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五年子達〜呪われた世代が神を討つ〜  作者: 碧甫
第二章 零特専校編
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第十二話 二年零組


 校舎に一歩足を踏み入れると、広々としたホールの真ん中で、見慣れた人影が待っていた。

 さっきぶつかった少女の姿はもうなく、そこには優しい微笑みを浮かべる風吹だけが立っていた。


「リキ君!」

 風吹は笑顔で手を振った。

「風吹さん!」

 久しぶりの再会に、リキも思わず顔をほころばせる。

「体調はもう大丈夫?」

「はい。おかげさまで」

「そう、よかったわ」

 風吹は安堵したように頷くと、表情を引き締めた。

「じゃあ、早速案内するわね。リハビリで一ヶ月遅れちゃったけど、今日から正式にクラスに合流できるから」

 リキの胸は高鳴っていた。

(ヨルに会える。新しい仲間にも――)

 

 そう言うと、風吹はそのまま長い廊下を歩き出した。リキも後を追う。

 両脇に並ぶのは、普通の学校では見たことのない部屋ばかり――「能力研究室」「五年子資料室」「零員室」……。

(まるで研究所みたいだ)

 歩きながら、リキの胸には期待と同時に不安がじわりと広がっていく。

 やがて、二人が立ち止まった先の扉には「2-0」と書かれていた。風吹が軽くノックし、

 ドアを開けると――中からざわめきが溢れ出した。


 数人の声が飛び交う中、リキの耳に聞き覚えのある声が届く。

「リキ!」

 勢いよく立ち上がったのはヨルだった。

「ヨル!」

 リキも思わず声を張り上げる。

 次の瞬間、二人は駆け寄り、互いの存在を確かめ合うように笑い合った。久しぶりの再会に、教室の空気が一瞬だけ温かく色づいた。

「ヨル知り合いか?」

 教室にいた男が声をかける

「あぁ、俺がよく話してたやつさ」

 ヨルが笑顔で応える。


キーンコーンカーンコーン

 チャイムが鳴った。

「さぁ一旦席について」

 風吹がそういうとヨルは席に戻った。

「知ってる人もいるけど、改めていうわね。

今日からこのクラスに加わる、、」

 風吹がリキを紹介しようとした時、


ガラガラガラガラ

 いきなりドアが開いた。

「ガンシャンラ!」

 息切れをしながらさっきぶつかった女が目の前にいた。

「いやもうアウトよ、これで何回目?」

 風吹は顔をしかめる

「イヤ……ダイジョブ、デスワヨ」

 少女はなぜか胸を張ってそう言うと、空いている席へ座り込んだ。

「まったく……」

 風吹は小さくため息をつき、仕切り直す。

「――改めて紹介するわ。今日からこのクラスに加わる増田力君です」

「リキです。これからよろしくお願いします」

 軽く会釈しながら答えると、風吹は

「ヨル君の隣ね」

 と空席を指さした。

 リキはヨルと目を合わせ、少し照れくさそうに笑ってからその席に座った。

 風吹は腕時計を見てぼやく。

「……あいつ、まだ来ないのね」

 リキはきょとんとしてヨルに尋ねた。

「風吹さんが先生じゃないの?」

 ヨルは苦笑しながら答える。

「風吹先生はこの学校の総括。つまり、校長先生みたいな立場だよ」

「へぇ、じゃあこのクラスの先生はどんな人?」

 リキの問いに、ヨルは少し笑いながら肩をすくめた。

「ジョニーさんは見ての通り、いつも遅刻してて、眠そうだし変な人だよ……でも悪い人じゃないんだ」

(ジョニーさん?)

 リキは首をかしげた。海外の先生なのだろうか――。

 その時、ドアが勢いよく開いた。

ガラッ

 入ってきたのは、完全に日本人の男だった。目の下には深いクマ、シャツの裾は出たまま。男はそのまま教卓に向かうと、椅子に腰を下ろして突っ伏した。

「おい、遅れてるのよ。新入生も来てるのに何してるの」

 風吹が眉をひそめて叱る。

 男は片手を軽く上げて、眠そうに答えた。

「んー……んっ、ねむっ」

 パシン。風吹の手が容赦なく男の頭を叩いた。

「ごめんね、みんな。こんなのが担任で」

 生徒たちは笑うに笑えず、気まずい空気が流れる。

 風吹はもう一度男の頭を叩いてから、ため息をついて教室を出て行った。


――静寂。

 しばらく沈黙が続いたあと、男が顔を上げた。

「んっ、新入生、来てるんだっけ?」

リキが立ち上がる。

「はいっ、俺は――」

「増田リキ。禍野街から来てヨルとは元から友達、だろ?」

 男はすらすらと言い当てた。

「えっ、なんで……」

 リキは目を丸くする。

 隣の男子が苦笑する。

「ジョニーさんはさ、人の頭の中すぐ覗くんだよ。考えてること、丸わかり」


 リキは軽く震えた。心を読まれるよりも、明らかに日本人なのに“ジョニー”と呼ばれている方がむしろ怖かった。

(……なんで“ジョニー”?)

 そう思った瞬間、教卓から声が飛んだ。

「みんながジョニーって呼んでんのに違和感覚えてんだな」

(バレてる……!)

 リキは心の中で叫ぶ。

 男は面倒くさそうに椅子を回し、スクリーンに何かを書き始めた。


神 楽 蓮

 どう見ても「ジョニー」ではない。

 男は椅子にもたれながら言った。

「俺は神楽蓮(かぐられん)。このクラスの担任だ。教師経験ゼロだから、先生らしいことは期待すんな」

 そう言って、ゆっくり立ち上がる。

「でな、俺、先生って呼ばれんのがマジで嫌いなんだよ」

 蓮はニヤリと笑う。

「だから代わりに“ジョニーさん”って呼べ。俺が世界一尊敬してる俳優――ジョニー・ベルフォード様から取ってきたんだ」

 教室は一瞬静まり返り、

 ヨルが小声でつぶやいた。

「……な、変な人だろ」

 リキは苦笑いしながら頷いた。


 蓮はパンと手を叩く。

「よし、全員いるな。リキのためにも、とりあえず自己紹介だ。名前と……好きな俳優でも言っとけ」


ヨルは面倒くさそうに立ち上がる。

「月影夜流。……テレビとか見ないから、好きな俳優はいない」

 そう言ってすぐに席へ戻った。

「ノリ悪いなぁ。はい、次」

 リキの隣の男が勢いよく立ち上がる。

鏡堂響きょうどう ひびき。俳優は知らねぇけど、好きな野球選手は世界の金柴(かねしば)だ」

「おっ、3年で姿を消した伝説のスラッガーか。渋いな」

 鏡堂の隣の女子がもじもじ立ち上がった。

「み、水田真里(みずたまり)です。私は人より犬が好きです。お家にペガサスってワンちゃんがいます」

「ペガサスって犬の名前かよ……まあ、いいと思う」

 最後に少女が勢いよく立ち上がる。

「ワタシ、紙琳ジーリン! チュウゴクカラキマシタ! スキナヒトハ、龍天嵐ロン・テンラン!」

「……いや、誰だよ」

 蓮はまっすぐ突っ込んだ。

 教室に笑いが広がり、リキはようやくこの場所が少しだけ日常に近づいた気がした。


 蓮はゆっくりと教卓に肘をつきながら言った。

「じゃあ授業を始めるぞ。――早速だが、全員そろったことだし、今日は自分の能力を紹介してもらう」

 リキはふと、夜流の隣の空いた席に目を向けた。

「これで全員……なの?」

 小声で尋ねると、ヨルはそっけなく答えた。

「まぁ、一応な」

 その言葉の意味を深く考える前に、蓮の声が再び響いた。

「今後、戦闘で仲間と連携を取るのは必須だ。だが中には――俺みたいに相手の考えてることを読み取る奴もいる。だから“切り札”は無理に見せなくていい」

 教室に緊張が走る。


「じゃあ、訓練着に着替えたら外に来い。――ああ、そうだ、リキ。まだ渡してなかったな」

 蓮は言いながら、黒い戦闘服をリキに放った。全身を覆う伸縮素材のスーツ。胸元には白く「零」の文字、右手首のタグには「F-6」と刻まれている。


 更衣室で着替えながら、リキは隣で同じく服を整えていたヨルに声をかけた。

「ヨルは、何番なの?」

「俺はF-1だぜ」

 と、ヨルは胸を軽く叩いて笑う。

 続いて、鏡堂にも尋ねる。

「鏡堂君は?」

「俺はF-3だ。あと、響でいいよ。リキは6番だろ?」

「うん。……なんで分かったの?」

 ヨルが説明した。

「番号は、この学校に入った順番で決められてるんだ。単純だろ?」

「じゃあ、2番は誰なの?」

 ヨルは少し間をおいて答えた。

「実はな――このクラス、もう一人いたんだ。今は停学中だけどな」

 リキは響の方を見る。響は首を横に振り、淡々と言った。

「俺が来た時には、もういなかった。理由は聞いてねぇ」

 ヨルが気まずそうに口を開く。

「……まあ、ちょっと色々あったんだ」

 訳ありの雰囲気に、リキも響もそれ以上は何も聞かなかった。


 着替えを終え、廊下を抜けると――そこには学校とは思えないほど広大な空間が広がっていた。

 砂の匂い、金属のきしむ音、風に混じる焦げたような匂い。


 すでに訓練場には、女子二人の姿があった。彼女たちも同じ黒の戦闘服を着ており、それぞれの右手付近には「F-4」「F-5」の文字が刻まれていた。


 さらに、訓練場の奥――金属製の柵の向こうに、こちらを監視する男の姿が見えた。無表情で腕を組み、ただ静かに全員の動きを観察している。


 服に刻まれた番号は、まるで人ではなく“機械”のように管理されている印のようだった。リキの胸に、ひやりとした恐怖が走る。


――ここは、楽しい学校なんかじゃない。

 その現実を、リキは改めて思い知らされた


第十二話ありがとうございます。碧甫です。

今回かなり新しいキャラが増えました。重要キャラばかりなので今後ともよろしくお願いします。それではまた次回

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