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魔王殲滅  作者: 蒼乃
9/9

エデンルシア家当主

玉座の間に、沈黙が落ちた。

静寂という名の鎖が、全員の喉元を締めつける。

石造りの大広間の壁に掛けられた巨大な紋章旗が、微かに揺れていた。

誰かの呼吸に合わせて風が生まれたのか、それとも、外の霧がまた一歩この国を蝕んでいるのか。

重厚な甲冑の音が微かに響く。

七雄の一人――聖剣士オルガが、腰の聖剣に手を添えていた。

その動きは脅しではない。

それは、この場にいる全員が理解していた。

必要とあらば、即座に剣を抜き、敵を斬る。それだけの話だった。

だが、そのとき。

静かに、まるで古い湖に一滴の雨が落ちるような声音が、大広間に響いた。

「お主の名を、聞いてもよいか?」

語りかけたのは、玉座に座す国王エルダ。

年老いてなお穏やかなその瞳には、いかなる怒りも、恐れも映っていない。

だが、目の奥には――国を護る者としての揺るぎない意志があった。

男は一歩前へ出た。

背筋を伸ばし、礼を忘れず、しかし威圧も媚びもなく、言葉を紡ぐ。

「ガルヴァン・エデンルシアと申します。……こちらは、娘のミヤです」

その瞬間だった。

「――ッ」

わずかに、甲冑の軋む音。

聖剣士オルガの眉が、深く歪んだ。

唇の端には、怒りにも、軽蔑にも似た緊張が走る。

「エデンルシア……だと?」

その名を知る者にとって、それは平穏を打ち砕く言葉だった。

兵士たちの間にも、ざわり、と小さな波紋が広がる。

「ご存じなのですか?」

小さく首を傾げたのは、勇者ユウリだった。

まるで、まだ自分だけが蚊帳の外にいるかのように。

オルガは肩越しにユウリを一瞥し、乾いた声で言った。

「……知らねえのか。あの一族は、暗殺家業を代々営んできた連中だ。

子どもも、女も、狙った獲物は必ず仕留める。迷いも情けもない。まさに《仕事人》だよ」

その声に、兵士のひとりが息を飲んだ。

もうひとりが、腰に手をやった。緊張が張りつめる。

だがそれだけではなかった。

エデンルシアの名に、もう一つの影がついて回る。

「……まさか、“悪魔の子”……」

誰かの声が、震えていた。

その言葉が広がるように、大広間の空気がさらに冷たくなる。

“悪魔の子”――

人類の中でも、ごく限られた者だけが持つという、異能。

魔物を従わせ、言葉を超えた意思疎通を可能とする力。

同族以外の者からは忌み嫌われ、恐れられる、異端の力。

「……まさか、あのスライム」

兵士の視線が、ガルヴァンの娘――ミヤに注がれる。

彼女の懐で、かすかに揺れた影。まるで意識を持つそれは、確かに魔物だった。

それでもガルヴァンは、動じなかった。

彼は娘をかばうように一歩前に出ると、胸に手を当て、深く頭を垂れた。

「我らがこうしてこの場に招かれたこと、誠に光栄に存じます。

……ですが、我らがこの国に牙を向ける意志は、断じてありません」

「ならば、何故来た?」

オルガの問いは鋭い。

刃のような視線が、親子に突き刺さる。

「……あなた方の力になるためです」

ガルヴァンはそう言った。

たったそれだけの言葉に、場の空気が揺れる。

誓いでも、抗弁でもない。

あくまで“申し出”――静かな意志だった。

だが、兵士たちの一部はまだ納得できず、足を半歩踏み出す。

誰かが剣の柄に手をかけかけた、瞬間。

「落ち着け」

それを止めたのは、ユウリだった。

彼は鋭くも、どこか柔らかな声音で言った。

「話だけでも、聞いてみては?

敵か味方かは、それを聞いてからでも遅くない」

その言葉に、オルガは目を細めた。

だが、数秒後には肩を落とし、軽く息を吐いた。

「……全く、お前は昔からそうだな。甘すぎる」

「それが俺の役目だろ。剣はオルガが握ってるんだから」

短いやり取りのあと、国王エルダが静かに頷いた。

「……では、話を聞かせてもらおう。席に着くがよい、ガルヴァン殿。ミヤ殿も」

大広間に置かれた、重厚な円卓。

七雄と、エデンルシアの親子。

緊張と不安、警戒と一縷の希望。

すべてを飲み込んで、その場は静かに、次の一歩へと動き始めた。


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