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五年子達〜呪われた世代が神を討つ〜  作者: 碧甫
第二章 零特専校編
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第十四話 交差する思い


 リキたちは制服に着替え、食堂へと向かった。

「らっしゃいらっしゃいらっしゃい!」

 厨房の奥から威勢のいい声が響く。

 白いコック帽を被った初老の男が、中華鍋を豪快にあおっていた。

 リキたちはカウンターに横並びで腰を下ろす。

 男はちらりとリキを見て、にやりと笑った。

「おっ、新入生かい?」

「はい」

 リキが答えると、香ばしい匂いに腹が鳴りそうになる。

 響が声をかけた。

「おじちゃん、いつもの」

「あいよ! みんなもいつものでいいかい?」

 リキ以外の全員が無言でうなずく。店主はまるで分かっていたかのように、手際よく料理を並べていく。

 和食、洋食、そしてジーリンの前には本場の中華。 どれも湯気を立て、見ているだけで食欲をそそった。

「いただきまーす!」

 全員が一斉に食らいつく。午前の訓練で削られた力を、食で取り戻すかのように。

 店主がリキの前に来て、にこやかに話しかけた。

「ヘイ坊主、名前は?」

「リキです」

「よしリキ!お前の好きな料理を教えてくれ。この料理の天才シゲちゃんが、なんでも作ってやろう」

 シゲちゃんは楽しそうに笑った。だが、リキは少し困ったように黙り込む。

「……母ちゃんの好きな料理とか、なかったのか?」「僕、両親が早く亡くなって……母さんの料理、食べたことないんです」

 一瞬、空気が止まる。

 けれどシゲちゃんはすぐに明るく笑って言った。

「そうかいそうかい。そりゃ悪かったな。でも安心しな。今日から俺の飯がお前の“家庭の味”だ」

 彼はウインクをして、

「じゃあ、みんな大好きカレーライスでも作るか!」

 その言葉の数秒後、湯気を立てたカレーがカウンターに並んだ。

「はやっ!」

 リキが思わず声を上げると、隣で爆食いしているヨルが笑う。

「シゲさん、早いだけじゃなくて味も別格だぜ」

 リキはスプーンを手に取り、そっと一口すくう。

――病院での無機質な食事を思い出す。この一ヶ月、栄養は足りていても、心が満たされることはなかった。

 舌の上で広がる温かさに、胸の奥がじんわりと溶けていく。

「……うまっ」

 思わずこぼれた声。今まで食べたどんな料理よりも、優しくて、力強い味がした。

 知らなかった“家庭の味”というものを、初めて理解した気がした。

 リキは小さく笑った。ほんの少し、この場所が“家”のように感じられた。



 食事の途中でリキが話を切り出す。

「それにしても、響。鏡、作れるの?」

 響は自慢げに胸を張った。

「うん。今は手鏡くらいだけど、神気をもっと増やせば――次こそ山田さんに勝てるな」

 ヨルが呆れたように笑う。

「能力で勝っても嬉しくねぇだろ」

 響は少し眉をひそめて言い返す。

「ヨル、山田さん女だからってなめてんだろ。戦ったらわかるけど、あの人、マジで強いぞ」

「五十嵐さんに比べたら、ほどほどだな」

 ヨルがぽつりと口にする。

「誰だよ、それ?」

 響が首をかしげた。

 リキが答える。

「元・零部隊の隊長で、俺たち、禍野街にいた頃に世話になった人なんだ」

「あぁ……報道で見たことある。けど、悪いやつだろ?」

 響がボソッと呟く

 その瞬間、リキは立ち上がった。

「違うっ!五十嵐さんは“はめられた”んだ! 禍野街で静かに暮らしてただけなのに、世間が怯えて勝手に攻撃してきたんだ!」

 ヨルがすぐに立ち上がり、リキの肩に手を置く。「……まぁ、落ち着け。一旦な」

 リキはハッとして、ゆっくり席に戻る。

 その様子を見ながら、響が淡々と口を開いた。

「悪かった、リキ。……でも俺は、あの五十嵐ってやつをどうしても許せねぇ」

 リキが顔を上げる。ヨルも静かに視線を向けた。

「俺は母子家庭だった。父親は、俺が五年子だって分かった瞬間に家を出てった。母さんは役所勤めだったけど、知り合いに頼んで、俺を普通の子として登録してくれた。そうやって、なんとか二人で普通に生きてたんだ」

 響は拳を握りしめる。

「でも――禍野街の一件が起きて、政府が“五年子を見つけたら報酬が出る”なんて言い出してから、全部終わった。その知り合いが、俺のことをすぐ売ったんだ。次の日には家の前に部隊が来て、俺は連れて行かれた。残された母さんは、五年子を匿ってた女って言われて、近所からも職場からも追われた」

 リキは息を詰める。

 響は続けた。

「今も、母さんはバイトを掛け持ちして、一人で生きてる。俺がここにいる間も、毎日“平気だから”って笑って電話してくれる。……でも、もう声が限界なんだ」

 少しの沈黙。

 響は小さく息を吐く。

「禍野街であんなことがなきゃ、俺は今でも母さんと笑って暮らせてた。だから――リキ、ヨル。悪いけど、どれだけその五十嵐がいい人でも、俺はあいつらを許すことはできねぇ」

 静かな食堂の空気が、一瞬だけ重く沈んだ。


 ヨルが口を開く。

「……響。お前の言ってること、間違ってねぇよ」

 その声は穏やかだった。けれど、どこか張り詰めていた。

「禍野街があんな風になったのも、五十嵐さんが捕まったのも、全部“世間”が勝手に決めつけたせいだ。お前の母さんだって、その犠牲の一人だ。怒って当然だ」

 響は目を伏せたまま、小さく唇を噛んだ。

「……ヨル、俺は正直、政府も、世間も、何も信じられねぇ」

「信じられなくてもいい。けど――」ヨルは言葉を切って、少し間を置いた。

「俺たちは、この場所で生きてる。少なくともここにいる奴らはみんなお前の仲間だ。」

 ヨルは続ける。

「正直、誰が正しいとか、もう簡単に言える時代じゃない……それでも、」

 その声は震えていたが、まっすぐだった。

「将来俺たちがこの国を守るために能力を使えば、世間は変わるさ。そしたらお前の母さんだって報われる」

 響はしばらくリキを見つめ、そしてふっと息を吐く。

「……そうだな。俺がここで腐ってても何も変わらねぇ。早く一人前の兵士になって、母ちゃんを楽にしてやらねぇとな」

 リキとヨルが笑う。

 その空気に、真里もほっとしたように笑った。

 ただ一人、ジーリンだけが少し俯いていた。

「さぁ、午後も訓練だ。張り切っていくぞ!」


 

 この日は一日中外で訓練を行い、五人はヘトヘトになるまで体を酷使した。

 寮に戻る時間。リキは蓮に連れられ、自分の部屋に案内された。男女で階が分かれており、リキの隣は響の部屋だった。

 ちょうど響が部屋に入るところで、リキは声をかけた。

「響!」

「おう」

 二人は近づき、握手を交わした。

「改めて、今日からよろしくな」

「うん」

 リキは一通り見てから部屋を出た。

 今日はヨルに寮を案内してもらうことになっていた。

 響の隣の部屋の電気はついていない。

(停学中の子か)

 そう思いながら歩いていくと、角の部屋にヨルが待っていた。

「リキ、行くぞ」

 二人は寮を一周した。

 日も落ちてきて、ヨルが言った。

「リキ、最後屋上行くか」

 二人は屋上に上がり、海沿いを見下ろす。

 夕陽が島の影に沈みかけていた。

 夕陽を見ながらヨルが話し始めた。

「俺らの学校は海沿いの山にあるだろ。あの離島、見えるか?」

「うん」

「あそこは重要犯罪者が収容されてる刑務所だ。五十嵐さんも霧原さんも、今あそこにいる」

 ヨルの目が、夕陽に照らされて赤く光る。

「俺、いつもここで夕陽を見るんだ。あの島に隠れる瞬間、五十嵐さんたちも同じ空を見てる気がしてな。だから思うんだ。――こんな世界、俺が変えてやるって」

リキは頷く。

「うん。五十嵐さんは間違ってない。俺も、この世界を変えてやる」

 二人が屋上を出ようとしたそのとき、反対側で誰かが何かをしていた。

 ジーリンだ。尖った紙飛行機を手にしている。

「ジーリン、何してるの?」

「手紙を書いていますの。祖国の両親にね。私は中国からの“特別留学生”として来たのですわ。五年子の能力を国際的に共有して、暴走を防ぐための研究が目的。その参加者には莫大な報酬が払われるって聞いて、……私の家、貧乏だったから、私が行くって決めたのです。」

 ヨルが首をかしげる。

「でも、その紙飛行機で届くのか?」

 ジーリンは苦笑する。

「届くわけないでしょ。多分、この山も越えられないですわ。……でもいいの、ただの気休めですから」

 風が吹き、紙飛行機はゆっくりと空へ舞い上がり、赤い夕焼けの中に消えていった。


 この学校に集まった五年子たちには、それぞれの目的がある。

 そして、彼らは交わる運命の中で、同じ場所で生きていくことになるのだった。


十四話ありがとうございます。碧甫です。今回は少し重ための響の過去についても書いてみました。またジーリンはカタコトに見せるために会話をカタカナで表記していたのですが、読みにくいので、普通にします。それではまた次回

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