表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心中台本ー改ざんされたシナリオー  作者: 麻木香豆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/33

第二十七話 門倉

 辻村は「よし」とひとつ息を吐いた。


「……んで、そいつらすぐに門倉に“動画見せろ”って言ったらしい。最初はスマホで見てたけど、『もっと大きな画面で』って言い出して……学校のパソコンで門倉に開かせた。門倉が断ろうとしたら『じゃあ保護者や校長にチクるぞ』と」


 それが、門倉のパソコンで動画サイトへのアクセス履歴が残っていた理由だった。


「最初は門倉も嫌々だったろうさ。でも一度流れに乗ってしまえば止まらない。そいつらも、次第に自分たちの性癖に合う動画をリクエストするようになって……最後には、IDまで共有して勝手に見始めた。バカな奴が1人、自分のIDで門倉のPCにログインしたせいで、すぐに足がついたんだ」


 野々宮と辻村は言葉を失っていた。


「それだけじゃない。うちの前の制服な。AVの小道具に使われてたやつが、門倉の前職場経由で出回ってて……。ツテを使って、そっちの業者とつながってたみたいだな。で、今度はその生徒の制服を……裏サイトで売ってた。もうどうかしてる」


 辻村が低く唸る。

「……で、それが問題になった?」


「いや、それで終わらなかった。調子に乗った一部が、さらに“リアルなものが見たい”って言い出した。門倉に“自分の女との行為を撮影して見せろ”ってな」


「……まさか断っただろ」


「断ったよ、最初は。でもヤツらは脅した。『今までのことをバラすぞ』ってな」


 その時、藤守が小さく笑った。


「で、映ってた相手が……友里恵先生だったわけ」


「――……付き合ってたってことか?」


「らしいね。10歳以上の歳の差もあるし、まさかとは思ったけど……まあ、周囲は驚いたよ。で、そいつらはまた脅しの材料が増えたと喜んだわけだ。『その関係をバラされたくなければ言うことを聞け』と。ちょうどその頃、門倉が“しんじゅうひめ”の演出担当に決まった」


「……ああ、あの演劇か。主演が友里恵先生だったんだよな」


「そう。ヒロイン“姫”役は事前に公開されてたが、“王子”役は非公開。当日までのサプライズだった」


 藤守は言った。


「王子様役は――門倉だったんだよ」


 辻村が息を呑んだ。


「そんなの……誰も知らなかった。信じられない……」


「……野々宮、お前は知ってたのか?」


 辻村が問うと、野々宮は小さく首を振った。


「全然。せめて学年主任の僕に、一言あってもよかったのに……」


 その時、藤守が口を挟む。


「門倉くん、“終わってから伝える”って言ってたよ。友里恵先生には、結婚を前提に付き合ってた。でも――自分は警察に出頭するつもりだった。だから、最後に劇をやって……それで全部終わらせたかったんだろうな」


「そんな……」


 野々宮が呟く。


「しかもその劇も、ただの演出じゃなかった。台本が、変わってたんだよ」


 辻村が立ち上がる。


「……いつものラストじゃなかった。“来世では幸せになりましょう”じゃなくて、“君には光の中で生きてほしい”って……明らかに、何かを背負った言葉だった」


「確か……印刷直前に、門倉先生が“少しだけ直す”って言って、到着が遅れた……」


「だろ? その時点で、もう自分の結末は見えてたんだ。台本は、友里恵先生への――懺悔だよ」


 辻村はスマホでスキャンしたデータを開き、2人で読み返す。


 違和感の正体が浮かび上がる。


 


 旧版(3年前)


 王子:来世では──君と手を取り、笑って歩きたい

 姫 :ええ。今度こそ、悲しみのない世界で

 王子:約束しよう。必ず、幸せにする

 姫 :うれしい……それまで、眠りましょう。あなたと共に


 


 昨年の改稿版


 王子:来世でも、君の隣にいられるだろうか。過去の重さが、それを許すなら──

 姫 :私は、あなたとなら。苦しみも痛みも、分け合って歩めるのに

 王子:(首を振り、姫の手を取って)

   君には、光の中で生きてほしい。僕の影は……僕だけのものだ

 姫 :来世では。光も影も、ふたりで包み込めるはず

 王子:蝶となって、もう一度、君を見つける。

   その時、君が許してくれるなら……共に空を飛ぼう。そうでなければ……


(ふたり手を取り、舞台奥へ。暗転)


 


 

「……贖罪だな。門倉先生にとって、この劇はプロポーズじゃない。最後に彼女に選ばせたかったんだ。罪を背負って共に堕ちるか、それとも別れるかを」


 その時、藤守がくすりと笑う。


「お前ら、息ぴったりだな。大学の“友人”ってだけじゃなさそうだな?」


 野々宮が戸惑うが、辻村はそれをスルーした。


「……でも、もし友里恵先生が事前に門倉の過去を知ってたら、劇は中止されただろうな……」


「……ていうか、知ってたんじゃないか? 誰かが彼女に伝えたとしたら……」


 辻村と野々宮は、同時に藤守に目を向けた。


「――ああ、俺が全部話したよ。友里恵先生に。あの朝、職員室でね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ