第二話 日直
ここから学校までは普通に歩けば三十分。でも文香はその時間を十分に縮めることの出来る近道を知っていた。走り出してすぐに通学路からそれた細い路地に入いった。そこは昼間こそは人でごった返しているが、朝のこの時間はガランとしていて人一人見当たらない。
この未知の存在を知ってから文香は遅刻したことは一度もなかった。
そうとうあせっていたためか本来なら十分かかる道のりを五分で進んだときはさすがの文香も驚いた。でもそんな事を気にする暇もなく文香は必死に廊下を走った。
文香の通う東映高校はとても広くて校内を覚えるのに、普通の人なら一年生の丸一年間を費やしてしまうという恐ろしい学校だった。
やっと覚えた二年A組までの最短距離を走る。下駄箱から教室まで走って五分。
私は息を切らして扉を開けた。
「秋葉!ごめん。私・・・。」
私の予想通り、秋葉はすでに仕事の半分以上を一人でこなしていた。私の存在に気付いたのか秋葉はゆっくりと顔をこちらに向けた。
「あ、おはよう文香。」
秋葉はまるで私が遅刻したことなど関係ないというように微笑んで挨拶をしてくる。
「あ、おはようって違くて・・・ゴメン。後は私がやるから!」
私は慌ててて秋葉の手にしている花瓶を受け取った。というより奪った。
でも秋葉はきょとんとして止まったまま私の顔を見た。
「何言ってるの。私も日直なんだから文香だけやらせる訳にはいかないわ。」
すると今度は徐に台ふきを手にして教台をふき始めた。
「いいって。私が遅刻しちゃったんだし・・・。」
私がまたも反論すると秋葉はにっこりと笑って、私に向き直った。
「文香が走ってきてくれたから・・・もういいよ。それに私は文香が好きだから。やらせて・・・ね?」
そういって私よりも十センチほど身長の低い秋葉はおねだりする子供のように上目使いで見上げてくる。
「う〜。」
秋葉は知っててやっているのだ。私がその表情に弱いことを・・・。それをやられるとどうしても許してあげたくなる衝動に駆られる。
「ありがとう。」