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五年子達〜呪われた世代が神を討つ〜  作者: 碧甫
第三章 ホワイトハウス編 
26/27

二十六話 距離と溝

A組

増田力 

主人公。ヨルと響と同じ部屋で同級生。アメリカでポーカーと遊んだことでより仲良くなった。


月影夜流 リキの親友。アメリカで先輩(文字島遊太と音峰凛)と観光し打ち解ける。


鏡堂響 リキと同級生。アメリカで七瀬(補佐の山田)とデートをし距離を縮める。


文字島遊太 リキ達の先輩で、お調子者の明るい性格。アメリカで1人で過ごしていたヨルのため一緒に観光に行く。


音峰凛 リキ達の先輩で、遊太と同様1人になったヨルと一緒に観光する。


零部隊

神楽蓮 

リキ達A組の担任で零部隊所属。会議では総理の側近として付いている。


望月感司 

零部隊の隊長。蓮と同様、総理の側近として付いている。


朝霧 風吹 

零特専高の校長で零部隊副隊長。アメリカに来て2日目で病気になりホテルで寝たきり。


七瀬 

零部隊所属でA組の補佐役。山田と呼ばれている。響とのデートで仲が深まる。


佐藤 

零部隊所属で七瀬同様、補佐役の一人。高身長の黒人で、本名はワンバラ・トゥンガ・ウェレナオロ。


田中 

零部隊所属の補佐役の一人。メガネをかけた男性で、アメリカでは2日目から風吹の看病をしている。


アメリカ側

ポーカー・ベッテン 

アメリカの警備としてホワイトハウスにいた五年子。リキと仲良くなり、一緒に遊んだ。


 夕日が沈み、あたりはすっかり闇に包まれていた。

 そんな中、響はただ静かに、七瀬の過去の言葉を受け止めていた。


「……結局ね」


 七瀬は、自分の過去に終止符を打つかのように、ゆっくりと話し出す。


「家に来た人は、師匠の知り合いで、私たちを助けに来てくれたの。

でも、私のせいで師匠の家の場所が知られてしまって、鬼道の連中が……街まで狙うようになって」


 言葉がかすれる。


「それで一部の零部隊にも話して、鬼道を探したんだけど……結局、それ以来あいつは姿を見せなかった」


 七瀬は、川面に映る月をじっと見つめながら続けた。

 響もまた、感情がうまく整理できないまま、ただ一点を見つめていた。


「だからね……響くんが思っているほど、私は強くない。一人じゃ何もできなくて……誰も守れない。私なんか、能力もなくて誰にも必要とされない存在で、」


「そんなことない」


 静かな川辺に、響の声が真っ直ぐに響いた。

 響は立ち上がり、七瀬の方を向く。


「七瀬さんは、弱くなんかない。七瀬さんがいなかったら、俺はここまで強くなれなかった。能力があるとか、ないとか、そんなの関係ないんだ。

俺は今日、七瀬さんと一緒にいられただけで、楽しかった」


 少し照れたように、でも真剣な瞳で続ける。


「七瀬さんの過去を聞いて、わかったんだ。どんなに辛いことがあっても、七瀬さんは零部隊を離れなかった。その気持ちは誰よりも強い。だからその意志を、俺にも背負わせてほしい」


 その言葉に、七瀬の目から、そっと涙がこぼれた。


「ありがとう。おかげで、少し楽になった」


 そう言うと、七瀬はすっと立ち上がった。


「すっかり暗くなっちゃったね。……早く、ホテルに戻ろう」


 小さく笑ってそう言い、七瀬は歩き出す。


 その背中に、響は思わず手を伸ばした。

 そっと後ろから抱きしめる。


「七瀬さん……これからは、もっと俺を頼ってください」


 一瞬、七瀬の肩が小さく揺れたが、すぐに力が抜ける。


「……うん」


 静かな返事だったが、確かに、心に届く声だった。


 夜風が二人の間をすり抜け、遠くで波の音がかすかに響く。

 その音に包まれながら、二人の”距離”は、確実に縮まっていた。



 ホテルに着くと、響はロビーで七瀬と別れ、その余韻を胸に残したまま部屋へ戻った。

 ドアの向こうから、すでにリキとヨルの話し声が聞こえてくる。二人はベッドに腰かけて、何やら雑談しているようだった。


 ドアを開けた瞬間、ヨルの視線がこちらを捉える。


「ずいぶん遅かったな。で、どこまでしたんだ?」


 ニヤニヤとしたその顔に、響は一瞬だけ言葉に詰まる。


 隣のリキは首をかしげた。


「どこまでって、響、夜飯食ってないの?」


「リキはちょっと黙ってろ」


 ヨルは少し苛立ったように言い放ち、改めて響をじっと見る。


「どこまでって言われても……」


 響は照れくさそうに視線を外し、言葉を濁した。


「まあいいや。どうせ響はビビりだから、手も繋げてねぇだろ」


 少し馬鹿にしたような口調で、ヨルが肩をすくめる。


「さあな」


 今日の出来事を思い返している響には、その煽りも不思議と響かなかった。


 少し悔しそうなヨルを横目に、響はリキへ声をかける。


「なあ、夜飯、まだなら一緒に行こうぜ。ホテルでヒマしてたヨルのために、土産話もたっぷりあるしな」


「そうだね。俺もヨルに話したいこと、いっぱいあるし」


 リキもすぐに立ち上がり、ヨルに目を向ける。


「お前らな……残念だったな。俺も今日、先輩たちと出かけてたから。なかなか楽しかったぜ」


 少し意地になったように、ヨルはそう言う。


「じゃあ、ちょうどいいな。みんな好きなだけ話そうぜ」


 そう言って、三人は部屋を出て、ホテルのレストランへと向かった。


 ロビーには柔らかな間接照明が灯り、外の闇とは対照的に、どこか落ち着いた空気が流れていた。



 そして二日後。

 再び、ホワイトハウスでの会議が行われる日がやってきた。


 しかし、日本側では一つ、想定外のトラブルが起きていた。


 ホテルの前に集合した面々を前に、望月隊長が静かに口を開いた。


「……それでだが、風吹が二日前から体調が戻らなくて、日本へ帰国することになった。付き添いで、補佐の田中にも同行してもらっている」


 A組の面々は、その言葉に目を見開いた。


「その影響で、会議中の通訳が足りなくなった」


 そう言った瞬間、一人の男が一歩前に出た。


「私でよければ、通訳を務めますよ」


 補佐の佐藤だった。

 だが望月は、ゆっくりと首を横に振る。


「佐藤。ありがたいんだがな、この会議は日米に関わる問題で、異国の関係者を入れるのは好ましくない。それに、子供も入れるのはまずいからな、」


 そういうと望月は七瀬の方をじっとみた。


「お前に、通訳を任せてもいいか?」 


「……もちろんです。大丈夫です」


 即答だった。

 迷いは、一切なかった。


「よし。ならば通訳は決まりだ」


 望月は小さく頷き、続ける。


「次に警備だが……田中と、山田が本来の持ち場を外れる。その分、配置を再編成する。特に今日は、前回以上に気を引き締めろ」


 全員の表情が引き締まる。


「外からの警戒は当然だが……アメリカ側も、十分警戒しろ」


 重い静寂が落ちる中、望月は締めくくる。


「以上だ。各自、準備に入れ」


 そう言うと隊長と車へと乗り込んだ。

 蓮はA組を集め、配置の再編成を行った。


「山田と田中が抜けたことで、響と佐藤が一人ずつになった。

響が警備していた階段下は、会議室の前からも確認できる。だから、響と佐藤は一緒に、会議室前の扉の警備につけ」


 一度、全員の顔を見回す。


「他は前回と同じ配置だ。隊長も言っていたが、今日はかなりピリついた空気になると思う。気を引き締めて、よろしく頼む」


「はい」


 短い返事が一斉に返ってきた。

 その声には、いつも以上の緊張が滲んでいる。

 蓮の言葉によって、場の空気はさらに張りつめたものへと変わっていった。



 その後ホワイトハウスに到着すると、すでにアメリカ側が待機していた。


「それでは、行きましょう」


 側近の言葉を合図に、二度目の会議が始まった。



 リキは前回同様、東側の通路でヨルとともに警備についていた。

 その間、何度もポーカーとすれ違ったが、場の張りつめた空気に押され、互いに目で合図を送るだけで言葉を交わすことはできなかった。



 会議は前回と同じく、長引いていた。


「それで、条約の件は飲んでいただけますか?」


 条約とは、前回の会議で富士山に五年子の核が存在していることに気づいたアメリカ側が提示してきたものだった。

 富士山をアメリカの領土とする代わりに、日本を守る、という内容だ。


 総理は慎重に口を開いた。


「この三日間、何度も協議を重ねてきました。しかし、富士山は日本にとってあまりにも象徴的な存在です。そう簡単に、手放せるものではありません」


 その言葉を、七瀬はできる限り柔らかく、相手に伝えた。


「……つまり、それはNoということですか?」


 大統領の発言に、英語の分からない総理にも、その一語だけははっきりと伝わった。

 総理は、少し間をおいてから言う。


「Noというよりも、代案を考えました。完全に譲渡するのではなく、日本とアメリカ、二国での共同管理にする。それではどうでしょうか」


 その瞬間、アメリカ側の空気がざわついた。


「日本側は何も分かっていない。重要なのは、あの山をアメリカのものにすることです。共同管理では、結局“日本の山”のままになる。権利は必ず日本側に傾くでしょう。

そもそも、この条約を断るということは――アメリカ側は、日本を守りませんよ」


 言葉自体は丁寧だったが、その奥にははっきりとした苛立ちが滲んでいた。

 だが総理は怯まず、かすかに笑って返す。


「悪いが、日本をあまり舐めてもらっては困る。アメリカに守られていたのは、今から二百年も前の話だ。今の日本には五年子がいる。守られなくても大丈夫かと思うがね」


 七瀬はその棘のある言葉を、極限まで柔らかくしてアメリカ側に伝えた。

 だが、大統領の表情は一気に険しくなり、血走った目が総理を射抜く。


「……愚かな。これは守らないという話じゃない。攻めるという話だ。

条約を拒むということは、我がアメリカが武力を行使してでも動く、という意味になる。

これはただの交渉ではない――宣戦布告だ。」


「……っ」


 その言葉を聞いた瞬間、七瀬の喉がかすかに震えた。

 だが、彼女はそのままの意味を総理に伝えた。

 さすがの総理も、「宣戦布告」という言葉を前にして、口調はわずかに和らいだ。だが、その態度が揺らぐことはなかった。


「アメリカも、今や日本にとって脅威とは思えんがね……」


 総理はそう呟くと、顔を上げて言った。


「わかりました。であれば、条約内容を変更しましょう。

富士山に関して、日本の方が権利を持つのは当然です。アメリカに守ってもらう必要などない。ですから逆に、日本に手を出さないのなら、富士山に関する情報を共有してあげても構いませんよ」


 七瀬が翻訳しようとした、その瞬間、


「己の立場をわきまえろ、くそアメリカめ。…おい通訳、これも訳してもいいぞ」


 総理は小声で付け加え、わずかに笑って七瀬の方を見た。


「……ですが総理、それはよろしくないかと」


「ふっ、冗談だよ。真に受けるな、アホが」


 その言葉に、七瀬はわずかに眉をひそめながらも、何事もなかったかのように本来の発言だけを英語で伝えた。


 一瞬、会議室が静まり返る。


 やがて、大統領が薄く笑って応じる。


「ずいぶんと上からですね。しかし、忘れてはいけないことがあります。

私たちアメリカだけでなく、日本以外のどの国も、五年子の核となれば飛びついてくる。

我が国は多くの同盟国と結束しています。世界規模で日本を囲めば、あなた方が抱える五年子の数を超える。――負けるのは、そちらです」


 そして、重く言い切った。


「よく考えなさい。このまま条約を破棄して、都合が悪くなるのは……どちらなのかを」


 その言葉に、総理は思わず声を荒らしかけた。

 だが、その時


「総理。どうか落ち着いてください。今この場で感情に任せて断るのは、我が国のためにも避けるべきです」


 望月隊長が、静かに総理の耳元でそう告げた。


 数秒の沈黙。

 やがて総理は、わずかに息を吐き、かろうじて冷静さを取り戻した。

 それでも視線は、なおアメリカ側を鋭く睨んでいる。


 その様子を見て、アメリカ側は肩をすくめて言う。


「今すぐとは言いません。次の会議までに、結論を出してください」


 こうして、二度目の会議は、何ひとつ進展しないまま幕を閉じた。


 会議室の外で警備にあたっていたリキたちにも、その異様な空気は伝わっていた。


 ただ両国の間に、はっきりとした”溝”が生まれつつあることは、誰の目にも明らかだった。

二十六話ありがとうございます。碧甫です。

七瀬と響の関係が良好な一方、国同士での溝が出来始めてしまいました。両国の決断はいかに次回もよろしくお願いします。それではまた次回

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