第十二話 職員室
悲痛な叫びを聞き辻村は少し複雑な思いをした。
職員室に戻る際に死んだ2人のことを話す。辻村は週刊誌などである程度は知っていた。
「毎年恒例の心中姫で王子と姫を演じた同士結ばれるって言うやつで友里恵先生が姫を演じることを立候補して王子は当日まで秘密と言っていたそうだ。で、練習となると流石に王子役いないと進まないからと大道具の一ノ瀬くんが当日まで王子の代役勤めていた。しかしあまりにも息がぴったりあいすぎて一ノ瀬くんが王子、つまり二人が交際しているという噂が出たんだ」
「噂って怖いな。ただの代役だったんだろ? 本当の王子は? それは彼女にとって誰だったのだろうか」
野々宮は首を横に張る。
「その王子が誰だったのかわからずじまいで……そこがいけなかった。どうやら彼女は親にも伝えてなかったというのもあるし……婚約とかまだしてなかったのだろう、だから噂が酷くなってそれだけでなくネットの掲示板に書かれてそれが一部保護者から学校側にクレームあって……」
野々宮はその時のことを思い出した。
「僕は学年主任で彼女の上司だったから校長とヒアリングを何回かしたが生徒とは付き合っていません、結婚相手は他にちゃんといますと言うだけで教えてくれなかった……まぁプライベートは触れないほうがいいだろうし、悪いことをしてなければ」
野々宮も学年主任というだけで大変そうだと辻村は同情した。
気づけば帰りのホームルームの時間。
辻村は職員室の前で野々宮と別れた。
するとさっきまでとは違い教室に向かう姿はすっと背を伸ばし、淡々とした足取りである。辻村はふと考える。
(ああ、やっぱり変わったな。あの頃、ナイトクラブで馬鹿騒ぎしてたあいつの面影はある。でも、どこか違う)
野々宮が教師として生きてきた時間が、このようにして現れているのだとわかる。
それから辻村は職員室にて明日の準備をしていたらあっという間にホームルームは終わって次々と教師たちが戻ってきた。
それぞれ、部活指導に出ていく者、保護者対応に追われる者、授業計画や学年会議に向かう者……。
(やることは山ほどある。きついな……これが事件と向き合えなかった一因じゃ?)
再び職員室に戻ってきてパソコンで印刷したものを野々宮が辻村に差し出した。
「辻村先生。来週以降の授業の進め方はこの通りです。
家庭教師の経験があるなら分かると思いますが──段階をある程度踏み、理解度を確認し進めていく。しかし相手は一人ではなく三十人です……」
資料の厚みに、辻村は思わず顔をしかめる。
(おいおい……これでさらに事件も解決しろってか。鬼かよ。……ま、ひとまずこの計画ファイルをAIで読み込ませてまとめるか)
すると、野々宮がファイルを取り返すように手にした。
「これはあくまで指導要領だからな。明日と明後日で、一週間分の授業計画を僕なりに組んで渡すよ。
それを真似してもいいし、自分なりにアレンジしてもいい。
授業してるうちに、クラスごとの特色も見えてくるだろうから、やり方は変わっていくはずだ」
思いがけず差し伸べられた救いの手に、辻村の表情がぱっと明るくなる。が……。
「……それ、AIで要約しようとしただろ?」
図星だった。辻村は苦笑いを浮かべる。
「うっ……バレてた?」
「他に流出してはいけない情報もあるからな。
他校でも、この学校でも教員がAI使って問題になったケースがある」
「まーじーかー! 効率悪っ!」
辻村は大げさに仰け反る。
「とりあえず、問題だけは起こすな。困ったことがあれば、まずは僕に言え。……わかったな?」
「はいはい……」
「はい、は一回だ」
低い声で野々宮が言うと
「はい……」
と辻村は姿勢を正し返事をすると野々宮は宜しい、と……。
だが辻村は職員室全体が、また沈んだ空気に包まれているのに気づく。
「あっちとそっちも産休と育休。去年の夏には一人の教員が、休職を経て失踪。捜索願いも出されてる。……地獄だろ」
辻村は静かにうなずいた。
「失踪って……今時の若いやつは退職手続きを金で払ってまで第三者に任せるけどそれすらせず、か」
──と辻村はふと時計を見て、何かを思い出したように顔を上げる。
「そうだ。野々宮先生」
「なんだ。……さっさと資料に目を通せ」
「終わったら、飲みに行きません?」
「……は?」




