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五年子達〜呪われた世代が神を討つ〜  作者: 碧甫
第三章 ホワイトハウス編 
24/27

二十四話 酒血憎輪

A組

増田力

主人公。意思でパワーを増幅する能力者。ホワイトハウスで仲良くなったポーカーとワシントンの街をめぐる。


鏡堂響

反射の能力者。リキと同級生。補佐の七瀬と初めてのデートを行う。


零部隊

朝霧 風吹

零特専高の校長で零部隊副隊長。風の能力を持ち、皆から慕われている。


山田

零部隊所属でA組の補佐役。本名は七瀬。響と共にデートをしている。


アメリカ側

ポーカー・ベッテン

アメリカの警備としてホワイトハウスにいた五年子。リキと仲良くなり、コインゲームで遊んだ。


「リキ、次どこ行く?」


 ワシントンの街を、二人の少年が並んで歩いていた。

 ポーカーが前を指さすと、にぎやかな人の波が広がっている。


「ここはアメリカいちウマイって噂のハンバーガーショップ!」

「で、こっちは“絶叫系”が有名な遊園地。観光客もよく来るんだぜ」


 リキとポーカーは、地元の名物から観光地まで、勢いのままに歩き回った。

 買い食いをして笑い、写真を撮り、冗談を言い合う。

 楽しい時間は、まるであっという間に溶けていくようだった。


「よし……最後に、どうしても行きたい場所がある」


 ポーカーは少し照れた声でそう言うと、リキを細い通りへと導いた。

 角を曲がった先にあったのは、星型の看板が輝くショップ。

AMERICA HERO 〈STAR〉 OFFICIAL STORE


「ここ……ヒーローの店か?」


 リキが戸惑うと、ポーカーは嬉しそうに頷いた。


「そう。アメリカNo.1ヒーロー、スターの公式グッズショップ。

俺、スターがずっと目標でさ、初めて能力が使えるようになってからずっと彼みたいにみんなに慕われるような五年子になりたいって思ってるんだ」


 その声に嘘はなく、リキは静かに耳を傾ける。

 いつも明るいポーカーが見せる、本音の部分だった。


「リキにも……そういう目標とかいるのか?」


 突然の問いに、リキの脳裏には自然と師匠・五十嵐の姿が浮かんだ。


「ああ。俺も昔、“人類最強”って呼ばれた、めちゃくちゃ尊敬してる師匠がいるぜ」


 リキは自慢げに話す。


「へぇ、日本にもスターみたいな人はいるんだな」


 そう言うと、ポーカーは棚に並ぶキーホルダーを手に取った。

 星型の金属フレームに、スターのミニチュアイラストが描かれたものだ。


「なぁリキ。せっかくだし……お揃いにしない?」


「……いいじゃん。記念になるな」


 二人は同じキーホルダーを購入し、その場でカバンにつけた。

 星が二つ、同じ角度で揺れていた。


 帰り道の分岐点に差し掛かると、二人は立ち止まる。

 陽が沈み始め、街は橙色に染まっていた。


「それじゃあ、またな」


 言葉は短いのに、不思議と離れがたい空気があった。


 少し歩いたあと、リキが振り返る。


「今日は……すげぇ楽しかった。また明後日、ホワイトハウスで」


“ホワイトハウス?”

“あの子たち……何者?”

 周囲の人々は、その会話に小さく首をかしげた。

 けれどポーカーは、そんな視線をまったく気にせずに手を振る。


 夕日が二人のカバンを照らし、並んだキーホルダーがこの日の思い出を閉じ込めるようにきらりと同じ光を返した。



 一方、ホテルを出た響と七瀬も、人気のカフェや記念館、観光客で賑わう広場などを巡っていた。

 デートの途中、七瀬がふと声をかける。


「響くん、今は補佐と生徒の関係じゃないから、敬語使うのやめてみない?」


「……うん」


 響にとって初めてのデート。心臓は終始バクバクとして、落ち着く暇がない。

 七瀬と二人きりで歩くのも初めてで、隣にいる彼女の歩幅、風に揺れる髪、ふと笑った表情、どれもが気になり、視線を正面に向けていられなかった。

 七瀬はそんな様子を一目で見抜いていた。


「……響くん、こっち」


 ひょい、と彼女の手が差し伸べられる。

 反射的に硬直した響の手に、温かい手が重なる。迷っているように見える指先に、七瀬は柔らかく微笑む。


「今日はデートなんだから」


 促されるままに手を重ねると、指が絡む感触が心臓をさらに速めた。


「……あの、俺……」


「緊張してるの?らしくない」


 響はいつものお調子者の姿を完全に失っていた。

 

 そして、そのまま二人が街中を歩き楽しんでいると、突然、通りすがりの男たちが現れた。


「おい、何いちゃついてんだ。気持ち悪りぃ。お前らどこの国のもんだ?俺の街で変なことすんなや」


「七瀬さん、下がって!」


 響はすぐに前に立ち、男たちを睨みつける。だが相手は響よりはるかに大きく、挑発するように見下していた。


「そこの女を差し出せば、にいちゃんは見逃してやるぜぇ」


 一人の男がニタニタ笑いながら近づくと、

ドカッ──

 男の一人が倒れた。


「お前ら、ふざけんじゃねぇ!」

 響は男を殴り叫んだ。

 他の仲間の肩を借りて起き上がった男は胸から銃を取り出す。


「死ねや」


 銃口を七瀬に向け、安全装置を下げるその瞬間、響の目は血走り、左手に大きな光が溜まっていった。


「響、ダメ!」


 町中に響き渡る七瀬の声で、響の動きは一瞬鈍った。その隙に、倒れた男の後ろから現れた敵も次々と制圧される。

 カタリッ──

 銃が男の手から落ち、全員崩れ落ちた。


 七瀬はすぐに響のもとへ駆け寄る。

「もう、響くん。能力は使っちゃいけないんでしょ!」


 目の前の光景に唖然とする響に、七瀬は周囲の視線を気にしながら手を引き、そそくさとその場を離れた。



 夕方

 二人は川沿いの岸に並んで座っていた。

 陽は沈みかけ、水面には揺れるオレンジが広がっている。

 静かな風が吹き、七瀬の髪をさらりと揺らす。

 響はその横顔に思わず見とれ、ぽつりとこぼした。


「……やっぱり七瀬さんって、強いですね」


 七瀬は少し黙り——そして、ゆっくり首を振る。


「強くなんか、ないよ」


「でも……初めて会ったとき、俺七瀬さんに勝てなかったし。

それから訓練して強くなったつもりでも、さっきみたいに、

能力が使えないと戦うことすらできなかった。」


 七瀬はしばらく俯き、それから静かに響の方を見る。


「響くんは――私のこと、まだ何も知らないよ」


 その声は穏やかで、だけど深い影を落としていた。

 夕暮れの空気が、一瞬だけ冷たくなる。


「誰にも話すつもりなかったけど……響くんなら、いいかな」


 七瀬は川面に視線を落とし、ゆっくり語り始めた。


「私が零部隊に入った時ね、同い年の仲間がいたの。

名前は、双葉対ふたばつい

すごく優しくて、まっすぐで……響くんにちょっと似てた。」


「ある日、密造酒の噂がある蔵の潜入任務があってね。

それが、私たち二人の初めての任務だったの」


 風が揺れ、過去の記憶が七瀬の表情に色を落とす。



「いいか、七瀬。風吹さんの話だと、ここは密造酒の保管庫らしい。人はいないはずだが……万が一ってこともある。絶対に俺から離れるなよ」


 対はそう言いながら、七瀬の手を軽く引き、古い木の扉に手をかけた。

 ギィ……

 長年油差しもされていない扉が、重苦しい音を立てて開く。

 その瞬間、むせ返るような濃い酒の匂いが、二人の顔にぶつかった。

 天井は高いが、そこから吊るされた小さな電球が一つだけ。

 薄暗い光が、樽が並ぶ蔵の内部をぼんやりと照らしていた。


「なるほど。情報通りだな」


 対は周囲に気を配りながらつぶやく。


「七瀬、さっさと汲んで戻るぞ」


「うん」


 二人はそっと樽の蓋を開け、ボトルを傾けて酒を注ぎ始める。

 ぽたり、ぽたりと落ちる液体の音だけが、静まり返った蔵の中に響いていた。


 その時、七瀬がふと蔵の奥の壁を見ると、そこには一枚の紙が貼られているのが目に入った。

 興味を引かれた七瀬は、酒を汲む対からそっと離れ、ゆっくりと蔵の奥へ進む。


 薄暗い蔵の中で目を細めじっくり見つめると、その紙には全国各地の黒陽会の拠点が詳細に記されていた。

 七瀬は息を呑み、すぐに報告しようと声を上げようとした——その瞬間、


「んっ」


 七瀬の顔よりも大きな手が覆いかぶさり、口を塞いだ。


 酒の注ぎに夢中になっていた対は、樽の蓋を置いて振り返った。


「よし、こんなもんでいいか。七瀬、戻るぞ」


 だが、視線の先には七瀬の姿はなかった。

 慌てて周囲を見回す対。その瞬間、蔵全体の光が一瞬にして消えた。

 上を見上げると、天井の電球の光さえ届かないほど巨大な影が立っていた。

 その腕には、七瀬がしっかりと掴まれていた。


「……俺の酒に、何してる」


 低く湿った声が蔵全体を震わせた。

 巨体の男は、掴んだ七瀬を軽々と持ち上げたまま、対へと眼光を向ける。

 対は一歩も引かず、睨み返す。


「黒陽会だな」


「答えになってねぇんだよ。俺の酒に何をした?」


 男の声は二度目にして凶暴さを増す。

 対は短く息を吐いて言い返す。


「これは密造酒だ。すまないが——全部没収させてもらう」


 その瞬間、巨体の男は鼻で笑った。


「ハハハ……没収?いい度胸だな。だがよ」


 足元の床板が軋むほどの力で、男は対の方へ歩み出す。


「お前らがここを嗅ぎつけなきゃ、没収も何もなかったんだよ。つまり——」


 右手の金棒が七瀬の頭上へとゆっくり持ち上がる。

 重鉄が空気を裂き、殺意が露骨に形になる。


「ここで殺すのが、一番手っ取り早いよなぁ?」


 七瀬の顔が恐怖で固まり、息の音すら震えた。

 その瞬間


「待て。交渉しないか」


 対の声が蔵の奥で弾けた。


 震えていない。だが張り詰めた声だった。

 男の動きが止まる。

 金棒の影が七瀬の頬をかすめたまま、巨体の視線がゆっくり対へ向けられた。


「……交渉?」


 男は少し口角を吊り上げた。


「いいぜ。言ってみろ」


 対は息を飲み、一歩踏み込む。


「もし俺たちが戻ってこなければ、本部はこの蔵を必ず調べる。だからその女をここで解放しろ。それで今回の件は見逃す」


 男は腹の底から笑い出した。


「見逃す?小僧が随分と偉そうに言うじゃねぇか」


 そして、笑みを消すと、鋭い目で対を射抜く。


「だがよ、女を渡したところで……お前が報告しない保証はどこにある?」


 対は迷わず答えた。


「俺の名前は双葉対。黒陽会なら——名前さえ知れば、どこにいようと見つけられるんだろ?

もし俺が裏切れば、好きに殺しに来ればいい」


 一瞬、蔵の空気が張りつめた。

 男の眼光が変わる。


「ほう……名前を差し出すか。気に入ったぜ、双葉対」


 男は低く笑う。


「——って言いたいところだがな」


 金棒の先を七瀬の肩へ落とし、男は冷たく続けた。


「その名前が本当か、俺には確証がねぇ。

だからこの女は、人質として置いていってもらう」


「ダメだ」


 対の声音は揺れず、真っ直ぐだった。


「ダメじゃねぇ。俺の決めたことは絶対だ」


 男の声は蔵を震わせる。


「お前が報告しなければこの女は殺さねぇ。だがもしこの場所がばれたら——この女の首を掲げて、本部に乗り込んでやる」


 七瀬の体が、男の手の中でひどく震えた。


「なら」


 対は静かに言った。


「俺が人質になる」


 七瀬とは裏腹に、対の瞳は揺れていなかった。

 男はニヤリと笑う。


「おお、そうかそうか。人質がいりゃ十分だ。なら交渉成立だな」


 男が七瀬を放した瞬間


「ダメッ!私が人質になる!」


 七瀬は怯えながら対に飛びつき、叫んだ。

 対は振り返り、七瀬の耳元で囁く。


「……バーカ。お前、能力もないのに捕まってどうすんだよ。

大丈夫だ。いざとなったらあいつぶっ倒して、ちゃんと戻ってくる」


 七瀬は涙で顔を歪める。だが、対は微笑んで男の前へ進んだ。

 巨体の男は七瀬を睨みつけながら言う。


「いいか女。特別に俺の名を教えてやる。俺の名を知ってるのは黒陽会だけだ。だから、もし黒陽会以外の誰かがこの名を口にしたら、交渉決裂でこいつの命はないと思え」


 その声は、地の底から響くようだった。


「俺は黒陽会——七禊祓頭衆しちけいばっとうしゅうの一人、鬼道きどう 無骨ぶこつだ。

いいな、誰にも言うんじゃねぇぞ」


 七瀬はその名を聞いただけで、体が強張った。

 そして、鬼道は七瀬を蔵の外へ押し出し、対の肩を掴むと暗闇へと連れ去った。


 その一瞬、対は七瀬へ振り返りいつもの優しい笑みを浮かべた。


 こうして七瀬の前から、双葉対は消えた。


二十四話ありがとうございます。碧甫です。

今回は七瀬の過去を描いたのですが思っていたよりも長くなりそうでしたので続きは次回は持ち越しです。

それではまた次回

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