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第10話

「もう、能力なんて使いたくない…。石川に操られるのも、トイレ地獄もごめんだ…」


額の汗をハンカチで拭い、まさるはため息をつく。

ブルーバード企画のオフィスは、壊れかけのクーラーがガタガタ唸り、蛍光灯がチカチカ点滅する。

まさるはデスクでマルシェのPR資料をカタカタ打つが、頭痛がズキズキ響き、目がショボショボする。

まだ、昨日のおなかの痛みが残り、おなかをさすりながら仕事をする。



「佐藤! マルシェの報告書、今日中だぞ! わかっているのか!!」


ふたりがしゃべっていると、怒ったような山田課長の声がフロアに響く。まさるは慌てて「はい、やってます!」と返す。


ふと、隣のデスクを見るといつもと!田中が変わらずに仕事をしているようだ。

田中が石川に報告しているなら、能力は完全にバレている。もう逃げられないかもしれない。

まさるの仕事は全く進まず、資料を捲ったり、キーボードのスペースとエンターを交互に押したりしてはため息をつく。

そんな時にバイブレーションが振動し、スマホに目をやる。また石川からのメールであった。



―――佐藤くん。今夜、デバイス装置の作動テストする。派手にやろう」



佐藤まさるはデスクのペンを握り潰しそうになりながら、スマホのメールを睨む。石川からの文面は冷たく、赤いLEDの点滅が脳裏にちらつく。


(もう嫌だ……能力も、噂も、全部!)




夏の残暑がアスファルトを焦がす商店街を抜け、まさるは高畑のラボへ逃げ込む。アパートの一室は、埃っぽい科学機器とエナジードリンクの空き缶が散乱し、オシャレな水出しコーヒーポットと氷が入ったグラスだけが異彩を放つ。


「佐藤、顔色悪いぞ。どうした?」


高畑は水出しコーヒーをグラスに注いでストローをさす。まさるはそれを横目でチラリと見てからソファにドサッと倒れ込んだ。そして胸ポケットから、震える手でスマホを見せる。石川からのメールの画面だ。


「今夜、デバイス装置の作動テストする。派手にやろう――か。また、あの装置がでてくるのか」

「高畑、俺、もう能力使わない。石川に操られるのも、トイレに駆け込むのも嫌だ! 普通の生活に戻りたいんだよ!」

「石川に操られたくない……か。」


高畑はメガネをクイッと上げる。


「佐藤が頑張って能力を封印しても、石川のθ波コントローラが脳波を刺激したら暴走するだろう。お前がすべきは2択だ。制御するか、それともあの装置をどうにかするか―――」

「あの装置を、どうにかする方法があるのか?!」

「ああ。俺の推察が正しければ、だが……」


高畑は自分の分のコーヒーをゴクリと飲んで、テーブルに置く。氷がカランと鳴った。

ノートパソコンを少し操作し、新たな画面をまさるに見せた。


「少しブレていて済まないが、佐藤がテレポーテーションしたときの動画だ。手持ちのスマホではこれが限界だったが……」

「あの時動画を撮っていたのか。えっと……テレキネシスは停められたけど、提灯が落ちて、俺が消えて―――石川が慌てた表情だな」

「そうだ。想定外なんだろうな。もう一度見てくれ。石川の持ってるデバイスの方を」

「えっ……?」


まさるは画面を食い入るように見る。提灯がまさるに当たる瞬間、ブレたような画像になり、まさるが消える。高畑が走っているのか、ガクガクと画像が動き、石川が映る。デバイスを見て慌てた表情。不規則な光がせわしなく動き、制御不能のようなデバイス。何度か操作しようと手を動かす石川が、そこには映っていた。


「―――これって、テレポートすると、デバイスの方の制御が出来なくなる……?」

「テレポーテーション後も、動画見ると石川はデバイスを操作する動きをしているが、佐藤のテレキネシスは発動しなかった。そのことからも、テレポーテーションはデバイスを制御不能にする脳波を出しているんじゃないだろうか」

「つまり、テレポーテーションを使えば、石川に操られない……? 操られないためにはどのみちこの能力を使わないといけないのか……?」

「これは発見と言っていいだろう!! 佐藤、お前はどんどんこの能力、テレポーテーションを使っていけばいいんだ!」


高畑は興奮したように言う。

一方、まさるはノートパソコンの画面を前に、項垂れる。石川のこと、田中のニヤニヤ顔、商店街やSNSのうわさ、能力使ったあとの眠気、頭痛、ギュルギュルと痛むおなか……。もう限界だった。能力なんて、使いたくない。でも、さらに使えと高畑は言う。

顔色の悪くなっていくまさるに気が付かないのか、高畑はさらに畳み掛けるように話し続ける。



「そこでいろいろ考えてみたんだ。お前がテレポーテーションが発動するのは、エスパー魔美と一緒だ。魔美は接近する物からの危機回避としてテレポートするんだ。だからあのビーズを飛ばすハート型ブローチ『テレポーテーション・ガン』を作ろうと思ったんだが、あいにく手先が器用じゃないんでな。おもちゃのピストルでもいけるんじゃないかと、幾つか購入してみたんだが―――」


高畑はテーブルの雑誌やエナジードリンクの空き瓶を退かし、玩具のピストルを幾つか並べた。BB弾を飛ばすもの、輪ゴムを使ったもの、水鉄砲……。これを使って、また訓練しろと高畑は言うのだろう―――並べられたおもちゃを見たまさるは、とうとう声を荒げた。


「もう、おもちゃのピストルとかどうでもいい! 俺の人生、めちゃくちゃだぞ! なあ、高畑たちのせいでこうなったんだろ!?」


まさるがおもちゃのピストルをつかんで振り上げると、高畑の顔が曇る。


「……あの夏、俺が装置を暴走させたから、お前がこうなった。俺が責任取るから、テレポーテーションの訓練をしよう! テレポーテーションすれば、石川から操られることも無くなるんだぞ」

「責任って何だよ! 俺、普通のサラリーマンでいいんだ! 冴えないモブキャラで十分なんだ!! 能力は使いたくないって、何度言えばわかるんだ!! もう、高畑にも頼らない!」


まさるはラボを飛び出し、商店街の喧騒に紛れる。胸の奥で、高畑の「責任取る」という言葉が引っかかる。高校時代の不思議現象研究会、高畑や中村と「超能力で世界を変える!」とバカ騒ぎした日々。理科室で笑い合った記憶が蘇るが、佐藤は首を振る。

もう、高畑にも頼らない―――。




暗い顔をして職場に戻ると、課長に仕事を増やされていた。ため息をついてパソコンを立ち上げる。起動画面を眺めている時に、また田中が話しかけてくる。同僚だからしかたないとはいえ、出来るだけ関わりたくない。そんなまさるの気持ちとは裏腹に、彼女はかなり馴れ馴れしい態度だ。


「ねーねー、佐藤さん、昼休みどこ行ってたの? またどっかで何か面白いこと?」

「別に。ただ飯食いに行っただけだけど……」

「ちょっと前まで公園で食べてたのに、最近見ないよね? どこでご飯食べてるの?」

「や、別に……どこでもいいでしょ」

「え〜、#エスパー佐藤は秘密主義なの〜?」

「それやめて……。俺はエスパーじゃないし……」


田中の声は軽やかだが、どこか探るような響きを感じた。まさるは書類を握る手に汗が滲み、とゴニョゴニョ返すしかできない。


「ふーん、そういうことにしとく?」


田中がスマホをいじりながら笑う。まさるが田中を睨んだとき、LINE画面で誰かとやりとりしているようだった。田中が直ぐにスマホをしまったため、一瞬だが『エスパー佐藤』の文字が見えた。


(もしかして……石川に報告しているのか……? 高畑のラボも探られている? ……もう、あそこには行かないから、探られても大丈夫だし……)


高畑の顔が脳裏に浮かび、頭を横に振る。うっかり持ってきてしまったおもちゃのピストルが、ポケットの中でカタカタ鳴っていた。

まさるは頭を掻きむしって、それから仕事に意識を向けた。考えたくないことは考えず、目の前のことをしようと努力した。



商店街の裏路地。提灯が薄暗く揺れる中、佐藤はマルシェの資料を組合長に届けたあと、帰路につく。

路地奥で石川が現れ、手のひらサイズのθ波コントローラの赤いLEDが不気味に点滅した。


「佐藤くん、今夜がテストだ。マルシェの看板を全部浮かせて、SNSで大バズりさせる。これが話題になれば、上も私を認めてくれるはずだ!研究費も増え、君はヒーローになって、Win-Winじゃあないか!」

「もう、やめてくれよ!! エスパーだとか、能力だとかは別の人でやってくれよ!!あんたが上に認められるとか研究費とか、俺には何の関係もないだろ!!」

「何を言う、君のθ波は特別なんだよ。佐藤くんじゃないとヒーローにはなれないんだよ。私や中村くん、高畑くんは適応出来なかったんだから」


そう言いながら、石川はθ波コントローラを操作する。LEDが赤く点滅すると、強い眠気が生じてテレキネシスが暴走し始める。路地の看板がグラグラ揺れる。辺りの街路樹まで風に揺れて音を立てる。徐々に、看板が宙に浮かびそうになる。


「テレポーテーションはデバイスを制御不能にする脳波を出しているんじゃないだろうか」


高畑の言葉が脳裏に浮かぶ。

まさるは眠気に襲われた目をこすり、石川が持つデバイスを見る。LED規則的な光で点滅していた。

身体を丸めて、手を地に着けた。その時にプラスティックの軽い音がした。

―――ポケットに、高畑のおもちゃのピストルがある。

重たいまぶたに逆らうように、目を見開いてからピストルを取り出す。


「くっ、これで―――」


まさるは身体を丸めたまま、ピストルを自分のおなかに向けて撃つ。パチンとBB弾が弾ける。

しかし、まさるの身体には何かがぶつかった衝撃はなかった。

顔を上げると目の前に石川はおらず、まさるは裏路地から少し離れたところにいた。テレポーテーションが成功したのだ。


ほっと息をついた瞬間、田中が現れた。


「田、田中さん!―――くそっ……終わった! 」

「は?あれ? 佐藤さん、どうしたの? え、え、え、急に現れた??」

「もう、石川に連絡しろよ! 田中さんは石川と繋がっているんだろ!! 」

「―――へ、石川??? 石川って誰?」

「この前、この辺りの裏路地で電話していたじゃないか。俺の行動全部報告してるのは知ってるぞ!田中さんがスパイをしていたんだろ?俺のことをSNSにあげて、石川の研究を上に認めさせる役割なんだろ!?」

「え?え? 何の話? ここ、うちの実家のたこ焼き屋の裏口だから、親がうるさいときはついここで電話しがちなんだけど……確かにSNSにはあげたけど、佐藤さんのことを誰かにスパイすることなんてないよー。」

「だって、あの時、俺の噂と#エスパー佐藤って電話でなにかをお願いしていた!!」

「あー、あれかな。西潟プリントさんの西潟社長に『#エスパー佐藤の聖地』って看板の印刷を頼んだりはしてたけど。」

「ニシカタ……??……『#エスパー佐藤の聖地』???」

「そう。SNS活用して商店街に人を呼ぶ計画。#エスパー佐藤でまちおこしの一環で。前に話したじゃん、噂話でたこ焼き屋が流行ったって。あれの第二弾だよ」

「じゃあ、石川は……」

「石川さんとか研究とかはわからないけど……。#エスパー佐藤はリアルでは商店街の人にしか話してないよ。まあ、SNSではエスパー佐藤が思ったよりバズっちゃって、ちょっと大きなことになってゴメンだけど。一応、個人情報はだしてないよ?佐藤もいっぱいいる苗字だし!!」

「……えっと……このたこ焼き屋は、田中さんの実家なの?」

「そーだよ? 最近噂のたこ焼きたなか。味には自信があるよ。」

「………あの、田中さん。トイレ、貸してくれませんか……?」


田中がスパイじゃないと安堵した途端、まさるはテレポーテーションの副作用の腹痛の波がやってきたのだ。テレポート先が田中の実家の裏口だったおかげで、まさるは決壊せずに済んだのであった。



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