第1話 今日から新学年
満開の桜が並び、花びらが舞う。
天から降り注ぐ暖かい陽気は、新しい出来事や出会いを運んで来てくれそうな気持ちにさせてくれる。
そんな春真っ只中、明星学園では入学式と進学式を終えたところだった。
「ぬは~」
統夜は明星学園高等部の二年生になったばかりというのに、机に寝そべって情けない声を出してだらけにだらけまくっていた。
いや、統夜のいるF組の面々を見てみると、どれも似たようなものばかりだ。全員からやる気と覇気が感じられない。
しかしそれは仕方ないことだ。
入学式などで毎度と言っていいほどの学園長や理事長の長い挨拶。生徒会長が面倒くさいとの事であいさつを直ぐに終わるのが唯一の救いか。
そんなだらけきったF組の教室のドアが音を立てて開かれる。
一部の生徒は「早く帰りたいよ~……」や「学園長、絶対ワザと長く話してやがった、あの見下すような視線は間違いない」、「学園長死ね。氏ねじゃなくて死ね」などと言って教室に入ってきたものには一切興味を示さず、残りは期待しても無駄だと絶望した目で顔を僅かに上げて確認するのみ。
「あ~、お前等。ちょっとくらい興味を示してもらってもバチは当たらんと先生は思うんだが?」
教室に入ってきて教卓の前に立ったのは、F組担当となった幸薄い顔に冴えない風貌をした遠藤元明(27歳・独身彼女無し)。あまりの教え子達の惨状に僅かな期待を持って声をかける。
「寝言は寝て言え」
「あれ? なんか電波が届いたよ」
「安心しろ、その電波受信したのはお前だけじゃない」
「この世の理に喧嘩を売っていとしか思えない発言だな」
「ハッ」
「はいはい、バロスバロス」
「……はぁ」
etc……
しかし、愛すべき教え子達の反応はありえないけどひょっとしたら、という期待を跳ね除ける所か○○(閲覧削除)を○○○○○○(閲覧削除だってば)、○○○(えつらんさくじょだよ~:ver幼女声)にした後○○○(閲覧さ・く・じょ♪)にするようなものだった。
「お前等揃いも揃っていいたい放題言いやがって! 寝言は寝てからじゃないと言えんわ! それにお前等、電波は耳で受信出来ません! 今の俺はそんなに世界から嫌われてんのかねぇ!? 鼻で笑った奴、バロス言ったやつは後で職員室に来るように。大事な話がある。俺たちだけでO☆HA☆NA☆SIしようじゃないか。溜息ついたやつに聞きたい。そんなに俺はダメな存在なのかねぇ? 泣きたくなって来るんだが。その他大勢の奴ら、お前らそんなに俺みたいなおっさんをいじめて楽しいか?」
非情な教え子たちの言葉に律儀にも一つ一つ突っ込みを入れていく元昭。精神のライフポイントがゼロに近いというのに本当にいい先生である。
こんなクラスの態度に心折れない訳は簡単。去年、一年の時もこのF組は同じメンバー、同じ教師なのである。このクラスに一年耐えた元昭の精神は、ある意味明星学園の中で一番図太いのではないか、それが理由で今年もこの混沌としたメンバーが集まるF組を担当することになったんじゃ無いかと思う統夜だった。
ここまで混沌とした雰囲気を形成するのには理由がある。
明星学園は新学年に上がるときに行われるクラス分けで、成績の上位者から順番からアルファベット順にクラスに入れられるのである。優秀なものが集まるA組に対し、F組は最底辺の学生が集まるのである。
本来のF組も今年の高等部二年以外は成績は悪いながらも、上を目指したり勉強熱心なものがいたりとまともなクラスもある。
しかし、このF組だけは何故か、この学年の問題児だけが集められているのだ。魔法は苦手だが、優れた魔法具を作成することが出来る者もいれば、勉強一切出来ない、でも魔法だけは一部優秀(主に超火力など偏っている)いたりする者もいる。
これだけ見ればまだ普通(?)なのだが、それの優秀さを打ち消すほどの問題があるのである。
ある者は人に魔法を撃ったときの感触が忘れられずに、昂ぶる精神を抑えるために薬を服用。
またある者は奇妙は装置を作ったと思えば、その装置により一人の人間がこの世界からいなくなった。(死亡は確認されていない)
そして数人が徒党を組んで、小学部の方で「YesロリータNoタッチ」などと言いながらハァハァしていると不審者と判断され、通報されたものもいる。
そんなクラスメイトを思い浮かべ、統夜は(一応)恩師である元明を励ますつもりで声を掛けた。
「先生。人間、諦めが肝心ですよ?」
「ブルータス、お前もか……」
元気づけたつもりだった統夜の一言だったが、元昭は問題児を集めたF組の数少ない良心の一言に止めを刺された。
そんなカオスな空気が蔓延するF組の空気を変えるかのごとく、バンッと机を叩く音が教室に響いた。
「おい! お前らいい加減にしろよ! いくらなんでも言い過ぎだろう!!」
「い、委員長……」
一年の時に委員長を務めていた男子が声を上げたことに、元昭はホロリと涙を流した。
「そんなこと言ってたら、余計に時間がかかって更に帰る時間が遅くなるだろうが! こちとらさっさと家に帰って『虐殺魔法少女・レインたん』を見なきゃいけないんだよ!! あ、い、痛い! い、石を投げるのは止めろ! ちょっ、だからってカッター投げた奴誰だ!? 表へ出ろや!」
委員長が魂の慟哭を上げるとすぐさま大ブーイングと共に色んな物が投げ込まれる。
担任の元明は完全に忘れ去られているのである。「クソァッ! そんなこったろうと思ってたわ!!」と魂の叫びを上げ、悔しげに涙を流す。哀れなり。
結局、さっさと帰ろうやと全員の気持ちが一つになり、実力テストが翌日に行われるという担任のどうでもいい報告を聞き流して今年度最初の登校日は終わった。後で職員室に連行された二人の生徒と、生徒会室に来いと言われた統夜を除いて。
「なんのようだ?」
生徒会室に入った瞬間不機嫌さMAXで統夜は、毎度のこと面倒を持ってくる会長と書かれたプレートが置かれている机に構えた優男風な男子――関本一輝に問いかけた。少しだけ視線に殺気を乗せて。
「そう、イライラしちゃだめだよ?」
そんな統夜の殺気も空しくへらへらとした調子で一輝は受け流した。
「ゴメンね、神崎君。諦めて」
凛とした雰囲気をもった黒い髪のポニーテールの少女。高等部二年生、生徒会副会長――時野刹那が同情の視線を持って統夜に謝る。
ゴメンと言うくらいならこの会長の性格を矯正してほしいと統夜は思った。
「そういえば……」
誰にも聞こえないくらい小さなつぶやきを漏らす。
刹那の言葉で思い返すのは自分が担任に向かって言った言葉。
『人間、諦めが肝心ですよ?』
一瞬の沈黙。
その間も一輝は何を考えてるのかわからない笑みを浮かべている。
「…………まあ、いいか。で、何の用だ?」
どこか諦めた様子で統夜は用件を聞くことにした。
「キミならそう言って――」
『さっさと言え!』
本題に入るまでが長い一輝に、統夜と刹那が声を荒げる。
「はいはい。ええっとね、とある女の子の護衛を頼みたいんだ」
「………………ハァ?」
「女の子の、護衛を、頼みたい、んだ。少し詳しく言うと、今年中学部の三年に転校してきた女の子」
統夜の中では、なぜ自分が? 対象が女の子なら男である自分よりも女のほうが色々と護衛もしやすいんじゃないのか? それ以前になんで俺に毎度厄介事が押しつけられんだよ!? などと最後は嘆きの言葉が入っていたが様々な疑問が渦巻いていた。
「いやね。相手側のほうが選んできた」
「どういうことだ?」
統夜の問いに「そろそろ来る頃だと思うよ?」と言って返した一輝に応えるかのように生徒会室の入口が開いた。
「お待たせ」
生徒会室に入ってきたのは堂々とした様子の春川悠だった。
「なんで悠が……」
確実に護衛がいらないであろう悠が入ってきたことに若干驚いた様子の統夜の言葉は「入ってきていいぞ」と悠の言葉に遮られた。
「し、失礼します」
緊張した様子で入ってきたのはショートカットで幼げな顔立ちに、クリッとした目、身長が望の肩辺りなのがさらに小動物の雰囲気に拍車を掛けている女の子。
「私の従妹の望だ。よろしく頼むぞ」
「は、春川望です。よろしくお願いします」
イメージは堂々とした姉に、おっかなびっくりした様子の妹。正反対だな、と統夜は思った。
梅雨の季節に入ってきた最近、ゲーセンまで遊びに行くのに隣町までチャリンコで行って雨降ってきたら泣きそうなからすけです。
この作品、主にコメディー重視になりそうです。コメディー八割その他二割ぐらいですかね。
シリアス? なにそれおいしいの? といった具合になるかもしれません。
夏といえば海とかカキ氷を連想しますが、自分の場合はGの出現が大部分ですね。
最終生体兵器やブラックデビルキッチンワームなどといった別称がある奴らが、電気消してさあ寝ようと言ったところで真横に出てきて、考えていた小説の内容も吹っ飛びましたww
次もちゃんと更新できるように頑張りますのでよろしくお願いします。