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第12話

商店街のマルシェ最終日は、秋の陽射しと観光客の熱気で沸き立っていた。色とりどりのテントが並び、たこ焼きや焼きそばの匂いが漂う。

提灯が揺れるなか、まさるはブルーバード企画のPRブースで組合長に最終報告書を手渡していた。


「ブルーバード企画さん、今回のマルシェは過去最高の集客だそうですよ! ありがとうございます!」

「あ、いえ……」

「どんな仕掛けの手品なんですか? 結構大がかりですよねえ」

「いや、大したことは……」


組合長の陽気な声に、まさるは力なく笑う。その隣で山田課長が無駄にどや顔をしている


「SNSの有効活用ってやつですかねえ!!見せ方ですよ、見せ方!!ハハハハ!!」

「ええ、あの奇跡の動画がバズったおかげで、ね。さすがですよ。この調子で、次のハロウィンイベントもブルーバード企画さんにお願いしようと思ってて」

「是非是非、力にならせてください。うちの佐藤がSNS頑張りますから」

「ええ、#エスパー佐藤さん、よろしくお願いしますね!」

「え、や、ま……まあ……」



ふたりの圧に眉尻を下げて、汗を拭くまさるであったが、現在、胸の奥では石川からのメールが重くのしかかっている。石川が来るだろうマルシェ最終日、出来れば今日は商店街に来ずに済めばいいと思ったが、そうい理由にも行かなかった。最終日は課長も足を運ぶことが前から決まっていたからだ。

だから、また看板が落ちてきたり、神輿が飛んだりしないか気が気でなく、また石川のあの装置で脳が100%ハックされれば、テレキネシスもテレポーテーションも石川の意のまま。θ波コントローラでまさるの能力を完全制御し、社会実験の第一歩を踏み出すという頭のおかしい計画はどうしても避けたい。

まさるは不自然にキョロキョロしていた。


「何だ佐藤。ずいぶんソワソワしてるな。田中さんが言ってた"恋人"が来てるのか?」

「また田中さんがデマを……!! 恋人なんていませんから!悲しいですけど!」


田中の噂する恋人とではないが、高畑との昨日の訓練でテレポーテーションの精度は過去最高になった。データやら波形からなにやら調べた高畑が言うには、テレポーテーションを連続的に行うことで、θ波を意図的に乱してシグナルを撹乱することが出来るらしい。だからあのデバイスの近くでテレポーテーションを連発で起こせれば、装置をオーバーロードさせることができるということのようだ。

成功すれば石川の野望を潰せるが、失敗すれば完全に操られる可能性がある。

一種の賭けにまさるの額から汗が止まらない。ポケットのタオルハンカチがしっとり湿るくらいには、緊張をしていた。



「佐藤さん、今日も#エスパー佐藤で奇跡起こす? したら、うちのたこ焼き屋が観光客でパンクしちゃう!」

「田中さん、変な投稿やめてくださいよ……。あと、課長にまでデマ広げないでください。昼休みは友達の家で飯食ってるだけですから」


ニヤニヤ近づいてきた田中の笑顔に、まさるはゲンナリする。石川のスパイではなかったが、だたのゴシップ好きで、単に周りに胡散臭い噂をばら撒きまくっているだけの迷惑な人でしかない。

たまたま、エスパー佐藤というハッシュタグとバズったおかげで、うっかり街の活性化に貢献してしまっただけだ。

田中が実家のたこ焼き屋を手伝うと言って居なくなるとまさるは肩の力が抜けた気がした。しかし、石川の件もあるため油断できない。


観光客が溢れたマルシェ会場で、子供たちが風船を手に走り回る。まさるはPRブースでパンフレットや風船を配りながら、周囲を警戒する。仕事で商店街に行く羽目になってすぐ高畑に知らせておいた。高畑は近くの喫茶店で待機し、石川の装置のシグナルをハックする準備を進めている。石川の目的を考えれば、絶対にここで仕掛けてくるはずだ。まさるの耳に装着した小型イヤホンから、高畑の声が響く。


「佐藤、θ波の異常シグナルを検知した。石川は近くにいる。冷静に動け。」


まさるは頷き、深呼吸する。テレポーテーションしてもバレはないように物陰に隠れて辺りを見回した。その時、激しい頭痛とともに広場の中央で異変が起きる。

マルシェのメイン看板――高さ3メートルの巨大な木製看板が、強風もないのにグラグラ揺れ始めたのだ。観光客がざわつき、子供たちが看板の下で立ち止まる。


「危ない! 避けろ!」


組合長の叫び声。まさるの頭が真っ白になる。石川の仕業だ。θ波コントローラが能力を強制発動させ、看板を動かしている。まさるは頭痛に頭を抱えてしゃがみ込むと、テレキネシスが勝手に発動した。看板がふわりと浮かび、観光客が悲鳴を上げる。


「くそっ……石川、どこだ……」


まさるが頭を抱えたまま周囲を見回すと、路地裏に黒いスーツの男が立っているのが見える。手に持つ金属デバイスの、赤いLEDが点滅していた―――石川だ。

まさるの視界が揺れる。頭痛が強まり、看板がガタガタ震える。観光客が逃げ惑う中、まさるは歯を食いしばる。 深呼吸し、頭の中で数を数えて落ち着かせようとする。

頭痛が一瞬引いたとき、イヤホンから高畑の声がした。


「佐藤、θ波を乱せ! テレポーテーションを意図的に発動しろ! 装置をオーバーロードさせるんだ!」


まさるは目を閉じ、集中する。一瞬ならきっとバレない。体を丸めたまま、おもちゃのピストルを自分のお腹に当てる。引き金を引いた瞬間、視界が揺れる。

次の瞬間、まさるは看板の真下にいた子供の真後ろに立っていた。子供を抱えこみ、再度ピストルの引き金を引く。

瞬きする間に、まさると子供は広場の端に移動していた。子供から手を離すと、子供がまさるを振り返る前に、素早くピストルの引き金を引いた。

子供が振り返った時には、子供の居た位置からずいぶん離れたごみステーションに、まさるは丸まっていた。

頭痛に耐えながら空を見上げると、看板はテレキネシスでふわりと浮いたままだった。まさるは深呼吸してゆっくり6秒数える。高畑との訓練で、テレキネシスもずいぶん制御出来るようになってきた。

目を開くと、看板がゆっくり地面に着地するところであった。


「これが噂のエスパー佐藤か!!」

「子供が瞬間移動したぞ!!」

「奇跡だ……!」


観光客が拍手しているのを横目に、石川を見るとデバイスを焦って操作しているのが見える。LEDが激しく点滅している。

観光客や組合長、山田課長たちは看板を囲んでおり、石川やまさるたちの方は全く気がついていないようだ。

高畑がイヤホンで叫ぶ。


「佐藤、効いてる! もう一押しだ!テレポーテーションを繰り返せ」


だが、まさるの腹がギュルギュル鳴る。


「やばっ……トイレ……っ!」


お腹にピストルを当てて撃つと、視界が揺れてまさるが移動した先は石川の真後ろだった。

慌てている石川の手元を見ると、石川のデバイスのLEDが乱れ、シグナルが不安定になっていた。


「テレポーテーション、効いてるのは確かだけど、……それよりトイレに……飛べっ……」


冷や汗の滲むまさるは、内股のまま身体にピストルを向け、テレポーテーションを連続発動する。ビリッ、ビリッと視界がゆれて広場を瞬時に移動し、トイレを探すが石川の周りをテレポートするばかり。

それに合わせてθ波を乱しているのか、LEDがチカチカとおかしな挙動をしているのが見える。石川はボタンを操作するが、光の点滅が激しくなる。


「まだだ……! 佐藤くん、君のθ波は……!」


石川がデバイスを握りしめ、叫んでいた。

その時、路地裏に新たな影が現れる。まさるはテレポーテーションの副作用で腹を押さえながら、驚きの声を上げる。

見覚えのある顔、不思議現象研究会のもう1人のメンバー、中村だった。


「中村……!? なんで…?」

「佐藤、悪かったな。高畑と連絡取ってたんだ。――石川先生、計画は終わりだ。」


中村の登場に、高校時代の理科室でのバカ騒ぎが蘇る。中村はニヤリと笑い、ポケットからUSBを取り出す。


「科学技術センターのサーバーからθ波コントローラのデータを盗んだ。高校時代から俺たちを実験台にしてた。佐藤の能力覚醒もお前の計画通りだった。」

「お前は私の助手だ! なぜ裏切る!」

「助手? 俺の設計を盗んで改悪しただけだろ。裏社会に売り込むための社会実験だと言って科学技術センターから追い出されたお前に、ついていくわけない。それに、お前が脳波をハックしている対象が佐藤だなんて……まさか高校時代からずっと監視しているなんて……気がつくのが遅くなって後悔している。」


中村はノールックで真後ろにUSBを投げる。駆けつけた高畑が飛んできたUSBをキャッチし、タブレットに差し込んでデータを送信した。


「これで装置のコードをハック。完全無効化!」

「ずっと、あの装置を壊してやろうって思っていたんだぜ―――」


石川のデバイスが火花を散らし、煙が噴き出してきた。


「なっ……! 装置が……熱っ!」


石川がデバイスを投げ捨てると、火と煙に包まれLEDの光が消えた。その数秒後、小さな爆発を起こる。さすがに周りの群衆も何事かとこちらに目を向け始めた。


「くそっ……もう、終わりだ……!!」


爆発と周りの群衆を見て、石川は背を向けて逃げ出した。爆発の煙が石川の姿を朧気にする。

まさるは追いかけようとするが、すでに腹が限界だった。下腹部がギュルギュルと差し込み、汗がぽたりと落ちる。


「うっ……高畑、中村、後は頼む……!」


まさるが最後の力を振り絞り、公衆トイレの個室に向かって走り始める。

それを見送って、高畑と中村が追いかけようとするが、辺りの爆発の煙でどこへ逃げたのかよくわからない。白煙が消えたときに路地の奥にあったのは、燃え尽きたデバイスのみ。

石川の姿は、もう、どこにもなかった。




夕方、マルシェは大盛況で幕を閉じた。

片付けを手伝いすっかり日が暮れたころ、まさるはとぼとぼと帰路を歩いていた。月明かりに照らされた歩道は、人もまばらだった。

底辺モブサラリーマンのまさるは明日も朝から仕事だ。いつもの日々。ポケットのなかでおもちゃのピストルがカチャカチャと鳴る。


まさるの脇を、自転車の若者が追い越していく。その時、小石に躓いて自転車がぐらりと揺れる。倒れそうなほど傾いている。


(あ、危ない……!!)


街灯の当たらないところで、まさるは咄嗟に指を変な形にしてへっぴり腰になる。指先に力を込める、テレキネシスを使う。

自転車はふわりと浮いて、それから道路に降りる。何事もなかったようにそのまま走り去っていった。


石川はもういない。制御できるようになった能力を、ほんの少しだけ使って、まさるは日々を過ごしていく。モブサラリーマンだけど、ほんの少しのヒーロー。そんな自分に、まさるの口元はわずかに緩んだ。




読んでいただき、ありがとうございました。

ドラマ化するなら田中さんは野呂佳代さんだなとか課長はジョビジョバのマギーさんがいいなあとか、妄想しながら書いたのでした

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