第二十四話 歪んだ大人たち
昨年の心中事件、そしてAV動画による制服の悪用と流通――世間の注目を一身に集めた騒動から一年。
またもや、白常盤学園高校は渦中に巻き込まれた。
夏休み明け、突如発覚した複数教員の逮捕、そして校内での白骨遺体の発見。
遺体の身元は当初不明だったが、遺留品や歯型の照合により、昨年夏から行方不明となっていた教員・門倉誠吾であると特定された。
司法解剖の結果、白骨化されているため具体的な時期はわからないが休職を伝えた夏休み明けから連絡が途絶えた学園祭後の約二ヶ月の間とされている。
この事態を受け、学校側は全面的に警察の捜査に協力。生徒の安全と報道対応のため、二週間の臨時休校が決定された。
さらに、予定されていた今年度の学園祭の中止も正式に発表された。準備も始まっていたため生徒たちの落胆と悲しみとどこにやればいいかわからない悔しさ……これは相当なものだろう。
3年生の学年主任である野々宮は、自身のクラスの対応に加えて、同学年の担任教員たちからの報告を取りまとめる役割も担い、心身ともに大きな負担を抱えていた。
その姿は、一年前の事件を思い起こさせるものだった。いやそれ以上……。
事件と休校措置、更なる教員数の減少を受け、周辺の教育機関や大学、企業などからは、高校の生徒に対する支援の表明が相次いだ。
進学を控える三年生にとって、この時期はまさに人生の岐路。
複数の大学では、「出席日数の不足や学校行事の中止が不利に働くことはない」と明言し、推薦入試や総合型選抜でも柔軟な対応が取られる見込みとなった。
教育委員会も「希望する生徒には、近隣校への転校支援を行う」と発表し、すでに数名の生徒が新たな環境での学びを選び始めていた。
ただ、こうした転校の話は昨年の事件直後から一部で検討されていたものであり、今回の発表はその延長線上にあるものだった。
一方で、「この学校で最後まで学びたい」「問題があっても、自分たちの居場所はここだ」と語る生徒や保護者も少なくなかった。
「逃げるように出ていくより、自分たちで立て直したい」
「問題があっても、ここが自分の居場所だから」
そんな思いを胸に、残る道を選んだ生徒たちも多かった。
それは決して楽な選択ではない。
だが彼らは、昨年と同じように、いやそれ以上に強い覚悟をもって、再び歩み始めていた。
そして今回は、昨年の混乱を教訓に、より迅速かつ丁寧な支援体制が整えられていた。
残された職員や生徒たちの負担を減らすため、自治体・教育委員会・近隣校・地域支援団体など、多くの立場から支援の手が差し伸べられていたのだった。
休校中、学校内では早急の立て直しのための計画や立て直しの会議、生徒らと連絡を取るなど業務が立て続けにあるが、警察の取り調べもまだ続く。
また、門倉の前職であるアダルト動画制作会社にも、今回の事件を受けて本格的な捜査が入った。
この会社については過去にも数度、警察による内偵や立ち入りが行われていたが、決定的な証拠が乏しく、摘発には至っていなかった。
しかし今回、門倉の周辺から押収された資料や通信履歴などが決定打となり、初めて複数の関係者が逮捕される事態となった。
逮捕者の中には、制服の違法売買や売春の斡旋、児童ポルノの製作・流通に関与していた人物も含まれており、捜査は現在も拡大している。
その過程で、門倉自身もかつて同社において、違法すれすれの企画や撮影業務に携わっていたことが明らかになった。
とはいえ、彼はそうした仕事に強い嫌悪感を抱き、ある時期を境に突然退職していた。
逃げるように過去を捨て、教職という全く異なる世界へ足を踏み入れたのだった。
それでも、過去の影は消えていなかった。
休校中、担当刑事が学校を訪れ門倉の上司である野々宮は事情聴取を受けた。野々宮から同席して欲しいと頼まれた辻村。
野々宮がかなりのプレッシャーで落ち着きのないことは隣にいてもわかる。
校長室で行われた。
「何か、わかったのですか……?」
野々宮が身を乗り出す。
「逮捕された教師たちが門倉のパソコンを使って、彼の名義で例のいかがわしい動画を視聴していた件、そして制服や関連物の売買を行っていた件は前回お伝えした通りです。そして彼らが“自分たちのパソコン”ではなく、門倉のPCに再生した画面を、見るだけでなくスマホで撮影して保存していたことです。削除された痕跡もありますが……復元で証拠は山ほど出てきています」
「……バカだな」
辻村が鼻で笑う。
「しかし……なぜ、門倉の名義でそんなことを?」
「ただただ、門倉が“ちょうどいい存在”だったからです。憎まれてたんです。目立つ、けど孤立してて、誰にも頼れない。脅しやすくて、罪を背負わせるにはうってつけの人間だったんでしょう」
野々宮はため息をついた。
「……教師同士のいがみ合い、妬み、陰湿ないじめ……僕もあの人たちとは距離を取ってました。関わると、疲れるだけだったから」
あの人たち……野々宮のいうのはもちろん今回逮捕された教師たち。年齢は違うが他県より引き抜かれたという共通点がある。
「子どもたちを指導する大人がそれじゃあ……どうにもならないよな」
辻村が呆れたように言う。
「むしろ、この学校の場合、生徒たちの方がまだ健全だったかもしれないですねぇ。非行歴もほぼなく……被害者は生徒たちです。更衣室の盗撮も多々ありましたから」
しばしの沈黙のあと、野々宮がぽつりと打ち明けた。
「……僕も、標的にされかけたことがあるよ。幸い、当時の上司……僕の恩師であるベテラン教師がきちんと対応してくれたけど……。僕がお世話になった先生たちが順々に定年退職や各々の都合で辞めていくとさらにひどくなった。表向きは違う理由で辞めていくけど半数以上は彼らの陰湿ないじめだった」
辻村は顔を歪める。信じられないという顔だ。
「なんで……そんな連中がまだ学校にいられるんだよ」
「人員が足りなかった、ただでさえいじめで辞めてるのにいじめてるやつを辞めさせても減る一方、自分に負担がくる……だから……」
野々宮の口調からして事実であった。校長らはその教師たちを採用しただけあってその当時からして見る目がないというかケアをしない、ただ雇ってるだけ。
教員をただの駒としか見ていないのは歴然だ。
今回の事件を受けて責任をとって退職する予定だったが生徒や教員のケアに回った。しかし予想以上の混乱にあたふたし、教頭は倒れて先日入院したばかりであった。
「僕が元々通ってる精神科の診断書持っていき原因は違うけどあいつらのせいだと叩きつけたら流石に黙りましたよ。でもその時と同時に良いターゲットを見つけたのでしょう……それが門倉先生……」
辻村も刑事も完全に引いていた。
「……野々宮、そんなことがあったとはな。早く再会してたら俺がいろんな手使って社会的制裁を……」
チラッと辻村は刑事の視線を感じ咳払いをした。
「いや、なんでもない……です。でもそれくらいするべきでは」
すると野々宮が、ふと刑事に視線を向ける。
「……で、門倉は本当に“ただの休職”だったんですか?」
刑事は一瞬、口をつぐんだが……。
「夏休み以降……野々宮さんは門倉さんの“声”を、聞きましたか?」




