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五年子達〜呪われた世代が神を討つ〜  作者: 碧甫
第一章 禍野街戦編
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第二話 禍野街

避難所を出てから、二人の足音だけが夜の静寂を裂いていた。崩れたアスファルトの隙間からは雑草が伸び、街は死んだように静まり返っている。


「……そういや、名前聞いてなかったな」      口火を切ったのはリキだった。無理に明るさを装うような声

「俺は増田力(ますだりき)。リキっ呼んでくれたらいいよ」 

 隣を歩く少年は少しの沈黙ののち、短く答える。 「月影夜流(つきかげよる)。……ヨルでいい」

 リキは小さく笑い、冗談めかす。

「夜流か。なんか厨二っぽくてカッコいいな」

「……別に」

 ぶっきらぼうな返事にリキは肩をすくめた。

「で、これからどこ行くんだ?」

 少し間を置きヨルは答えた。

「……禍野街(まがのがい)だ」

「……禍野街って、あそこは五年子の溜まり場で絶対に近づくなって言われてるとこだろ?」

「ああ。けど俺にはそこしか行き場がない」

 ヨルは淡々と答える。

「…親の遺言だ。『禍野街に行け。そこならお前を迎え入れてくれる』ってな」 

 ヨルの口から出た「遺言」という言葉に、リキの足が一瞬止まった。

「……じゃあ、ヨルの親って」

「ああ」 

 吐息混じりのその声は凍り付くほど冷たかった。リキは言葉を飲み込む。

「……俺もだよ。両親を、事故で亡くした。生まれてすぐだったから顔も覚えてないけど、」

 二人の間に、共に「親を失った」という重さが沈む。

しばらく無言で歩き続けたが、やがてリキが気まずそうに笑った。

「ま、親がいない同士ってことで、仲良くやろうぜ」 その笑顔はぎこちない。ヨルは初めて口元を緩め、小さくうなずいた。


 夜も更け、廃墟と化したビルで一夜明かすことにした。天井は崩れ、窓ガラスは割れ、骨組みだけの廃墟。火を焚くわけにもいかず、二人は寒さに震えながら瓦礫に腰を下ろした。

 冷たい石を枕代わりにし横になっても、リキには眠気が訪れない。暗闇の中、心だけがざわつく。自分の体から溢れたあの異常な力――。思い返すたび「五年子」という言葉が脳裏に浮かび、息苦しくなる。

(違う……俺は、普通だ。俺が五年子なんて、おかしい……!)

 胸の中で何度も否定を繰り返す。それでも不安は消えない。

「眠れないのか」

 不意に声がした。ヨルも目を閉じていなかった。「……ヨルも?」

「ああ」 

 二人は立ち上がり、崩れた窓枠から夜空を見上げた。街の灯りが消えた世界で、星々だけが鮮烈に瞬いている。

「なあ、ヨル。ヨルは五年子なんだよな?」

 リキは思い切って問いかけた。

「うん。」

 ヨルの発した、二文字が夜の闇に消えていく。

「俺にはわからないんだ。今まで、カナ達と普通に暮らしてたはずなのに突然化け物扱いされて……五年子って、政府に捕まれば兵器にされるって噂もある。俺はどうしたらいいんだ…」

 避難所での出来事が何度も蘇る。拳には壁をも破ったあの感覚がじわりと残っていた。

「……俺は、ただ生きたいだけだ」

 ヨルの瞳は星空よりも冷たく、けれど強かった。

「俺にはまだ生きて、やらないといけないことがある。」

 その言葉に、リキは息を呑んだ。自分の弱さと、ヨルの決意の差を突き付けられるようだった。

(これからどうなるんだろう)

リキは震えていた。空には無数の星がただリキを見つめていた。


 翌朝。二人は廃ビルから禍野街へ向けて出発した。街道を進んでいると、廃車の影から数人の男たちが姿を現した。刃物や鉄パイプを手にした暴徒だ。

「おい、こんな時に子供が二人で外にいるぜ」「君たち、迷子でちゅか?」

「……くだらねぇ、時間の無駄だ。早く行こうぜ」

 ヨルは男達を気にも止めず横切った。

「テメェッ、ナメてんのか!」

 怒声が響き、背後から鉄パイプが振り下ろされた。リキは動けなかった。助ける気がないのではない。ただ避難所でのことがリキの足にまとわりつく。

(ダメだ)

鉄パイプがヨルの髪先に触れようとした時だった。急に相手の動きが鈍くなった。それどころか、ヨルの体がするりと加速し、相手の懐へ潜り込む。 ゴッ――と鈍い音がして、男が吹き飛んだ。

 残りの暴徒たちがざわつく。リキは呆然とその光景を見つめていた。

「……今の、何をしたんだ?」

「別に、たいしたことじゃない」 

 ヨルは簡潔に言う。説明する気などない。ただそれだけで暴徒たちは怯え、逃げ出していった。

 残された静寂の中、リキは自分の無力さを痛感した。ヨルがいなければ、自分はきっと殺されていた。


 数日後。疲労と空腹に耐えながらも、二人はついに「禍野街」と呼ばれる荒れ果てた区画に辿り着いた。そこは廃墟の集合地帯でありながら、不思議と人の気配がある。

 だが、その入口に立ちはだかる影があった。

 屈強な体格の男。鋭い眼光と分厚い腕。二人を一瞥し、低く唸る。

「何しにきた、ここは子供の来る場所じゃねえ。」

 空気が一変した。リキもヨルも本能的に悟る。この男はただ者ではない。

 圧倒的な存在感に、息が詰まる。ヨルは反射的に一歩前に出たが、言葉はまだ喉に引っかかって出てこない。

(来るべきでなかった)

リキは、踏み潰される前のアリのように

ただ死を待つしかなかった。


第二話読んでいただきありがとうございます。碧甫です

なかなかシリアスな展開が続きますが次回三話に期待してください。ところどころ改行の位置がおかしいですが、気にせずお願いします。それではまた次回

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