04 - 今日から冒険者
目が覚めると、見知らぬ天井だった。
いや、当たり前なんだけどね。モノラスに到着して、屋台で知り合った優しいおじさんに紹介された宿屋にいる。
私はベッドから起き上がると、なにやら外が騒がしいことに気づいた。
窓から外をみると、冒険者らしき人達数名がどこかへ向かって走っている。なにかあったのかな?
身なりを少しだけ整えながら、私は宿の女将さんに軽く挨拶をして宿を後にした。
なんだかワクワクする気持ちで、冒険者らしき人達の後を追おうこと数分、その人たちは大きい建物に入って行った。
私は建物の前に立つと、扉の上に掲げられた看板をみて感動した。
「ここが、冒険者ギルド・・・!」
すごいすごい!本物だ!ここって、当初の目的であった冒険者ギルドだ!
ここで冒険者登録すれば、今の私ならすごい注目されるんじゃない?魔法もわりと覚えているし、この街で初心者で最強の冒険者になれるよねっ。
興奮状態を頑張って抑えようと、深呼吸して扉を開けた。
すると、中はなんだか騒がしくなっていた。
「これより、モノラスの森への調査隊を編成します。Cランク以上の冒険者はこちらに集まってください」
ギルドの中は、アニメや漫画などでよく見るような内装だった。手前には受付カウンターに、壁にはクエストの申請書が掲示板みたいなところに張り巡らされている。
そして、騒がしいのは奥の方だ。お酒を飲んでいる人もいるし、恐らく飲み屋みたいなスペースなんだろう。そこに、先ほどから冒険者へ呼びかける女性がいた。
見た目は綺麗な人。淡い栗色の長い髪、瞳はエメラルドグリーン。騎士のような恰好をしている。
それにしても、Cランク以上の冒険者を集めるなんて、なにかあったんだろうか。
私はギルドの中に入り受付カウンターへ向かうと、緑色のふわふわな髪型をしたお姉さんが私に気づいて声をかけてくれた。
「こんにちは~。モノラスギルドへようこそ!」
ふわふわお姉さんは、しゃべり方もふわふわだなぁ。可愛らしい笑顔に癒されます。
「初めまして。私はモノラスギルド受付のスイミーと申します。本日のご用件はなんですか?」
「あ、はい!私はイルミナといいます!今日から冒険者になりたくてきました!」
「イルミナさんですね。よろしくお願いします。冒険者登録ですね?それではこちらに、必要事項の記載をお願いします」
受付のお姉さん、スイミーさんはそう言って、私に書類と羽ペンを差し出してくれた。
書類を受け取り、必要事項に目を通すと、書く必要があるのは名前、性別、種族、職業、得意な武器だった。
今更だけど、アズエルには感謝しなきゃね。この世界にきて言語理解できるのかとか、文字を読んだり書いたりできるのか不安だったけど、アズエルの手紙によると問題ないとのことだった。
実際、こうして普通に会話もできるし、書類も読める。
名前、性別は書けるけど、種族は人間って書くとして、職業はどうすればいいんだろう?魔法使い?魔術師?んー・・・。いいや、魔術師って書いた方がかっこいいし!魔術師なら、やっぱり武器は杖よね。杖なんて持ってないけど。
私は書類を書き終え、スイミーさんに渡す。
「それでは、ギルドカードの用意をしますので、少々お待ちくださいね」
そう言って、スイミーさんはカウンターの奥の部屋へ入って行った。
私はカウンターから少し離れ、掲示板に張られたクエストを見ることにした。
討伐クエストに、採取クエスト、お使いクエストなんてのもある。
クエストにはそれぞれアルファベットのG~Aと記載があるところからして、冒険者が受注できるランクなんだろうなー。
たぶんだけど、G~Aしかないから私のランクはGランクからかな?漫画やアニメで得た知識だとこういうのって、一つ上のFランクまでが受注可能ってところかな?
Gがついたクエストは、主に採取クエストが多い。討伐クエストもあるようだけど、魔物討伐ではなく小動物モンスターの討伐があるみたいだ。あ、パーティ募集なんかの張り紙もある!
いろんなクエストがあるんだなーと掲示板のクエストを眺めていること数分後、後ろから声をかけられた。
「お待たせしました、イルミナさん。こちらがあなたのギルドカードになります」
後ろを振り返ると、スイミーさんが銅色のギルドカードを私に差し出してくれていた。
お礼を言って、銅色のギルドカードを受け取り、カードを見る。なんだか前世の世界でもあった免許証に似てる。
内容は名前、性別、種族、職業、得意武器、ランクが書いてあった。
思っていた通り、私はGランクのようだ。
「それでは、簡単にギルドの説明をさせていただきますね。まず最初はGランクからスタートになります。クエストはGランクから一つ上のFランクまでなら受注できます。もしパーティーを組むようでしたら、パーティの平均ランクのクエストが受注できますよ。ちなみにランクを上げるには、クエストを10回以上達成して、ランクアップ試験を受けていただく必要があります。そこで合格すれば、ランクアップができますよ」
うんうん、やっぱり思っていた通りだ。漫画やアニメで得た知識がこうも役立つとは。
ふっふっふっ・・・ついにこれで私も冒険者の仲間入り!さっそくクエスト受注してみよ!
「それから、こちらの掲示板に受注できるクエストが張られています。受注したいクエストがあれば、こちらを持って受付カウンターに提出してください。ちなみに、何か気になるクエストはありましたか?」
「ん-、色々あって悩んでます」
「ふふっ。そう言われるかと思って、すでにこちらで用意してみました」
そう言って、スイミーさんは3枚のクエストを見せてくれた。
「まず1つ目が、薬草採取の依頼です。2つ目が、街の清掃です。そして3つ目が、ホーンラビット5匹の討伐です。どちらを受注されますか?」
「えっと、ホーンラビットって?」
「ホーンラビットというのは、東門から出てすぐの森に生息している小動物です。耳が長くて額に角がある、小さな魔物ですよ。よく屋台などに出ていて、おいしいんですよ」
「へ~、そんな魔物が・・・ん?屋台に出てる?」
そういえば昨日、モノラスへに来た時にもらった串焼きがあった。あれって確かオークの肉って言ってたけど、あの中にホーンラビットのお肉もあったのかな?
ちょっと気になるし、聞いてみよう。
「あのー、ちなみにオークの肉とかってどこかの屋台に卸してたりします?」
「オークの肉ですか?ん~、そもそも、この辺にオークは生息してないですし、うちからはホーンラビットしか卸してないですよ」
「えっ、そうなんですか!?昨日モノラス着て串焼きを食べたんですけど、オークの肉って渡されたんですけど・・・」
「あ~、もしかしてバルザさんのお店ですかね。あの人、よく冗談を言う方なんですよ」
スイミーさんは苦笑いで「だからあまり気にしないでいいですよ」と言ってくれた。
あんのおじさんめ!タダでもらった手前、あまり文句は言いたくないけど、私の純情を騙したな!
今度会ったら文句言ってやろう、そうしよう。まぁでも、串焼きは美味しかったなぁ・・・。
「それで、どうしますか?」
「そうですね・・・ホーンラビットって魔物が気になるので、この討伐クエストにします!」
「わかりました、それではこちらのクエスト受注いたします。期限は本日中であれば問題ありませんので、お気をつけて行ってらっしゃい」
そう言って、スイミーさん軽くお辞儀をした後、再びカウンターの奥へ入って行く。
最初は薬草採取でもよかったんだけど、せっかく魔法を覚えたし、このクエストで使ってみたい。
私はギルドカードをアイテムボックスに収納してギルドを後にした。
* * *
「この森って、私が昨日アズエルに召喚された森?」
東門の場所がわからない私は、道行く人に声をかけながら東門へ到着し、目的地の森へ到着した。
その森はモノラスの森というらくし、昨日私がいた森だった。
私がまだこの森にいた時には、生き物なんてみなかったけど、ここにホイーンラビットがいるのかな?
ま、とりあえず探してみよう。
「探索」
自分と周り100mの範囲が簡易的に浮ぶ。50mくらい先に、青い点と赤い点が表示された。
確か青色は敵意なしで、赤色は敵意あり・・・ってことは、誰かが何かと戦っている?
ちょっと気になった私は、身体強化を発動させ、二つの点の近くまで駆けた。
数分後、私の目に飛び込んできた光景に驚愕した。
そこにいたのは、モノラスギルドにいた淡い栗色の長い髪の騎士のような恰好の女の人と、2メートルくらいの大きい豚の魔物がいた。
女の人は大剣を使って、豚の魔物の斧を受け止めるのが精いっぱいのような戦い方をしている。
私は咄嗟に完全鑑定を発動させ、大きい豚の魔物を鑑定すると、目の前に魔物のステータスが表示された。
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名前 :ディギア
年齢 :12歳
種族 :オーク
レベル:12
称号 :なし
HP :37/50
SP :15/15
STR:15
AGI:8
VIT:10
INT:3
DEX:12
LUK:1
スキル
なし
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オ、オーク!?あれが本物のオークなの!?想像していた見た目ではあるけど、あんなにデカいのは想像してなかった!
「くっ、なんでこんなところに、オークが!」
『ブルアギャァ!ブヒルア!』
オークは斧を振りかぶり、女の人の頭上へ振り下ろす。それを大剣で受け取るも、女の人は耐えきれず吹っ飛ばされ、近くの木に激突した。
「かはっ!」
女の人は大剣で身体を支え、震えながら立ち上がろうとしていた。見るからに、身体はボロボロだ。
オークは勝ち誇ったような表情で、女の人に近づいてきている。
これ以上は、見てられないな・・・。
私は別に正義の味方になりたいわけじゃない。この異世界で、楽しい気楽な冒険者ライフを過ごしたかった。ただ、それだけだった。
アズエルとの約束がなければ、もっと最高だったんだろうけど。
「約束、しちゃったからね・・・」
だけどアズエルとの約束は、勇者の神器を4つ破壊すること。人を助けてはいけないなんてことは言われていない。それに、基本的には自由にしていいってことだし、いいよね。
女の人を助けようと決意したその時、オークはすでに女の人の前で立ち止まり、斧を振りかざしていた。
『ブルアガァ!』
斧が振り下ろされた瞬間、私は氷の剣で受け止める。
ん?見た目のわりに、全然重くないな。
私は氷の剣で、オークが振り下ろした斧を弾く。
すると、オークは斧を弾かれた勢いで後ろに倒れる。
あれー・・・?こうもあっさり受け止めれるなんて・・・。
あ、そっか。このオークのレベルは12だし、私の元々のステータスは化け物クラス・・・。そりゃこうも簡単に弾けるか。
「あな、たは・・・?」
「あっ、大丈夫ですか!?あとは私に任せてください!」
「・・・」
私がそういうと、女の人は気が抜けたのか、そのまま倒れてしまった。
し、死んでないよね?
私はオークの方を見ると、オークは何が起こったのか理解できないというな表情で、こちらを睨みながら立ち上がろうとしていた。
『オマエ、ナニモノ』
「えっ、オークが喋った!」
『ブルアガァ!』
会話できるのかと思ったら、雄たけびを上げながらオークは襲い掛かってきた!
それにしてもこのオーク、攻撃パターンが単調すぎる。
上からの振り下ろし、左右からの切り付けしかしてこないから、避けるのも簡単だった。
ん-、女の人も心配だし、もう終わらせるか。
私は手に持っている氷の剣を天に翳し、自身の周りに氷の剣を複製し、円をえがく。
そして、手に持った氷の剣をオークに向けた瞬間、周りの氷の剣もオークへ向けられる。
「氷の剣・10連弾!」
ドドドドド!っと、周りの円をえがいていた氷の剣が1本づつオークへ突き刺さっていく。
『グアギャアアアアアアッ!!!』
氷の剣がオークの身体に全て突き刺さり、オークはゆっくりと後ろに倒れ、動かなくなった。
思いつきで放った氷の剣・10連弾だったけど、うまくいってよかった。想像するだけで、こんなこともできるんだね。こりゃもっと魔法を使って、派生魔法考えよ!
あ、そうだ。オークを倒したことだし、女の人は大丈夫かな。
倒れた女性に近づき、様子をうかがう。よかった、息はしてるみたい。
さて、これからどうしたものか・・・。