調査団
国王エルダが直々に命じた調査命令は、王都中を駆け巡った。
霧の異変は長引き、出国を制限していたが、もはや座して待つことはできない。
勇者ユウリ・グレイシアと聖剣士オルガに白羽の矢が立ち、メルティエールの選りすぐりの兵士たちと共に――新たな部隊『調査団』が結成された。
「勇者殿、我らもお供します!」
兵士たちが誇らしげに整列する。
ユウリは首を縦に振り、静かな声で告げた。
「頼もしいですね。…では、行きましょう」
重苦しい空気が漂う検問所。
ユウリが馬を引き、国境へ向かおうとすると、見送りの市民たちが門の外から声を張り上げた。
「ユウリ様っ!どうかご無事で!」
「信じちゃいるが、あんたが死んじゃ、おれたちゃお終いだぞ!」
声は泣き出しそうに揺れていた。
ユウリはわずかに微笑むと、群衆の方へ向き直る。
「心配はご無用です。これ以上の被害が出ないよう、私たちが必ず原因を突き止めます」
毅然としたその声に、門の前の人々は息をのんだ。
兵士たちが号令をかけると、重い門が開き、調査団は霧の中へ消えていった。
やがて調査団は帰還した。
鎧に霧の雫をまとったまま、ユウリは国王エルダと官僚たちの前に立ち、口を開いた。
「国境を越え、隣国ハスリィへ続く街道を進みましたが、ある地点で――透明な壁に阻まれました。
剣を突き立てても、魔法を放っても、びくともしません」
官僚の一人が机を叩いた。
「そんな馬鹿なことがあってたまるか!他の道も調べてみよ!」
ユウリはわずかに目を伏せる。
「もちろん調べました。北も南も同じです。透明な壁は道を塞いでいます」
その言葉に、部屋の空気が凍りつく。
オルガが続けて報告する。
「周辺の村村には襲撃の痕跡がありました。炎で焼かれた柵、倒れた家屋……。
商隊が使っていたと思しき荷車の破片も、そこかしこに散乱していました」
「……遺体はなかったのか?」
官僚の一人が低く問う。
オルガは短く頷いた。
「はい。襲撃した何者かに連れ去られた可能性が高い。
生存の可能性があるとすれば――ファッロ様の領地です」
場がざわめいた。
ファッロ。現国王エルダの実兄にして、かつて王位継承権を剥奪され、今は国境近くに城を構える男。
遠く離れたその領地は、もし避難民がそこに集められているとすれば、唯一の安全地帯である可能性があった。
「……だが、ファッロ様の領地までは距離がある。兵站を整える必要があるだろう」
官僚たちは顔を見合わせ、国境を越えるための準備を進めることを決めた。




