第三話 好きの方向
それからも二人で作業して、私は唐突に口を開いた。
「秋葉は好きな人いる?」
それは私がずっと気にしていたことだった。親友である秋葉に好きな人がいるなら協力してあげたいと思うし、祝福だってしてあげたい。だから聞いたのだった。
「文香は・・・亮が好きなんでしょ?」
「えっ!なんで知ってるの?」
私は慌てたが秋葉はいつも通りに微笑んだ。
「・・・小さいころから好きだったの。秋葉や周りの人は皆気付くのにね。」
文香は小さくため息を着くとまた作業に戻った。
すると暫く止まったまま動かなかった秋葉がガタンと立ち上がった。そしてツカツカと私の前に立って・・・私にギュッと抱きついた。
「あっ秋葉!」
何がなんだかわからずにうろたえる私を他所に秋葉は腕に力をこめる。
「ごめん。・・・ごめんね・・・。文香・・・。」
「秋葉?」
聞き返しても秋葉はもう何も言わずにただ俯くだけだった。
その時に気付きべきだった。
秋葉の叫びに・・・心に・・・。
それでも何も無かったかのように時間は進んでいく。
あの後すぐに道で貰ったという花束を抱えた亮が教室に入ってきたのだ。秋葉はそのあとも無言のまま黙々と作業に没頭していった。
三人の中に無言の膜が出来上がっていた。
秋葉とも亮とも離れた場所で作業をする私はなぜか二人とは全く別世界にいるかのような錯覚さえ起こしてしまうほどに遠かった。
「秋葉・・・。」
亮がそう呟いた。きっと秋葉には聞き取る事は出来なかっただろうその呟きは私の心を傷つけるには十分だった。
いま気付いた。
気付いてしまった。
亮は・・・秋葉が好きなんだ。