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五年子達〜呪われた世代が神を討つ〜  作者: 碧甫
第二章 零特専校編
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第二十一話 それぞれの道


 A組で話があった日と同時刻。

 チャイムが鳴り終えると同時に、B組の教室にも一人の男が入ってきた。


 ドス、ドス――と、床板が僅かに軋む。

 巨体が教壇まで歩み寄るたび、教室の空気そのものが揺れるようだった。

 一年の女子たちは思わず身を引いた。

 だが澪だけは、いつも通り柔らかく笑って声をかけた。

「おはようございます、岩崎先生」

 男の名は――岩崎鉄平いわさきてっぺい

 零部隊の現役メンバーの一人で、二年の教師でもあった。


「おう、星宮。それに七ノ瀬も。おはよう」

 稲荷もすぐに立ち上がり、丁寧に頭を下げる。


「おはようございます」

 鉄平は腕を組み、教室全体をゆっくりと見渡した。

 その鋭い視線が一年の女子たちに向く。


「見慣れねぇ顔が一年か。名前は?」

 真里は緊張で肩をこわばらせながら答える。


「み、水田真里です!」

 続いて、ジーリンが静かに名乗った。


紙琳ジーリンデス」

 鉄平は小さく口角を上げる。


「水田にジーリン、だな。よろしく頼む」

 次に視線が、教室の隅の一人へ移った。


「――で。お前が例の問題児か。名前は?」

 取矢はほんの数秒黙り、それからぼそりと呟く。


「……奪宰だざい


「奪宰か。よろしくな」

 鉄平は笑い、頭をかきながら続ける。


「俺のクラスになったからには、停学とか退学とか、もうやめてくれよな?」

 教室にわずかな笑いが広がる。

 その笑みが薄れるのに、時間はいらなかった。


 鉄平の表情が変わる。

 空気が一段深く沈む。


「突然だが――明後日から俺たちB組は中国へ行く」


「ち、中国!?」

 席が一斉に軋んだ。


 澪が真っ先に声を投げる。

「なんでですか?」

 鉄平は低い声で答える。

「ジーリンの前で言うのは気が引けるが……中国が黒陽会と繋がってる可能性が出てきた。

俺たちはその“後”を追って、中国で何をしているのかを探る」

 ジーリンの表情がわずかに強張る。


 稲荷が手を挙げる。

「どうして“中国”って特定されたんです?」

 鉄平は少し息をつき、淡々と語る。

「禍野街で捕まえた黒陽会の連中二人。ジョニーが直接尋問した。

そいつらはどちらも黒陽会の中じゃかなり上位の立場だった。そいつらが話した共通ワードがある。

――“龍門計画”。

中国の南湖村ナンフーツンで、五年子の被験体を使った実験が行われている、と」


 ざわ、と教室の空気が揺れる。

 誰も口を開けない。

「今回の任務はそこへの潜入だ。黒陽会のやっていることを、秘密裏に捜索する」

 全員の視線が緊張に引き締まる。


「――そして今回、一番重要なのはジーリン。お前だ」

 教室の空気がまた重くなる。

 ジーリンは俯いたまま動かない。

「俺たちは未知の土地で尾行する。地形も文化も違う。

だから現地判断はお前に任せる。急な対応が必要な時――頼むぞ」


 鉄平の真っ直ぐな言葉にも、ジーリンは返事をしなかった。


「……ジーリン?」

 鉄平がもう一度呼ぶと、ジーリンはハッと顔を上げる。

「……ハ、ハイ!」


 真里が小さく呟いた。

「……自分の国が敵になるって……複雑だよね」

 ジーリンは何も答えなかった。

 ただ静かに目を伏せるだけだった。


――そして二日後。

 B組は中国へ飛び立った。



 一方A組は、毎日ひたすら訓練が続く。

 もちろん肉体の鍛錬も欠かせないが、それ以上に重視されたのは――極限下での精神の保ち方。

 神気を乱さず、心を制御する技術。

 一年たちは、経験豊富な二年の先輩たちに教わりながら、それぞれの課題に挑み続けていた。

 朝から晩まで、汗と神気の熱気が漂う訓練場。誰もが黙々と、自分の弱さと向き合っていた。


 訓練の合間、蓮が響の動きを見ながら言う。

「響はな、個人戦のときでわかったが――相手を倒すための計画は完璧だ。

 だが、相手が予想外の動きをした時、どうしていいかわからなくなっている。」

 蓮は響の前に立ち、指先で地面をなぞるようにして続けた。

「片手には常に“光の神気”を残しておけ。

 そうすれば、間合いを詰められても、逆に逃げられても即座に対応できる。

 お前の能力は近距離でも遠距離でも活きる。

 ――その特性を、常に意識して動け。」


「はいっ!」

 響は背筋を伸ばし、力強く返事をした。

 その瞳に、迷いはなかった。


 一方その頃、リキは遊太に質問していた。

「俺、能力的に接近戦しか向いてなくて……どうやって間合いを詰めればいいんですか?」


 遊太は少し考え込み、にやりと笑って答える。

「リキ。実戦じゃ、基本チームで動く。一人で突っ込むことなんて、まずねぇ。

 だから、“自分だけで間合いを詰めよう”なんて考えるな。

 仲間の能力で距離を作ってもらえばいい。」

 そう言って、遊太はリキの肩を軽く叩いた。

「お前の力は、近接戦になった瞬間に真価を発揮する。 パワーだけなら、このクラスで1番強い。

 だからお前は、自分が1番活躍できるところで実力を発揮しろ。」


 リキは真剣な表情でうなずいた。

 普段はおちゃらけた遊太の、的確で重みのある助言が胸に響いたのだ。


 訓練場の片隅ではヨルが静かに瞑想をしていた。彼の周囲だけ、まるで時間の流れが遅くなっているような静寂が漂っていた。

 誰もがそれぞれの戦いを抱えながら、ただ前を向いていた。


 ――そして、二週間があっという間に過ぎた。


 アメリカへの出発を翌日に控えた日。

 A組は教室に集められ、蓮が前に立って改めて任務の説明を始めた。

 窓の外には、秋の陽が沈みかけている。オレンジ色の光が教室を満たし、緊張した顔を照らしていた。


「いいか。今回の任務では、A組と零部隊の数名が日本政府の要人を警護する。

 外務・防衛大臣だけでなく、総理も出席する。この国の重鎮ばかりだ。」


 その言葉に教室がざわめく。

 蓮の隣には補佐官の山田・佐藤・田中、そして風吹先生の姿が並んでいた。

 この顔ぶれを見ただけで、任務の重大さが理解できた。


 蓮は声を落とし、続ける。

「会議内容は極秘だ。だから俺たちは二手に分かれて動く。

 ――俺と風吹、それに望月隊長が会議内部、いわゆる総理の側近につく。

 補佐官三名と、お前らは外部警護だ。」


 一瞬、教室の空気が張りつめた。

 外を任されるということは、最初に敵と対峙する可能性が最も高い――それを全員が理解していた。

 誰も言葉を発さなかった。

 紙をめくる音さえ響くほどの沈黙の中で、蓮は全員を見渡す。


「簡単な任務じゃない。

 だが、俺たちはお前たちを信じて同行させる。

 どんな状況になっても、自分を信じろ。仲間を信じろ。

 それが一番の防御だ。」


 その言葉には、軍人の命令でも教師の説教でもない、

 仲間としての覚悟が宿っていた。


 リキもヨルも、無言でうなずいた。

 教室には、出発を前にした緊張と決意が満ちていた。


 そして翌日。

 A組と零部隊がアメリカに向けて飛び立つ。



 こうして二つのクラスは、それぞれ別の任務のために別の場所へ飛び立った。



 この任務が、やがて日本の命運を賭ける戦いへと繋がっていくことなど、

 この時の誰ひとりとして、まだ知る由もなかった。


第二章 零特専校編 ──終幕──


二十二話ありがとうございます。碧甫です。

ついに二章完結です。最後の方に先輩達の登場でキャラがさらに増えたのですが、三章でしっかり深掘りしていくので安心してください。そうしていよいよリキ達の海外任務。今後の展開に期待してください。それではまた三章で

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