ。

「ほら、さっさと寝ろ」

本当に体が言うことを聞かない。拳ひとつ避けられないとは。

「アルマさ――」

ぐぶっ。

「愛しています」

天罰なのかどうかは知らんが、困ったものだ。もう全てから逃げられない。

「何? 俺の取り越し苦労か。やっと貴様にもおとこが戻ってきたか」

え、片方取られて無いんだけど、良いのか?こんな中途半端でロマンチックさのかけらも無い告白で。『もっと良い場所で告白しろよ、ヘタレが』とエドの目が語っていた。


 翌日、エドの率いてきた部隊を見て驚いた。全員騎兵だ。それにしても、俺が頼んでおいたはずなんだが、ここまでの部隊に仕上げるとは、

「なかなかやるじゃないか」

「そうだろう。俺が直々に鍛え上げた」

「……使いづらい」

「そういうな。文字も読めない人間をひと月でここまで鍛えたんだ。エリートだと俺が口を酸っぱくなるまで言ったおかげだぞ」

確かに『お前たちはエリートだ』と言って激しい訓練をした部隊と、何も言わずに同じ訓練をしたやつらでは脱落者の数も仕上がりも違う。エドは相変わらず人使いの荒い人間だ。その最中、

「敵襲!」

「市街戦だな。エド、歩兵隊にして率いてもらうが大丈夫か」

「は? 率いてきたのは騎……」

「まぁ、そういうことだ。市街戦は錬度と経験の差が顕著に表れるし、簡単だろう」

そして俺は輿に乗っけられて戦場に向かわされる。ん、輿?

「エド、俺も行くのか」

「一緒に来い。たまには俺の隣にいろ。指示アドバイスを出してくれ」

「それなら、各門を制圧しておいた方が良い。火が燃え広がる前に捕まえておこう」

各地で民族独立運動なんてされたら平和が崩れる。民族自治や、地方自治、文化の尊重、それ自体は良い名目だ。しかしそこに公平さを敷く体制があればこそだ。それ以外では各地のいがみ合いや反発が戦乱を生む。所詮人などそんな程度のものなのだろうか。自分の考えに同調しない人間を排斥するのが務めのように行動する。かく言う俺のこの考えもそうか。まぁ――

「どうしたボーっとして。鎮圧法だが、一気に包囲して叩きつぶすか」

「血を不必要にまき散らして市民の不安をあおる必要も兵力を分散させる必要もない。降伏するやつはとっ捕まえていこう」

「わかった。徐々に追い詰めていく。伏兵への備えはどうする」

「大丈夫だ。商人と市民にはこちらの暮らしを宣伝している。味方に就くのは金と名前に目がくらんでいる人間と、悪党アウトローだけだ。土地勘は騎馬の機動力で何とかなる」

「なら大丈夫か」

胸甲騎兵、弓騎兵、魔道騎兵が各門へ散らばる。支持を飛ばしていると、民家の屋根の上に仁王立ちした王子ユウが現れる。

「おい、侵略者! この国は自由にさせない! 今なら許してやる! 国を返して帰れ!」

困った奴だ。

「国はお前のものではない。」

「お前ではない! 私はこの国の王子だ!」

はぁ。こんなのが居るから世界が悪化する。まぁ、こんなのが居るから政治が安定するのか。信じる奴が居るから政治しはいが安定する。当人が信じたら悲劇だが。

「言いなおそう。国は個人のものではない」

「主権は王族のものだ!」

んな訳あるかボケェ!

「いくら一人に権力を集めようが、いくら各個人に人権があると言おうが、国とは集団なんだ。誰が上に立とうと、集団が望まなければ認められない」

「王権は神から授かり、この国の人間が認めたものだ! 私が正当なのだ!」

「俺たちはこの国の商人から交易路の保護による支持を、農民からは農具の普及によって支持を受けている。市民からは町の整備による支持が得られるだろう。お前には何がある」

結局、誰が上に立とうが農民は田を耕し、漁師は魚を取り、パン屋はパンを焼いて生活する。意識的に酷い事をしない限り、無理して何もしようとしない限り、誰がやっても人々の生活はそんなに変わらない。彼らに何か今までよりも良い暮らしや特権を与えない限り支持は得られない。

「俺はこの国の出身おうぞくだ! 俺以外にこの国の民を導けない! 俺はこの国の民を知っている!」

かといって彼らを保護してばかりでは金が無くなる。俺が俺がと、民衆とは何とも言えない無謀なやつらだ。あいつらが犯罪も犯さず隣同士で助け合い知識を蓄積し続け無駄遣いもしなければ別に国を保たせなくてもいい。税金を集めて再分配するだけで結構な金がかかる。もったいない。国は生産を集めて再配布するのが仕事だから、政府の仕事は本来マイナスだ。「政府なんて本来無い方が良いけど、そうもいかないんだよなぁ。政府の仕事増やすとマイナスが増えるし」と何度ぼやいたことか。あれ、今あいつなんて言った?

「とにかく地方の官僚をしてみないか。人種も性別も経歴も問わない。やる気と能力だけ持ってきてくれ。その経験が今は欲しいんだ。功績があればアドリア全域を任せてもいい」

「侵略者の犬になどなり下がるものか!」

顔を真っ赤にして屋根の向こうに消えた。頼むからこれ以上人命と金を無駄にしないでくれ。

「エド、いまは任せる。輿に乗っているのも疲れるんだ」

「1刻で片をつけてやる。アルマ特製の趣味の悪い茶でも飲んでいろ」

「それは聞き捨てならないな」

移動時は騎乗し、戦闘時は下馬する高速戦闘によって土地勘のあるユウ派の人間達を時に捕まえ、時に殺して鎮圧していった。精兵の鋼鉄の規律と教養を見た街の人間は、ほとんどこちらの味方だった。

「あっちに行きましたよ宰相様」

「かくまう人間はあの家ぐらいですぜ」

「キャー! エドワード様―!」

ん、最後のは――まぁとにかく略奪の厳禁と紳士的な態度で、この時代はこれだけの支持が得られる。権力の危うさを再認識した。本当に1刻でユウを追い詰めた。

「追い詰めたよ、ユウ。もう良いだろう。降伏してくれ、街にこれ以上迷惑をかけたくない」

「シュウ、俺は絶対に屈しないからな。絶対にこの国を取り戻してやる!」

「まて!」

逃げられた。

「あれはこの後も国の復活を狙うのか」

鬼ごっこにうんざりしたエドが聞いてきた。

「それなら今後容赦はしない。親父のかたきの俺を狙うのなら……そのうち相手をしてやろう」

「おい、死ぬなよ」

「……仕事が終わったら殺されようかと思っている」

それならアルマさんも俺から早く自由になれる。考えたくはないが、爺さんになってぼけて役立たずになった俺の面倒を、若いままで未来あるアルマさんに見てほしくない。そんなわがままを口にする今日。全力のエドに殴られた。ありがとうよ。

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