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五年子達〜呪われた世代が神を討つ〜  作者: 碧甫
第二章 零特専校編
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第二十話 新たな教室


 個人戦の翌日、リキはヨルと共に病院を後にし、学校へ向かった。

 バスの窓から外を眺めるヨルは、静かに感嘆する。

「それにしても……ここ、広いな」

 リキも同意しながら答えた。

「うん、政府の秘密施設らしいんだけど、こんなに広いと逆に敵が紛れてても気づかないよ」

 ヨルは窓越しに施設の塔や高い塀を見上げ、額に薄く汗を浮かべる。

「……ほんと、まるで要塞みたいだな」

 リキは苦笑しながら、拳を軽く握る。



 やがて学校に到着すると、風吹先生が門の前で待っていた。

「ヨル君! 大丈夫だった?」

 駆け寄る先生に、ヨルは軽く会釈して笑顔で答える。

「心配かけてすみません。もう大丈夫です」

 風吹先生は胸を撫でおろしながら、優しく微笑む。

「そう。よかった……。それとね、今日からクラスが変わるの。担任は変わらないけど、メンバーは少し入れ替わってるわ」



 二人は並んで校舎の中へ入る。

 廊下の空気は、昨日までとはどこか違って感じられた。

 ざわめきも、視線も、何かが変わったように思える。

 教室の前に着くと、扉の横にはA組と書かれたプレートが掛けられていた。

 リキは少し息を整え、扉に手をかける

「……新しいクラス、どんなメンバーなんだろうな」

 ヨルの小さな独り言が、静かな廊下に溶けていった。



 教室に入ると、二人の足元から不意に声が聞こえた。

「はじめまして。今日からよろしく」

 リキたちは一瞬、幻でも見ているのかと思った。

 目の前では、無数の石が人の形を成し、まるで生きているかのように喋っていた。

「……え?」

 ヨルが思わず声を漏らす。

 石が続ける。

「僕は石塚石雄(いしづかいしお)。石の能力者だよ」

 リキは少し戸惑いながらも、礼儀正しく返す。

「い、石雄先輩……よろしくお願いします」


 その瞬間、教室の奥から

「ぷっ」

 と笑い声が上がった。

 響が現れ、口元を押さえながら言う。

「リキ、石に敬語って……気でもおかしくなったか?」

 リキは苦笑いしつつ言い返す。

「いや、石雄先輩が」

 すると響の隣にいた一人の男が、口の端を吊り上げる。

「石が……医師に?」

 その声と同時に、石雄の口調が変わり、ヨルの方へ向き直った。

「ヨル君、まだ耳鳴りが残ってるようだね。無理は禁物だよ」

 ヨルは思わず後ずさる。


「よう、後輩ども。驚いただろ?」

 軽快な声が響き、教室の空気が一気に明るくなる。

「安心しろ。これは俺の能力——文字を自由に変える力さ」

 男は胸を張り、白い歯を見せて笑った。

「俺は文字島遊太(もじしまゆうた)。今日からよろしくな」

 リキたちはまだ状況を飲み込めず、顔を見合わせる。

 響が口を開く。

「遊太さん、二人とも驚いてますね」

「初見じゃ目を疑うのも無理ないからな」

 遊太は誇らしげに肩をすくめ、さらに石に向かってウインクをした。


 リキはすぐに姿勢を正し、丁寧に頭を下げた。

「す、すごい能力ですね……俺は増田力です。今日からよろしくお願いします」

 ヨルも続けて挨拶する。

「月影夜流です。よろしくお願いします」

 二人の声に、遊太は満足げに頷く。

 その横で響が口を開いた。

「ちなみに、こっちのクラスにはもう一人先輩がいるぜ」

 遊太の隣に立っていた先輩は、無言のまま軽く会釈をした。

 顔の下半分を覆うガスマスクが特徴的で、どこか近寄りがたい雰囲気を纏っている。


 響が補足するように説明した。

「この人は音峰凛おとみねりん先輩。声を使う能力だから、普段は喋れないんだ。だから基本は手話か、筆談で話すんだよ」

 凛は静かに片手を上げ、親指を立ててグッドサインを送る。

 その仕草だけで、穏やかで優しい人柄が伝わってきた。

 リキとヨルは顔を見合わせ、同時にうなずく。

(二人ともただものではないな)

 リキもヨルも同じことを考えていた。

 すると遊太が腕を組みながらぼやいた。

「それにしても、これじゃまるで男子校だな。お前らの学年の女子も、俺の学年の女子もみんなB組になっちまったぜ」


 リキはあたりをぐるりと見渡す。

 教室にいるのは、自分たち五人の男子だけ。

「ほんとですね……男子五人に、先生も男って」

 リキが苦笑まじりに言うと、響が肩をすくめた。


 そのとき、隣のクラスから高い笑い声が聞こえてきた。

「ははっ、さっそく女子たちが仲良くなってるな」

 遊太がちらりと壁の向こうを見ながら続ける。

「あっちも、どうせ澪の能力で盛り上がってんだろうよ」



 A組の男子たちが静かに話しているその頃、B組では女子だけの会話が大いに盛り上がっていた。


「じゃあ真里ちゃん、ここに手を置いて」

 穏やかな声でそう言ったのは、B組の先輩――星宮澪(せいみやみお)だった。


 澪は机の上に、まるで魔法陣のような円形の模様を描いていく。

 真里がその上に手を置くと、模様と手相が共鳴するように赤く光を放った。

「うーん……」

 澪が眉をひそめると、真里は不安そうに尋ねる。

「澪さん、何かまずいことがありました?」

 澪は少し考え込んだあと、あっけらかんと告げた。

「そうだね――真里は四十五歳までに死んじゃうね」

「えっ……」

 真里は一瞬、息をのんだ。だが、すぐに落ち着いた表情を取り戻す。

「それは……私、五年子ですから」


「あー、そうだったね。五年子はみんな短命なんだった」

 澪が軽く頷くと、隣でジーリンが腕を組みながら口を開いた。

「あなた、本当に当たるのデス?」

「ジーリンちゃんも気になるの?じゃあ、手を出してみて」

「いいですワヨ。当たらないって証明してあげます」


 ジーリンは挑発するように笑って手を差し出した。

 澪はにやりと笑い、ゆっくりと彼女の手を撫でる。

「うーん……あれれ? ジーリンちゃん、いつも部屋で変なことしてるね?」

「へっ?」

 ジーリンは一瞬で顔をひきつらせ、慌てて手を引っ込めた。

「見えちゃった。部屋で一人なのに、ポスターに向かってしゃべ――」

「しゅ、終了ですワヨ!!」

 ジーリンは真っ赤になって叫び、澪の口を慌ててふさいだ。

 真里も澪も笑いをこらえきれず、教室は笑い声で包まれる。

「あなたの実力、認めますワヨ!」

 ジーリンは耳まで真っ赤にしながらそう言い、澪は満足そうに微笑んだ。


 女子たちの賑やかな笑い声が響く教室の隅。

 その喧騒から少し離れた場所で、取矢の前に一人の男が立っていた。

「君が――登校初日で停学になった、奪宰取矢くんかい?」

 軽い調子でそう話しかけてきたのは、細目の男だった。

 取矢は机に肘をつき、顔を上げようともしない。

 男はお構いなしに言葉を続けた。

「おいおい、無視はないだろ? このクラス、君以外男子いないんだから、仲良くやろうぜ」

 差し出された男の手は白く長い指をしていた。

「俺は七ノ瀬稲荷しちのせ いなり。よろしく」

 それでも取矢は沈黙を貫く。

 稲荷は少し首を傾げて笑った。


――そのとき。


「取矢、仲良くしてよ」

 不意に聞こえたのは、ヨルの声だった。

 取矢はハッとして顔を上げる。だが、そこにヨルはいない。


 代わりに立っていたのは、稲荷だった。

 その口元には、にやりと笑みが浮かんでいる。

「……クソが、やめろ」

 取矢の眉がぴくりと動く。

「わるいわるい。全然こっち見てくれないから、ちょっとからかっただけさ」

 稲荷はおどけたように両手を上げた。

「ま、とりあえず仲良くしようぜ。同じクラスなんだし」

 取矢は視線を逸らしたまま、小さく舌打ちをする。

 稲荷の笑みは、そんな反応すら楽しんでいるようだった。



 チャイムが鳴り、リキたちはそれぞれの席についた。

 ガラガラッ――とドアが開く音がして、眠たそうな顔の蓮がゆっくりと入ってくる。

「……二日連続で朝から来るのは、さすがにしんどいな」

 そうぼやきながらも、その表情にはいつになく真剣な色があった。

 遊太が手を上げて声をかける。

「ジェニーさん、お久しぶりっす!またよろしくお願いします!」

 その隣で、凛も静かに頷く。

 蓮は小さくため息をつきながら訂正した。

「遊太、ジョニーじゃなくてジョニーさんな」

 教室の空気がわずかに和む。


「さて……みんなも知ってると思うが、今日からクラスが変わった。遊太たち二年が帰ってきたからな」

 すると、響が真っ先に手を挙げた。

「先輩たちは今までどこに行ってたんですか?」

 遊太が肩をすくめながら答える。

「俺たちは富士山を警備してたんだよ」

「……あー、富士山っすか」

 一度は納得しかけた響だったが、すぐに首をかしげた。

「――って、富士山?なんでそんなとこいたんです?」

 遊太は困ったように笑いながら振り返る。

「それが俺にもよくわかんねぇんだ。なぁジョニーさん、なんで俺たち富士山なんかにいたんすか?」


 蓮は教壇に肘をつき、淡々と答えた。

「富士山はただの山じゃない。……ある秘密が眠ってる。

 だが、それはまだ公に出てねぇ。

 そのうちお前らにも話す時が来るが、今はまだ言えない」

 教室の空気が一気に張り詰めた。

 蓮はそれを感じ取りながら、話を続ける。

 「それと――今回、一年と二年を一緒のクラスにした理由だが……そろそろ任務が始まるからだ」


「任務?」

 リキが首を傾げる。

 蓮は頷いた。

「ああ。二クラスそれぞれ別の任務がある。お前らA組は警護だ」

 ヨルが静かに問う。

「警護……って、誰をですか?」

 蓮の表情が少しだけ引き締まる。

「二週間後、アメリカとの会議がある。政府の上層部が出席する。その護衛任務だ」

 リキの目が輝いた。

「ってことは、俺たち……アメリカに行けるんですか!?」

 蓮は苦笑しながらも、すぐに釘を刺す。

「ああ、行くには行く。だが遊びじゃねぇ。

 今の情勢じゃ、日米会議なんて開けば“何か企んでる”って勘繰られて、どこから刺客が来てもおかしくねぇからな」

 蓮は話を締めくくる。

「だからこそ、今日から二週間ひたすら特訓だ。

 特にこのクラスの一年は、前回の個人戦で全員負けてる。

 だが、弱いから負けたんじゃねぇ。気持ちの問題で負けたんだ」

 その言葉に、教室の空気が再び引き締まる。

「力だけじゃなく、心の持ち方も、先輩に叩き込まれてこい」

 リキたちは真剣な表情で頷いた。


 一年にとって初の任務。

 

 そして、二年にとっても初の海外任務。


 緊張と高揚、期待と不安。

 教室には、言葉にできない熱が満ちていた。


 二週間後に迫る任務に向けて


 彼らの新たな訓練が、いま始まる。


二十話ありがとうございます。碧甫です。

今回新しいキャラがたくさん増えました。個性的な能力ばかりなので楽しみにしてください。それと初任務。

どんなことが待っているのでしょうか?それではまた次回

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