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五年子達〜呪われた世代が神を討つ〜  作者: 碧甫
第一章 禍野街戦編
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第七話 門前の戦火


 禍野街の門前に押し寄せるのは、武装した市民たちの大群。松明の炎が揺らめき、怒号と足音が夜空を震わせる。

 群衆は波のように迫る。


「……五十嵐さん、ここは任せてください」

 霧原は息を整え、神気を全身に巡らせる。体から溢れ出る神気が夜風に溶け込み、霧原の周囲が波のように揺れる。 

 彼の指先から波紋のような神気が広がる。地面を叩く波の衝撃は、群衆を遠くへと押しやる。

解鎖(かいさ)神気奔流(しんきほんりゅう) 波濤壁はとうへき)――!」

 数百の人間は一瞬にして飛ばされ、地面に倒れ込み、体を起こせぬ者もいる。

 だが、その中でびくりとも動いていない三人の異質な者たちは、ヨルに視線を固定した。

「あいつが我々を裏切った月影家の末裔だ」 

 手下の言葉を聞き、五十嵐は直感する。

「……黒陽会だな」


 手下三人がヨルを目掛けて走った時、門前では五十嵐と霧原が待ち構えていた。


「面倒だが、一人ずつ着実にやるぞ」

 手下の一人がそういうと、三人はそれぞれ違う敵を狙い攻めてきた。



——五十嵐の前には、両腕と首に数珠を垂らした異様な男が立ちはだかる。

 瓦礫の上、静まり返った夜に、数珠のぶつかり合う乾いた音が鳴り響く。

「でっけえ数珠つけて、坊主の真似事か?」

 五十嵐の言葉など意に介さず、数珠を握る男が近づいて低い声で呟いた。

「……五年子は敵ではない。月影のガキを渡せば、それが最も無駄のない結末だ」

 五十嵐健二は鼻で笑い、前に出た。

「はっ、わりぃが俺は能力なんかないただの一般人だぜ。だがよ――俺の弟子に指一本触れさせるわけにゃいかねぇ」


 五十嵐には神気の流れはない。だが幾度もの死闘を経て、己の命気を縛る鎖が、徐々に緩まり通常ではありえないほどの命気が溢れていた。


 男の目が細く光る。

「ならば、話は早い。黒陽会に絡め取られて果てるがいい」


――ドンッ! 

 右腕の数珠の球が弾丸のように飛ぶ。五十嵐は即座に拳で打ち返した。 

 骨に響く重み。まるで岩を叩いたかのようだった。

「ほぉ……ただの玉にしちゃ重てぇな」 

 余裕を見せて笑う五十嵐。即座に二発目、三発目が迫る。

 五十嵐は肩を逸らし軽く避ける。

 だが、数珠使いは口元を歪める。

「この数珠は私の神気が込められている。避けても巡り、再びお前を撃つ」

 その言葉通り、避けたはずの球が軌道を曲げて襲いかかる。五十嵐は数発を弾き飛ばすが、脇腹に一撃、肩口に一撃が突き刺さった。

 鈍痛にわずかに顔をひそめる。

「……なるほど、途中で曲げやがるか。姑息な真似を」

 五十嵐は放たれる球を一つ一つ叩き落とし徐々に間合いを詰めていくのだった。

「だったら――殴り倒して終わりだッ!」

 拳が振り抜かれる。

だが――

 カチリ、と音を立てて散らばった数珠が再び輪を描き、五十嵐の全身を絡め取った。

「……チッ!」 

 全身を締め上げる重圧。骨が軋み、血流が阻害される。

 数珠使いは冷ややかに見下ろした。

「抗うほどに絡みつく。お前もまた輪廻の輪によって締め殺されるがよい」

 五十嵐は歯を食いしばり、血管を浮かせながら咆哮する。

「締め殺すだと……こんなもんでかっ!」

 全身から爆発的な力を解き放つ。 

――バキィッ! 

 数珠の輪が砕け、珠が飛び散った。

 数珠と拳

 異能と肉体のぶつかり合いが、幕を開けた。



——五十嵐の雄叫びが響く一方、別の場所では別の戦いが始まっていた。

 門前の瓦礫を踏みしめ、霧原は迫る影を睨みつける。

 暗がりの中から、一人の男が姿を現した。長身、無表情。足元に揺れる影が生き物のように蠢いている。

「……月影夜流を生け捕りにせよ。それが我らに下された命だ」 

 男は低く呟き、真っ直ぐ突進してきた。

 霧原は目を細める。

「……来たな」

 波が走った。霧原の足元から放たれた神気の波動が、周囲の地形と敵の動きを鮮明に映し出す。 

 次の瞬間、迫る男の攻撃の軌跡が脳裏に浮かぶ。

「見えた、」

 身を捻り、かわそうとした刹那。

 

――ズブリ。 

 敵の身体が影に沈み、視界から消えた。

「なっ……!?」

 驚愕する間もなく、自分の足元の影から刃のような蹴りが突き上げる。 

 霧原は避けきれず、脇腹に直撃を食らった。

「ぐっ……!」 

 地面を転がり、血を吐く霧原。

 影の男が、影から影へと滑るように移動する。

「お前の波は悪くない。だが、“影”には届かぬ」

 霧原は歯を食いしばり、再び波を放つ。地面を這うように広がる神気が、敵の位置を探る。

 やがて、後方の影に微かな反応を捉えた。

「そこか……!」 

 両掌を突き出し、波動を叩き込む。

 だが、それは影の分身だった。虚ろな像が波に砕かれて消える。

「偽物……!」

 直後、本体が背後から這い出す。影から抜け出した拳が霧原の背中にめり込んだ。

「がっ……!」 

 肺の空気が一気に吐き出される。

 影の男が淡々と告げる。

「光がある限り、影は消えぬ。どこにでも現れ、どこにでも潜む。……お前の波で、俺は捕らえられない」

 霧原は血を拭い、膝をつきながらも睨み返す。「……そうかよ。だがな――俺の波は、“影ごと”押し流せる」

 男は鼻で笑った。

「ならばやってみせろ。届くものならな」

 二人の間に張り詰めた空気が走る。次の瞬間、再び影が揺らぎ、戦いはさらに苛烈さを増していった。



——影の男と霧原が激突する一方、もう一人の男が歩み出た。 

 その肌は粘つくように濁り、灯りに照らされるたびに泥のように波打つ。

「……夜流だな、わりぃが力づくでも連れていくぞ」 濁声が響く。男の全身から滴る泥が、       地面にじゅくりと音を立てた。

「来やがったな……!」 

 リキが前に出る。拳を固め、全力で殴りかかった。


――ドゴッ!

 確かに命中したはずだった。しかし、手応えがない。 

 男の頬は拳がめり込んだ瞬間、泥状に崩れ、指の隙間から零れ落ちていった。

「なっ……当たってねぇ……!?」 

 リキの動揺を狙い、泥の腕が鞭のようにしなり、逆にリキの脇腹を弾き飛ばす。

「ぐっ……!」 

 リキは地面に膝をつき苦しそうに悶えた。

 その刹那――

 「……はっ」 

 ヨルが一歩踏み出す。

 時間の膜が張られ、敵の攻撃が遅れる。リキの身体に迫っていた泥の触手が、花火の残光のように宙で止まった。

「よし、今だ!」 

 リキが立ち上がり、もう一度拳を振るう。

 だが、再び男の身体が泥に溶け、拳は空を切る。  そのまま、飛び散った泥がリキの腕にかかった。

「うわっ……!? 熱っ……!」

 かかった箇所の皮膚がじゅうっと音を立て、焼け爛れるように溶け出す。

「リキ!」

 ヨルが叫び、すぐさま時間を収束させ、飛び散った泥を止める。だが、触れた瞬間すでに侵食は始まっていた。

「気をつけろ。こいつ、触れるだけで……!」

 リキが苦悶の表情を浮かべる。

 泥の男が、にたりと笑った。

「俺の神気は泥と酸を合わせ持つ性質でな。拳や刃はすべて沈み溶かすのさ……俺を捕える術はない」

 ヨルは睨み返し、呼吸を整えた。

「……それでも、止める」

 二人と一体の泥が、夜の門前で激しくぶつかり合おうとしていた。



――リキとヨルが泥の男と交戦している頃。

 押し流された群衆の中で、ひとりの市民が呻き声を上げて崩れ落ちる。

 次の瞬間、その身体がぎこちなく立ち上がった。瞳には生気がなく、腕を振るうたびに周囲を切り裂いていく。

「ひっ……やめろ!」 

 叫んだ別の市民の腹に、硬い拳が突き刺さる。

 直後、最初の身体は糸が切れたように崩れ落ち、代わりに新たな死体が立ち上がった。

「……この器も悪くはない」

 淡い神気が滲み、乗り移った市民は遠くで轟く戦闘音に耳を傾ける。

「……先にやってやがるな。今、夜流を狙うのは無理か、……厄介な奴らが多すぎる」

 その声と共に、影の奥で小さな気配が動いた。

――キィ、と鳴いたのは一匹のネズミ。

「ふふ……まずは偵察といこうか」

 そういうとネズミの瞳が赤く濁り、不気味な光を宿す。

 ネズミは五十嵐達の戦線を脇に禍野街の中へ――。

 

 禍野街の外での戦いの中で、内部にまで次なる惨劇の芽が忍び寄っていた。


七話ありがとうございます。碧甫です。

禍野街の前での戦いと禍野街の中に迫り来る刺客。

楽しみにお待ちください。それではまた次回

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