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魔王殲滅  作者: 蒼乃
3/9

ギルド協会

 翌日、教会の鐘が昼を告げる頃。

 僕は中央広場の噴水の前で、革袋を大事そうに抱えて立っていた。水飛沫を浴びて虹色に輝く噴水の前は待ち合わせの定番だが、今日は胸の奥が落ち着かない。


「……リークくん、その手に持ってる大きな袋はなに?」


 軽やかな声に顔を上げると、赤髪のポニーテールを揺らしたテレサが立っていた。革のベストに木剣を背負うその姿は、昨日よりもさらに凛々しく見える。


「これ? ポーションだよ」

 僕は袋を少し持ち上げて答えた。中には色とりどりの小瓶が十本ほど、液体が光を反射してきらめいている。


 テレサは袋を受け取り、一本を取り出して逆さにしてみたり、光に透かしてみたりと真剣に観察しはじめた。

「これは……癒し草に、竜胆、それと――火蜥蜴の胆液まで使ってるわね」


「えっ、分かるの?」

 思わず目を見開く。僕だって素材の配合に苦労したのに、テレサは一目で見抜いてしまった。


「お父さんの商会で薬草や素材の取引もしてるからね。目利きは鍛えられてるのよ」

 にっと笑うと、彼女は瓶をそっと袋に戻し、僕に返してきた。

「すごく良質なポーションね。これなら冒険者たちだって大喜びするわ」


「そ、そうかな……ありがとう」

 褒められた瞬間、胸の奥の不安が少しだけ和らいで、思わず笑みがこぼれた。



 ギルド教会は街の中央に聳えていた。厚い石壁に刻まれた装飾は威厳に満ち、正面の巨大な木の扉は人を圧倒する重厚さだ。僕とテレサは顔を見合わせ、小さく息を整えてから扉を押し開けた。


 中は活気と熱気に満ちていた。鎧に剣を帯びた冒険者たちが行き交い、酒場のようにざわめきが響く。汗と鉄と獣皮の匂いが混ざり合い、外の空気とはまるで別世界だ。


 周囲から注がれるぎろりとした視線に、隣のテレサが小さく肩を跳ねさせた。僕自身も胃が縮む思いだったが――


「おお! リークじゃねえか!」

 どこからか豪快な声が響く。途端に場の空気が変わり、次々と冒険者たちが笑顔で声を掛けてきた。


「シルフィンさんに会いに来ました!」

 僕は受付へ向かいながら答える。


 カウンターの奥にいたのは、鮮やかなラベンダー色の髪を背まで流す女性――七雄のひとり、シルフィンだ。


「あらぁ、リークくんじゃない」

 緩やかな声で微笑む彼女に、僕は慌てて袋を差し出した。

「シルフィンさん、こんにちは! これ、頼まれていたポーションです」


「ありがとうねぇ。リークくんのポーションは効くって評判なのよぅ」

 嬉しそうに受け取る仕草に、胸の奥がじんと温まった。


 ふと、シルフィンが僕の隣の少女に目を留める。

「あらら? ガールフレンドを連れてきてくれたのぉ?」


「ち、ちがいます!」

 慌てて声を裏返すと、テレサは落ち着いた仕草で一歩前へ出た。


「初めまして、シルフィン様。テレサ・フォグエンと申します」

 背筋を伸ばし、毅然とした口調で挨拶する姿は、商人の令嬢というよりも気品ある貴族のようだった。


 シルフィンさんはテレサを一目見るなり、口元に笑みを浮かべた。

「アドルフさんの娘さんね。噂には聞いたことがあるわぁ?」

 その声音は軽やかだけど、どこか人を試すような響きを帯びていた。

「それで――今日は何の用かしら?」


 僕とテレサは顔を見合わせ、小さくうなずき合う。

「その……“成果物”について、ご相談があって」

 僕が切り出すと、テレサも真剣な眼差しで続けた。


 事情を説明し終えると、シルフィンさんは「なるほどねぇ」と言って肩をすくめた。

「協力してあげたい気持ちは山々なんだけど……“案件”、つまりクエストを任せるには、まだちょーっと早いわねぇ」


 彼女の声は柔らかいけれど、はっきりとした拒絶を含んでいた。


 冒険者は十二歳から登録が可能で、登録者は案件――依頼を受ける資格を得る。

 成功すれば報酬も名声も得られるけれど、討伐のような危険度の高い依頼は年齢を満たしていても経験不足を理由に制限されることが多い。

 だから僕たちに任せられる仕事なんて……。


「お願いします! シルフィンさん。私たち、何でもするので!」

 テレサがぐっと身を乗り出す。その真剣さに、僕も思わずうなずいてしまった。


 シルフィンさんは一瞬だけ考えるように目を伏せ、それから苦笑いを浮かべて机の引き出しを探った。

「どうしてもっていうなら……こういうのもあるんだけれどねぇ」


 一枚の紙を取り出し、僕たちに見せる。

そこには大きく《飼い猫を探してほしい》と書かれていた。


 テレサの顔が一気にこわばる。

シルフィンさんは気を遣うように笑い、さらりと言った。

「ベルン先生にはちゃんと私から推薦しておくわよ? 依頼をやり遂げたって報告してあげれば、進級の足しにはなるんじゃないかしらぁ?」


「これじゃ、お父さんは認めてくれません!」

 テレサは食い気味に拒絶した。瞳には強い意志の光が宿っている。

 僕はその横顔を見つめながら、胸の奥がざわつく。


 冒険者たちが次々と扉を押し開け、足早に外へ駆け出していく。

 空気がざわつき、ギルドの中に残った者たちも落ち着かない様子で視線を交わしていた。


「なんだか、慌ただしいわね?」

シルフィンが不思議そうに目で追う。


「リーク、行ってみよう!」

テレサは立ち上がり、シルフィンに軽く会釈をすると、リークの手を取った。


「ありがとうございました!」

リークも慌てて声をかけ、二人はそろってギルドを後にした。


人だかりができていたのは城門の前だった。


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