02 - 最弱で最強?
拝啓、お父さん、お母さん。お元気ですか。
あなたの娘は、異世界に転生しました。残念なことに、人間を辞めてしまったようです。
どうしてこうなってしまったのは、私にはわかりません。
そもそも、どうして私は死んでしまって、堕転の女神に転生させられたのでしょうか。
さらには、勇者を倒せなんて言われました。
あぁ、お父さん、お母さん・・・私はこれから、どうなってしまうのでーーー
「あの~、黄昏ているところすいませんが、お話すすめてもいいですか~?」
私が青空をじっと見つめていると、隣でアズエルがのんきに話しかけてきた。
アズエルを睨みつけながら振り向くと、アズエルは何も気にしていないように会話を続けた。
「そんなに勇者を討伐したくないですか?」
「そりゃ、私からしたら勇者といえば、正義の味方。だから倒すって言われてもねぇ・・・」
「そうですかぁ。んー、でしたらこうしていただけますか?」
アズエルはそう言って、両手を広げると、バーチャル映像のような画面が表示された。
そこには大きな大陸が映しだされていた。
「このプロンセラという世界にはいくつか大陸があるのですが、こちらの大陸は四つの領土が分かれており、4人の王たちが治めています。ちなみに、今我々がいるのは東大陸の少し下のここ、モノラスという街の近くにある森の中です」
アズエルは画面に映った大陸を人差し指でなぞりながら、現在地を指して説明している。
その説明を聞いていると、やはり自分は異世界に来たんだなって実感してきた。
「そして、ここからが本題になります。勇者が召喚されるまえに、勇者の証である神器の破壊をお願いします」
「神器の、破壊?」
「はい。勇者は転生されると、その神器を回収することにより、パワーアップしてしまうのです。現在、魔王様が眠っている状態なため、勇者はまだ召喚されていない今ならまだ簡単だと思います」
それから、アズエルは神器の破壊について説明してきた。
要するに、今はまだ勇者が召喚されることはないため、勇者を強化する神器を破壊することで勇者を弱体化してやろうということらしい。
神器は4つあり、それぞれ大陸の4か所の神殿に封印されていて、その封印を破壊することで、勇者を弱体化させて、あとは魔王に倒してもらえばいいとのことだった。
「神殿には守護者が神器を守っているので、守護者を倒してもらう必要がありますけど」
「なるほど・・・それにしても私のステータス化け物じみてない?」
「それは魔族としてのイルミナさんのステータスですからね。こちらを身に着けてもらえますか?」
アズエルはそう言いながら、紫色の腕輪と小袋を渡してきた。
私はそれを受け取り、じっと見つめる。
「それは偽装の腕輪という魔道具です。自分の姿を人間と同じ姿に変えられますし、ステータスを人間と同じように偽装できます。お金はそちらの小袋に入っています。アイテムボックスが使えると思うのでそちらに入れておいてください。アイテムボックスは開こうと意識すれば、簡単に開けますし、取り出したい時は、何を取り出したいか意識すれば取り出すことができますよ」
アズエルに言われた通り、アイテムボックスを開こうと意識をすると、手の平サイズの四角いキューブが出現した。
恐る恐る小袋を四角いキューブに近づけると、小袋は一瞬で消えた。
「あとは服装ですね」
そう言って、アズエルは私に手をかざすと、私の身体が紫色に薄く光りだした。
光は一瞬で消え、服装は無地のTシャツに短パンに代わっていた。
「これで大丈夫でしょう。所謂村人Aの服装ですよ♪それから、偽装の腕輪は魔族としての力も抑えてくれますし、どうしてもピンチになった時に外せば、本来のステータスに戻りますよ」
「やっぱり、異世界って危険がいっぱいなの?」
「そうですね~魔族だとバレれば人間に襲われるでしょうし、人間だと魔物にも襲われるでしょうね」
「それって私積んでない!?このリング付けたら力も抑えられるなら、戦い方を知らない私また即死しちゃうじゃん!」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。とりあえずそのリングをつけてもらえますか?」
私はリングを見つめ、偽装の腕輪を右腕にはめる。
すると肌が人間と同じ色に変わり、鏡を見ると生前の人間だった顔と同じ顔になっていた。
少しほっとして小さくため息をすると、
「それじゃ、ステータスをもう一度見てもらえますか?」
「ステータス・オープン」
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名前 :イルミナ ♀
年齢 :16
種族 :人間
レベル:10
称号 :堕転の女神の使者
HP :1780/1780
SP :520/520
STR:135
AGI:165
VIT:180
INT:200
DEX:130
LUK:170
アクティブスキル
魔法創造
パッシブスキル
完全鑑定・隠蔽・危機感知・全状態異常耐性
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「ちゃんと種族が人間になってる・・・それに、ステータスも化け物じゃなくなってる!」
「一般的な冒険者のステータスですよ。でもイルミナさんの場合、その数値は偽装なので実際はもう少し高いはずですよ。リングを外せば、世界征服もできちゃいますよ!」
「せ、世界征服!?そんなの考えてないわよ!」
「そうそう、魔法創造というスキルですが、魔法を作ることができるスキルになります!魔法はイメージです、実際に見た魔法ではればイルミナさんはすぐ使えるようになりますよ!」
「なにそれ最強じゃん!チート能力じゃん!」
「喜んでもらえてよかったです!はっきりとしたイメージさえできれば、魔法創造で創造し、イルミナさんだけの魔法も作れちゃいます!」
私はそれを聞いて、ワクワクしてきた!
これだけはアズエルに感謝してもいい!
「目的さえ果たしていただければ、基本的には自由に冒険して構いません」
「わかった。ところで、魔法の属性って何があるの?」」
「そうですね~魔法は火、水、土、風、雷の5属性がありますよ」
「本当!?じゃあさっそく教えてほしいんだけど!」
「ん~、教えてあげたいのはやまやまですが、私にもやることがありまして・・・あ、では風魔法の基礎、探索なんてどうですか?」
「あ、それいいかも。探索があれば、周りの状況がわかるってことよね?」
「そうです。まぁイルミナさんは危機感知スキルをお持ちなので、ご自分の身に危険が迫るとわかりますが・・・とりあえず魔力を感じてみましょうか。集中するために、目を閉じていただけますか?」
私はドキドキしながら目を閉じ、アズエルの言葉を待つ。
「周りの空気、自分の身体に流れるエネルギーを感じてください」
「え、いきなり難題なんだけど?そんなエネルギーなんて感じた事ないしどうすればいいのよ」
「まぁまぁ、集中してください。魔法はイメージ、魔力もイメージです」
魔力はイメージ・・・イメージ・・・あれ?
「・・・なんか、身体がほんのり暖かくなってきた・・・?」
「さすがです!それが魔力です。あとは辺りを見渡すイメージをして、探索と唱えてください」
辺りを見渡すイメージ・・・ん?なんか見えてきた・・・?
「探索!」
唱えた瞬間、青い点が2つ、頭に浮かんだ。
これは、私とアズエルが見えてる?
「青い点が2つ、頭に浮かんだら成功です。青色は敵意なしで、赤色は敵意ありになります」
「これが魔法なんだ・・・なんだか不思議な感覚」
「初めての魔法、いかがでしたか?」
にやにや顔でアズエルがこちらを見てくる。
ちょっと腹立つけど、今回は感謝しておこう。
「ありがとう・・・」
「いえいえ!それではイルミナさん、よい異世界冒険ライフを!モノラスへはこの道をまっすぐ行けば、たどりつけますので、お気をつけて~!」
アズエルはそう言って、紫色の光に包まれた瞬間、消えていった。
私は少しの間、アズエルが消えた場所を見つめていた。
「そういえば、結局聞けなかったな」
ぽつりと、一言呟いた。
アズエルに聞こうと思っていた事。
私が死んだ理由は、なんだったのかわからないまま、私はアズエルが案内してくれた道を歩き始めた。
アズエル「うぅっ、イルミナさん、しばらくお別れですね・・・」
イルミナ「私としては、一人取り残されて不安しかないんだけど?まだまともに魔法使えないし」
アズエル「安心してください!リングのおかげで力で抑えてはいますが、一般人には負けませんよ!」
イルミナ「いや、なんで人間と戦う前提なのよ・・・」
アズエル「だってあの道、山賊とか出そうじゃありません?」
イルミナ「はぁ!?あんたなんて所に私を置き去りにしたのよ!」
アズエル「大丈夫ですよー。あそこは魔物もいるでしょうからね!」
イルミナ「不安だああぁぁぁぁ!」