料理と擬態
食事って恋愛と似てるよねってキーワードで、物語を考えていたら思考が脱線してしまいました。
それを元にして、誇張した話に仕上げました。
本編に載せる内容ではないので、こちらに掲載します。
■渇望とテーブルマナー
夕食のテーブルで向かい合うのは、佐倉結人──二度目のデート。
スーツは、なにやら体のラインに沿っいて重そうだ。
私の好みではないが、汚れがないから合格点。
袖はボタンではなく、光る小さな留め具で止められていて、少し邪魔そうだ。
店員には、どこか子供に話しかけているような、一方的な口調だった。
「こちら、一番赤みが残る形で、焼き加減を頼みます。あと、付け合わせのマッシュポテトは熱いうちに」
彼は、偉そうで、周囲の人間を役割としてしか見ていないように感じる。
だが、私は知っている。本性はもっと原始的なところに潜んでいる。
具体的には──咀嚼と嚥下だ。
「今日の君との食事は楽しみだったんだ。君も楽しんでもらえると嬉しいな」
私は、この言葉の裏にある不穏な物を感じ取っていた。
結人は軽く手首に目を落とした。
時計は薄型のケースに控えめな革ベルトで、派手さはない。
古びた感じがするし、文字盤には複数の小さな文字盤が並んでおり、私には何が何やら理解できない。
ステーキが運ばれてきた。肉汁が滴るぐらい赤い。立派だ。
獣性を暴くテストとしては申し分ない。
彼はゆっくりと肉を口に運んだ。
咀嚼する──嚥下する。
この動作には、欲求と無防備さ、そして本性が集約される。
さて、あなたはどうするの?
私の目は、その一点に絞られていた。
■獣が顔を出す瞬間
彼が二口目を口に入れた次の瞬間、事件は起こった。
パクッ、モグッ。
まだ二口目が口の中に残っているのに、三口目──いや、次の獲物をフォークで刺していたのだ。
まるで、「売り切れる前に確保しないと!」というスーパーのタイムセール脳。
そのまま、口の中の残滓をゴクリ。
一瞬、私の方を見て、口角がわずかに上がり「美味しいね」とだけ言って、すぐに肉に戻った。
経験の乏しい少女なら、食事が美味しくて嬉しいと言われたと捉えられるかもしれないが、私には「確保完了」にしか見えなかった。
そして三口目を淡々と投入。その嚥下音は静かな店内でやけに響いた。
それだけで彼の胃袋バーコードリーダーがONになった気がした。
その咀嚼音は、私にはこう聞こえた。
「ピッ。データ取り込み完了」
目を閉じた彼の表情は、美味しさで恍惚としているように見えるが、私は騙せない。
もっとこう──アマゾン倉庫の係員が“本日のノルマ達成”のアイコンをタップした瞬間の顔。
悟りの境地に片足つっこんだ労働者の顔。
「俺の胃袋が最優先」という、圧倒的な利己性は私の目からは隠せない。
私はフォークを置き、柔らかく聞いた。
「佐倉さん……何か、締切でも?」
「んっ別に、今日は君とゆっくり食事を楽しみたいんだよ」
この言葉は、核心的だ。すでに私は獲物としてロックオンされていると恐怖した。
■狩りの完了報告
その次の瞬間、彼は“紳士アプリ”を再起動。
笑顔は完璧、声も穏やか。しかし私は知っている。
それは優しさではなく、獲物を油断させるための営業スマイルだ。
会計の時、私は席を立つ前に彼は、まるで伝票が逃げるとでも思っているのか、という速さで掴み取った。
「今日は僕が出すよ。君が楽しめるなら、少し奮発してもいいかなって思って」
ふむ……餌を与えて支配下に置こうとしているのか。
私に食事を楽しんでと言いつつ、狩りの完了報告だと悟った。
カードを出す手が少し震えていて、耳が真っ赤になっている。
──それは、武力行使への興奮を抑えているんだと確信した。
案の定、彼のカードは、その思考パターンを示すように真っ黒だった。
そして端末に差し込む瞬間、彼の口元がわずかに上がった。その表情は紳士ではなかった。
「購入完了」ボタンを押したときのアマゾンユーザーの顔だった。
「ありがとうございます。ごちそうさまでした」
私の声には、理性的な皮を被せていたが、脳内ではもう避難ルートが光っていた。
非常口マークより緊急性が高い。
「帰り道、疲れてない?一緒に歩くと安心できるでしょ?」
なるほど、一見優しさにも聞こえるが……獲物を監視することが目的だと、私の鋭い勘が言っている。
「明日の予定、大丈夫?無理なら僕が調整するから、君が困らないようにしたいんだ」
これはもう言わずもがなだ。やはり、生活のスケジュールまで掌握して支配下に置こうとしている!
「いいえ、ちょっと用事があって」
「それは、ざんねんだなぁ」
こうして、私はその場の危機を脱したのだった。
■擬態と、呆然とした沈黙
数日後、彼からの“次のデート”メッセージを無視すると、その日の夜、彼はマンションに現れた。
縄張り意識、めちゃめちゃ強い。
私は部屋で、最終手段を実行した。
土の匂いを再現するため、家にあった入浴剤(泥パック)を少しだけ塗った。
土色のワンピースに着替え、顔から「人間らしさ」をすべてオフにし、観葉植物の鉢の隣に立った。
葉っぱの擬態を完璧にするため、そっとポージング。腕を45度に固定。
動かない。呼吸も最小限。
私はただの植物だ。今日だけで言えば、光合成の成功率は高い。
ドアがバタンと開き、彼が息を切らして立っていた。
その光景からは、獲物は逃さないという、確固たる意志を感じる。
「管理人に頼んで開けてもらったんだ!電話にもでないから 倒れてるんじゃないかって……はぁ?何をしているんだい」
返事は返さない。視線も動かさない。彼の“所有欲センサー”を刺激しない、完璧な植物。
「……なんだこれ」という、呆然とした声だった。
数分間の沈黙。そして彼の顔に浮かんだのは、怒りでも悲しみでもなかった。
「……わかった。どうやら疲れてるみたいだね」
そして静かにドアが閉まった。
私は安堵した。
彼はきっと餌を見失ったのだ。
そこには餌はなく“カロリーゼロの観葉植物”しかなかったのだ。
去っていく彼の背中は、獲物を見失ったチーターというより、
「売り切れでした」の札だけ見て帰る客の虚無。
■観葉植物の投稿
数日後、私はスマホを開き、気まぐれに検索した。
「観葉植物 擬態 女」
すると、匿名掲示板のスレがヒットした。
「【ドン引き】知り合いのデート相手の女性が突然、観葉植物になりきり始めた件。凄くいい奴だから助けてあげたいんだが」
私は震えた。
投稿をみると、その知り合いの特徴は、あまりにも彼によく似ている。
私は確信した。彼は常習犯だ。
私だけじゃなかったんだ。世の中にはきっと他にも、捕食者から逃げるために植物になった女性が──!
読み終え、私は深く安堵した。
「間一髪だった……観葉植物、最高の防御だった……!」
私は満足げにスレを閉じた。
窓の外の青空は、やけにまぶしかった。
隣では、本物の観葉植物が静かに揺れている。
私は思った。
──多分、この植物が一番”まとも”なんだと。
──後日談
しばらくして、佐倉結人から連絡が来た。
【君の趣味を理解しようと、僕も植物になりきる遊びを始めたんだ】
添付されていた動画には、藪が写っているだけに見えた。
しかし、よく見ると、ギリースーツをまとい、顔には迷彩ペイントをした人物がいる。
もっともその人物が瞬きをしなければ、絶対にわからないと思うが……
それを見て私は、藪に潜む捕食者に恐怖した。
実はこれ,AIに読んでもらい一番ヤバい人は誰と聞くと、
この物語で「一番ヤバイ人」は、間違いなく”佐倉結人”です。
との回答でした。
読んでいただいた人は、どう感じました?
AIの判断は正しかったですか?
ちなみに、蛇足とはおもいますが、佐倉結人目線の冒頭も付け加えておきます。
これを添付しても結果は変わらなかったんですが……
より進化したAIなら判断が変わるばす……多分。
──佐倉結人視点
今日は彼女と2回目のデートだ。
彼女には一目惚れで、是非とも正式にお付き合いしたいと考えている。
今日のデートはバッチリのばすだ。
少し高いレストランを予約したし、注文をどうするかも予習済み。
可能な限りのオシャレもしたし。
彼女には、楽しんでもらえると嬉しいな。




