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第7話

「佐藤! 今日、商店街の祭り準備の打ち合わせだ! 地元クライアントの顔つなぎ、失敗するなよ!」


山田課長の声は今日も元気にフロアに響く。一方、まさるは眠気で目がショボショボしている。連日の勝手な能力発動の副作用で、いつでも眠たいのだ。

眠い目をこすりながら仕事をしていると『ピロン』とメールが届く音がした。


「佐藤まさる、お前の能力の制御は不可能だ。近日中の実験に協力しろ。石川」


(なんだ、これは……?? 石川って不思議現象研究会の顧問の……?)


メールの文面に心臓の鼓動が速くなり、まさるはまた能力が発動しそうな気配を感じた。

周りを見ると山田課長も隣の田中も仕事をしている。


(ここで能力が暴走するのは困る……。たしか、高畑が単純な計算をしろと言っていたような……)


まさるは、目を閉じて6秒数えた。それから1の段から九九を数える。気持ちが落ち着いた気がした。

まさるが息を整えつつ目を開くと、能力は発動しなかった。

ふうっとため息をつくと、田中が何かいいたそうにこちらを見ている。

また、能力が発動しそうで、まさるはメールのことは頭から追いやって仕事に集中することにした。




商店街は祭りの準備で活気づいている。提灯や屋台の準備が進む中、まさると田中は地元クライアントと打ち合わせをしていた。


「祭りのPR、派手にやってほしいんだよね!頼むよ!!」

「そうですね……。例えばこんな感じで、提灯が――」

「ふむ。……う〜ん。」

「あとは、こんな感じで、たこ焼きを―――」

「ん〜、あぁ……。」


まさるがあれこれ説明するが、クライアントである商店街の組合長の反応は薄い。焦れば焦るほど、組合長が反応しなくなってきている気がして、能力が発動しそうな感触がした。慌てて目を閉じようとするが、それより早くテレパシーが勝手に発動して頭痛とともに組合長の心の声が聞こえてきた。


「「この会社の提案、全部地味だな。これで人が集まるのか?……祭りの神輿は重すぎるし、困ることばかりだ」」


「―――ん、神輿……?」

「あ、神輿のこと言ってなかったですな。この神社の歴史はかなり古くて、原型は江戸前期にはあったらしいんですわ」

「江戸時代の初期!それはずいぶん古い歴史ですね」

「お神輿自体は、お祭りの際に神様が乗る乗り物のことなんだけど、その屋根のところに鳳凰の飾りがあるんだ。うちのお神輿は元々はその鳳凰が神様を載せて飛んでいたけど、時代を経てお神輿に代わったって言い伝えがあるんだ」

「へぇ、それはPRに使えますね。ちょっと見ることは可能ですか?」

「ちょうど、神輿の準備しているところなんですよ。ぜひ見てください」


打ち合わせ後、商店街の広場で神輿の準備を見学することになった。神社から運んできた神輿は、たしかに重くて動かせなさそうだ。硬くて古くて重そうな神輿は、商店街のおばさんたちが綺麗に雑巾で拭き磨いていた。飴色の躯体がいかにも歴史を感じる。


「ちょっと、下の方が汚いねえ」

「そこ傾けて……もっとよく、ぞうきんで擦ったらどうかな」


おばちゃんたちが神輿を動かして掃除をしているところに、子どもたちが物珍しそうに近づいてきた。いかにもいたずらをしそうな表情をしている。その時に、グラっと神輿が子どもの方に傾くのが見えた。


「危ない!」


まさるが叫んだ瞬間、テレキネシスが勝手に発動した。

神輿がふわりと浮かび、数センチ動いて子供を避けた。そのまま神輿は、ゆっくりと屋台の看板にぶつかっていった。


「神輿が動いた! 鳳凰の様だ!」

「今のみたか? 縁起がいい!!」

「奇跡だ……」


その場にいた組合長と町内のおばちゃんたち大喜びしていた。子供はケガをせずに済み、神輿は鳳凰のように舞って喜び、屋台の店主だけが微妙な顔をしていた。まさるは慌てて、屋台に突き刺さる神輿を抜こうと引っ張るがなかなか抜けない。組合長が言っただけあり、かなりの重さだ。町内の人びとが手伝いながらどうにかもとの位置に戻すことが出来た。

そんな最中、田中さんが遠くでスマホをいじりながらSNSに呟く。


「動画撮れたし、これバズるかな。"神輿が鳳凰みたいに飛んだ"、と……」


神輿を能力と筋力動かしたまさるは、眠気で目をこすり組合長に「出直します……」と頭を下げてオフィスに戻ることにした。神輿に騒ぐ町の人々は、とくにまさるに気にかけることなかった。




「さすが、佐藤さん!!お祭りの案件、派手にPR出来てますね!!」

「えっ、なんのこと?」

「神輿が動いた動画がめっちゃバズってますよ!たこ焼き屋も、観光客で大行列! 佐藤さんのおかげですって」

「バズ……? え、動画って……?」

「これです、これですよ!」


祭りのPRを練り直そうとパソコンに向かっていると、隣の田中さんがニヤニヤしながらスマホでSNSの動画を見せてきた。

そこには、ちょうど神輿がふわりと浮いて、子供たちを避ける奇跡的なシーンが映っていた。


「鳳凰が飛んだ!!」「神が宿った!!」「またエスパー佐藤か!?」とコメントがたくさん付いている。さらにイイねは3万くらい付いていて、まさるは目を見開く。いわゆる"万バズ"だ。


「た、田中さん、また嘘やデタラメ書いたんですか!?」

「デタラメじゃないですって。動画ですし。―――ほら、いろんな人が"もしかしてエスパー佐藤?"って書き込んでる」

「また!? 俺は、か、か、関係ないからね??」

「ふーん。たまたまなんですもんね、佐藤さんの近くで起きるけど」

「これも、た、たぶん、風だしっ」

「風のわりに不思議な挙動ですよねえ」


まさるが慌てると、頭痛とともにテレパシーが勝手に発動した。あわてて耳を押さえるが、頭に田中の声が低く響く。


「「……絶対に、佐藤さんがエスパーだと思う……」」


まさるは頭を振ると、頭痛がスッと消える。でも目の前の田中は変わらずニヤニヤしている。


「田中さん、俺はエスパーじゃないからね? 絶対に俺は何もしてないからね?」

「はいはい、わかりましたよ」

「これ以上、SNSにデタラメ書かないでくださいね」

「わかりましたって!」


「「……でも……エスパー佐藤……しなきゃ……」」


テレパシーは田中のつぶやきを拾って、耳の奥でワンワンと反響する。頭痛と共にやってきたため、まさるは目を閉じて深呼吸をする。数秒で能力と頭痛が消え、ホッとして田中を見ると、すでにパソコンに向かって仕事をしていた。

パソコン横にある田中のスマホが点滅して、着信があるようだ。だがミュートにしているのか田中は気がついていないようで、教えようと口を開いたが……


「おい、佐藤!! 商店街の打ち合わせ資料出来ているか!?」

「え、課長? それ明日じゃ……」

「夕方くれないかって、組合長から連絡が来ていたぞ!」

「ちょ、……え?夕方まで!? ―――今から間に合わせます!!」




夕方、祭りの準備が進む商店街で、まさるは打ち合わせの資料を届けに組合長の店へ向かった。

そこでは組合長がびっくりするくらい笑顔でまさるを迎えてくれた。


「ブルーバード企画さん、お待ちしていました!!ありがとうございます!!」

「……えっ? なにがですか?」

「SNSです、神輿が飛んだ動画ですよ!! これほどの祭りの宣伝はないじゃないですか!!」

「へっ……」

「鳳凰の舞う祭りだと有名になっちゃって、方々から問い合わせの連絡が止まらないですよ!! まさに嬉しい悲鳴ですな。ハッハッハッハ!!」

「え、ええ。そ、そうなんです!! 思ったより宣伝効果があって良かったです、ハハハ………」



「よくわからないけど、うまく行ってしまった……。まあ、これなら課長にも怒られないだろ……」


商店街からの帰り道、まさるは路地裏をトボトボと歩いていた。ハンカチで汗を拭きながらこのまま高畑のラボに行こうか、自宅に帰ろうか逡巡していたところ、聞き覚えのある声がした。


「佐藤……!? おい、佐藤まさるだろ!?」

「え、誰……? あ、中村!? 高校の……!」

「懐かしいな! 卒業以来じゃないか!! 不思議現象研究会、覚えてる? あの夏、変な光の実験……」

「不思議現象研究会!! 懐かしいな……―――!!」


高畑とまさると、この中村で『不思議現象研究会』として集まっていた。高畑に負けないオカルトオタク。

年齢は重ねているが、懐かしい中村の顔を見ているうちに、まさるの頭にずきんと響く頭痛と、フラッシュバックした風景が脳裏に浮かぶ。

学校の理科室、眩しい光、ガンガンする頭痛、顧問の"佐藤、起きろ"の声。


「なあ、中村。あの光……何だったと思う……?」

「あの装置な……。科学技術センターの試作品で……顧問の石川先生が『脳波増幅』だと言っていた装着。機械のコードがいろいろ付いていた装置だよ。俺と高畑が調子乗ってスイッチ入れたら、暴走したんだよな。めちゃくちゃ光って……それで、お前、倒れたよな。あの光、他のやつは誰も倒れなかったのに。」

「倒れた……? だから、顧問の起きろって声覚えてるのか……。もしかして、俺の能力って……?」

「石川先生が『データは私が預かる』って……。ん!?能力?? お前、最近噂になってる『エスパー佐藤』って.……まさか……?」

「違う! 俺じゃないって!」

「SNSで神輿が浮いてた動画って……」

「関係ないって、たぶん、アレも風かなにかだって、―――俺、用事あるから、これで。中村、またな!!」


焦りでテレキネシスが起きる予感がして、まさるは慌ててその場を去る。まさるが通り過ぎたあとに、近くの祭り提灯がふわりと浮かび、中村の頭にポンと当たる。

中村は落ちた提灯を拾いながら、まさるが消えた路地を見ていた。



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