第一話 五年子
『こちらは五年子対策本部より緊急アナウンスを行いますーー現在、市内全域において五年子による暴動が確認されています。市民の皆様は直ちに避難所へ退避してください。繰り返しますーー』
スピーカーから流れる無機質な声が、鉄とコンクリートの壁に反響する。
避難所は、すでに多くの人でごった返していた。泣き叫ぶ子供、苛立つ大人、不安を紛らわせるように祈る老人、空気は張りつめ緊張感が漂った。
力は、避難所の片隅で腰を下ろしていた。十一歳の身体に似合わぬ鋭い目つきで、人の群れをじっと観察している。
隣に座るのは同い年の少女、佳奈。
リキは生後間も無くして事故で両親を失った。引き取ってくれる親戚もおらず最終的に近所で仲の良かったカナの家族が引き取った。カナの両親と共にこの避難所に来て今日で3日が経つ。周囲も次第に怒りを覚え始め、
「五年子のせいで….」
「悪いのは五年子なのになんで私たちまでこんな……」
五年子という言葉が当たりを飛び交うようになった。
"五年子”
五年に一度、能力を持った子供が何人か生まれる。その代わり、その年の他の子供たちは代償のように死んでしまう。
だからこそ人々は五年子を"呪いの子”と呼び、忌み嫌う。
そんな中、
避難所の入り口が激しく叩かれ南京錠の鎖が嫌な音を立てた。
「開けろ!」
怒声が響き、扉がこじ開けられる。数人の男たちがなだれ込んできた。手には鉄パイプや刃物。暴徒の目は血走り、恐怖と憎悪に支配されている。
「ここに"五年子"が紛れ込んでるらしいな、ここに逃げてきたって聞いたぜぇ、黒い髪のガキなんだとか……お前か?」男の視線がリキを捕らえた。周囲の大人たちもざわめく。
「まさか......」「こんなところに.....」
「やめてください!」両親の腕を振り払いリキの前でカナが立ちふさがる。
「リキは私と同い歳です!五年子じゃありません!」
彼女の声は今にも途切れそうな、かぼそい声
だが共に育ってきたリキを守るため震える足を押さえて立っていた。
「うるせぇ!」男の一人がカナを突き飛ばす。「テメェも庇うってことは同類か?」
刃物がカナに向けられた瞬間、リキの胸の奥で何かがはじけた。
それは血の流れを逆巻かせ、骨の奥から噴き出すような衝動だった。
「.....カナに、触るな」
リキの口から漏れた低い声に、暴徒たちが一瞬たじろいだ。
次の瞬間一ー彼の心臓の下あたりの暗い空洞から、目に見えぬ”圧”が溢れ出す。
熱は骨を伝い、筋肉を裂く。だが痛みではない。むしろ歓喜。意思が形を持ち、力となる感覚。
躊躇いなんてものは一つもなかった。
突き上げたリキの拳は鉄パイプを持った男の頬にぶつかり
一瞬にして男は宙を舞い、壁に叩きつけられる。
刃物を振り上げた者は、蹴り一撃で沈んだ。
「な、なんだこいつ.......!ただのガキじゃ......!」「五年子だ、本物の五年子だ!」
恐怖が暴徒たちの叫びをさらに荒げた。
リキは、自分でも理解できぬほどの速度で、次々と大人たちを倒していく。
それでも数は多い。取り逃がした一人が、懐から黒光りするものを抜き取った。
銃口。
乾いた破裂音。
「ーーつ!」
時間が引き延ばされたように、銃弾が空気を裂いて迫ってくる。リキは避けられないと悟った。
(死ぬのか.......)
死を覚悟したその瞬間、視界の端から何かが入高速に迫ってきた。
黒い影。自分と同じ年頃の少年ーー。
一瞬の出来事だった
弾丸は、リキの頭部に届く直前で軌道を逸れ、壁にめり込んだ。
暴徒も、避難民も、そしてリキ自身も息を呑む。
「......間に合った」
低く呟いた少年の名は一一夜流。
彼の周囲の空間だけが揺らいで見えた。
地上で見れるはずもない水面の上の波のような、不気味な気配を纏って。
「お前も......五年子か」
リキの言葉でヨルはわずかに口角を上げた。
銃弾を逸らされた暴徒の男は、絶叫しながら再び銃を構えた。
しかしその動きが、妙に遅く見える。
「.....!遅い”」
ヨルの瞳が細められると、空間全体が淀んだように、
歪む。
引き金を引く指の動きさえ泥の中で、もがくかのように遅い。
「今だ!」
リキは叫び、残る力を振り絞って走る。
拳に込めた意思が熱く凝縮し、銃を構えた男を壁ごと吹き飛ばした。
一瞬の静寂。
やがて、避難所に残った暴徒たちは恐怖に駆られ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
「......助かったのか?」
息を荒げながらリキが呟くと、ヨルは首を振った。
「いいや、これからさ」
その言葉が妙に重く響いた。
だが安堵する間もなくー一周囲の避難民たちの視線が突き刺さる。
怯え、恐怖し、口々に囁く。
「やっぱり五年子だ......」「怪物だ......」
「避難所に置いておけるか!」
その場にいた大人たちの眼差しは、先ほどの男達と何ら変わらなかった。
カナでさえ両親に腕を掴まれ、涙を浮かべながらリキを見つめる。
「リッキー......」
呼び止めるべきかどうか、、
言葉を発したカナ本人もわからず、その声は、どこか哀れみを含んでいた。
一瞬にしてリキは悟った。
(ここにもう居場所はない)
ヨルは表情ひとつ変えず、あたかもこうなることを分かっていたように淡々と避難所から出る用意をしていた。
「行くぞ」
ヨルが言ってもリキの脳にはまだ足を動かすなんて考えはなかった。
ヨルは強引にリキの手を引き二人は背を向け、避難所を後にする。
誰も追いかけてこない。追うはずもない。
ただ、冷たい雨音が二人を掻き消し、暗闇の中に二つの小さな背中が吸い込まれていった。
五年子達をご覧いただきありがとうございます。碧甫と申します。今回、僕自身初の小説制作ですので、表現がおかしなところや、誤字脱字も多々あると思います。お気づきになられましたら。連絡のほどよろしくお願いいたします。この作品は、かなり長編になると思いますので最後まで是非お楽しみください。それではまた次回




