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同音異義語~最近おつかれな彼女の話を聞いてみた~

作者: 夜月紅輝

 この世には人ならざる存在がいる。しかし、それらは大抵の人は見えない。

 なら、見えた人は特別なのか? いや、本人からすれば大した能力ではない。


「ふぁ~.....むにゃ......」


 あくびをしながら登校する私の名前は、丑三トキコ。

 しがない高校二年の女子である。


 黒髪ぱっつんのボブ......日本人形とは言わないが、身長も凡であれば、顔も凡。

 強いて特徴をあげるなら、印象の悪い三白眼を持つ根暗ヲタク。


 そんな地味を人の形にしたら自分なのでは? と思う容姿をしているのが私だ。

 が、ある一点だけ、他のものにはない能力を持っている。


「あ、本日の第一霊子だ」


 十メートル先から曲がり角を曲がってきた黒髪の女子生徒。

 気分悪そうに背中を丸める彼女の後ろには、ボロ切れみたいな服を着た女性がいる。

 ボロ切れの女性は案の定、足元が透けて宙に浮かんでいた。


 しかし、女子生徒が気にしてる様子はない。まぁ、見えてないし仕方ないかな。

 そんな光景を後ろからぼんやり眺めていれば、後ろから車の音がしてきた。

 なので、振り返ることもなく、誰かの家の塀に身を寄せる。


「う~ん、ありゃどっちかなぁ......」


 横を通り過ぎ去った黒い車。

 その車を運転している男性の隣には、バッタのような頭をした何かがいた。


 運転する男性越しにバッチリ目があった気がする。

 けど、きっとあれはただ男性を凝視してただけなんだろう。

 にしても、一瞬だったために性別の判断が難しいな.....ふむ――、


「なんか男っぽい顔つきしてたから男にしとこ」


 そう言葉にして、楽観的に判断すると、私は再び歩き始める。

 もうお気づきの人もいるだろう。そう、霊能力だ。


 いとこが神職の家系だからなのかわからないが、生まれつき霊やら異形の存在が見えるのだ。

 そして、当時はそれが当たり前だと思っていた。


 それが当り前じゃないと思い始めたのは......うぅ、頭が、頭が痛い。

 私の頭が「思い出すな」と拒絶反応を見せている。

 あぁ、私の暗黒歴史が......余計な蓋は開けるものではないな、うん。


 ともあれ、そんな人間である私だが、あいにく力はない。

 霊丸も撃てなければ、呪力でどうこうすることもない。

 そう、私は見える子ちゃんなのだ。


 いや、なんだったら私は、霊から認識されることもない。

 何を言ってるんだ? と思うかもしれないが、言葉のままの意味だ。

 どうやら私は霊を視認できるが、霊からは視認できないらしい。

 

 理由はわからないが、いとこのおばあちゃん曰く「神様が守ってくれている」とのこと。

 まぁ、わからなければ、大抵神仏のおかげって思うわな、うん。


 とにもかくにも、そんな体質のせいか日々日常で、幽霊や異形に気づかず一緒に登校している生徒や、通勤するサラリーマンを見かける。


 そして見かけるたびに、頭の中で女だったら「霊子(レイコ)」、男だったら「霊男(レオ)」と適当に名付けて、一日どのくらい霊とであったか統計を取ったりしている。


 単なる日常の暇つぶしの一端だ。大した意味はない。

 ちなみに、霊子の二人目は「霊子マーク2」と名付けている。


 時に、「おいおい、見えてるなら教えてやれよ。薄情な奴だな」と思った人もいるだろう。

 だがしかし、大抵の人に見えないものをどう説明しろというのか?


 昔、親切心で教えてあげたことがあるが、「今すぐそのカルト宗教から抜けなさい」と別の心配をされた経験がある以上、霊を証明することは実質悪魔の証明なのだ。


 なので、基本的に知り合い以外はスルー。

 知り合いに対しても、うちのいとこに除霊してもらうことをお勧めしている。

 そして、これから話すのはそんな私の日常の一つだ。


*****


 とある日のお昼休み。

 私の席は窓側で、あいにく一番最後ではない。

 だが、陽光が差す位置なので、五月の今は適度に窓を開けておけば、心地よい風と共にベストプレイスに早変わり。


 周りから聞こえる雑多な声をBGMに、私は一人黙々とお弁当を食べ始める。

 ちなみにだが、ボッチではない。一人が好きなだけだ。

 話そうと思えば、私からも話しかけられる.......たぶん。


「はぁ、もう最近ムリ~~~」


 まるで残業帰りのOLのような雰囲気で、前の空いている椅子に跨るようにして座ったのはアキナだ。


 段々地毛が見え始めたプリンヘッドの金髪に、化粧も相まってパッチリ二重。

 耳にイヤーカフをつけ、さらになんか棒状のものもつけているギャル。


 少しずつ暑くなるよう季節を先取りしたかのような、腕まくりスタイルに、大きな胸の谷間を見せつけるかのような胸元をあけたワイシャツが、まさにザ・ギャルたらしめてる。


 そんな彼女の谷間の少し上あたり三日月のネックレスが、巨乳と相まってちょっとエロい。

 相変わらず女ながらに、ゴリゴリと性癖の扉を開けさせられるような格好だ。


「......」


 椅子の背もたれに両腕をひっかけうなだれるアキナから、私は視線を後ろに飛ばす。

 そろりそろりと足音もなく近づいてくるのが、長い黒髪を腰まで伸ばしたレイコだ。


 他の生徒たちがブレザータイプの中、赤いリボンに黒いセーラー服がよく目立つ。

 加えて、両目を隠すような長い前髪。毎度思うが見ずらくなかろうか?


「.......どうしたの?」


「どうしたもこうしたもないよ~。最近、元気足りな~って思ってさ。

 ほら、アタシって明るいとこが取り柄じゃん? だから、皆に申し訳な~って感じてさ」


 いや、別に申し訳なく思う必要なくね? と、思いつつ――、


「私は聞き役専門だから、悩みあれば聞くよ。

 大した助言はできないかもだけど」


 と、ヘタレなので率直に言うこと叶わず。

 ともあれ、彼女が沈んだような空気なのは、こちらとしても気分が良くない。

 なぜなら、彼女は俗に言う「ヲタクに優しいギャル」なのだから。


 男女ともに分け隔てなく明るく接する姿勢は、(一部の女子から反感を買っているが)私は好きだ。

 こんな明らかなボッ......ゲフンゲフン、孤高が好きな私にも気軽に話しかけてくれるし。


 確かに、無意味に多いボディータッチは世の男子を、あまつさえ女子を魅了するだろう。

 だがしかし、この子の太陽のような明るさは、光合成で必要な栄養素を補う私のような陰キャにはとても大切なのだ。


 そんな天照大御神が天岩戸にお隠れになられようとしている。

 だんだん精神がおっさん化してきてる私には由々しき事態だ。

 ほら、後ろにいるレイコだってうんうんと頷いてるし。


「ほんと、ありがとー!」


「おぉん.....うん.......」


 突然バッと顔を上げれば、綺麗な茶色の双眸を向け、両手で手を掴んできた。

 その早業に、私の陰キャ特有の返事が思わず出てしまう。


 .....っていうか、顔が近い近い近い! あと少しで鼻先当たる!

 それにキラキラした目でこっち見んな!

 ドキドキして私の陰が光でかき消えるだろうが!


 私から言質を奪い取ると、アキコは席を立ちあがり、後ろの机を持って反転した。

 そのまま机同士をくっつけると、再び席に着き、机に置いてある弁当を広げ始める。


 おう、ここで食うんか。

 いいけど、別にいいんだけど、周りの視線が若干痛い。

 特にあんたとよくつるむ女子......の中の上ぐらいのカースト女子からの視線が辛い。


「でさ、最近の悩みなんだけど、私聞き間違いがすごく多いの!」


「ふむ......」


 突然話題を始めたな。びっくりしたぞ。

 にしても、聞き間違いか。まぁ、ありがちの悩みだな。


「例えば、この前妹に『とって取って』って言われたんだけど、それを『取って取って』って催促されてるように聞き間違えちゃって......え、何を取って? ってしばらくわかんなかったの」


「あ、そういう聞き間違い.....」


「うんうん、すっごくわかる!」


 私が理解を示した次に、アキコの隣でレイコがすっごく同意していた。

 それこそ、両手で拳を作って軽く上下させるほどの勢いを持って。

 一方でアキコは、ピンク色の生地にハートのラメが入った付け爪の人差し指をあごに当て――、


「そういうのなんて言うんだっけ? 道頓堀語?」


「同音異義語ね。道頓堀にいる人達の間で特有の言語とかないから」


 私の訂正に、「あ、それそれー!」と不機嫌になるようすもなく、人差し指を向けて反応するアキコ。


 思わず出てしまったツッコミを指摘されずに安堵するも、内心では思ったね。

 あ、思ったよりもしょうもない話になりそうだぞって。

 まぁ、お隣のレイコは興味津々の様子だけど。


「実は他にもあってね。ある休日、服を買いに隣町に行ってたんだけど――」


 そう言って、アキコが話す内容を要約するとこうだ。

 彼女は服を求めに、隣町に向かう電車へと乗っていた。


 すると、彼女の前には、中学生ぐらいの年齢の二人の女子が座っていたという。

 その二人は、一つのスマホを二人で見ながら、少し大きな声で話していた。

 その内容というのが――、


『うわぁ、”キョウ”だ。最悪~』


『”キョウ”なの? あ、ほんとだ。え、じゃあもう売り切れてたり......』


『ちょ、不吉なこと言わないでよ! ......ハァ、ツイてないわ~。で、そっちは?』


『私は吉だった』


 と、そこまで聞いて、彼女は「今日」と「凶」を履き違えてることに気づいたらしい。


 もともと途中で話してる内容が耳に入ったこともあり、まぁ間違えることは仕方ないと思う。

 とはいえ、悪く言うつもりはないけど、やっぱしょーもな。


「でさ、なんか誰に指摘されたわけでもないのに、それに気づいた途端、すっごく恥ずかしく感じてさー」


「うんうん、わかるわかる。私も『小児科寄った方がいい』を『小二通った方がいい』って聞き間違えたことあるし」


 思い出し恥ずかしで赤らめた頬を両手でおさえるアキコの隣で、レイコが必死にフォローしてる。

 いや、それに限っては、その発言に至るまでの文脈で話わかるだろ。


「けどさ~ぁ、そん時はそれが初めてだったし、深くは気にしてなかったんだけど。

 でも、それから少ししてすぐに――」


 そして、これまたアキコが話し始めた内容を要約するとこうだ。

 とある登校時間の朝早く、彼女が提出期限が本日と迫った宿題を必死こいてやってた時のこと。


 まだクラスメイトが数えられる程度しかいなかった時、彼女の机の近くで、二人のクラスメイトが話していたらしい。

 それを彼女は勉強やりーので聞いていたらしく――、


『最近、新しい下着を買ってみたんだ』


『あー、前に行ってたやつ? オシャレしてみようかなとか言ってたもんね。

 でも、まさか下着から着手するとは思わなかったけど』


『ほ、ほら、オシャレって見えないところもするもんでしょ?そう言うじゃん!』


『そういうのって普通、外側が出来てからの話だと思うけど.....で、それで?』


『なんか若干めんどくさくなってるな、まぁいいや。

 で、せっかくだから来てみて”キョウダイ”の前に立ってみたの』


 その時、アキコのペンはピタッと止まったらしい。

 同時に、「え、下着ってそんなフランクに見せるもんじゃなくない!? アタシが姉妹だから?」と思ったようで、宿題に割くはずの集中力は思考から耳へ。


『で、どうだったの?』


『なんというか、下着は可愛いんだけど、モデルが私なのがその......』


『そうだね、ずんぐりむっくりだもんね』


『ずんぐりむっくり言うな!ちょーっと食べるのが大好きで、胴長短足の典型的な日本人体型なだけじゃい!......でも、そこに映ってる自分見てちょっと痩せなきゃなって思った』


 と、「映ってる」の文脈から、言ってたのが「兄弟」ではなく「鏡台」に気づいたらしい。

 まぁ、その子がわざわざ鏡台と言ったのも原因だろうが、アキコムッツリも一役買ってるだろう。


「はぁ、考えてみたらバカな発想だよねぇ.....どう考えてもありえないのに」


「そんなことないと思うよ! 近親相姦のジャンルはある種至高! 特におねショタはいいぞ!」


 何を言っとるんだ、コイツは?

 その見た目でそんなこと言う奴は始めてみるぞ。

 とはいえ――、


「それは兄妹だか姉弟だか知らんが、その二人の関係性にもよると思うけど。

 まぁ、その......なんだ、彼氏でも作ったら?」


「別に溜まってるとかじゃないから!」


 両手で拳を作り、小さくブンブンと手振りするアキコ。

 ふくれっ面まで作るその姿は、穢れを知らない少女のような反応で可愛い。

 ギャルのくせに。クソ、この女最強か?


 しかし、ここまで可愛い反応されると、ちょっとばかし汚したくなるのが私の情。

 いや、しないよ? チャンスがないから。

 そんな私の思いをよそに、アキコはお弁当のおかずをパクッと食べながら、さらに話を続けた。


「んでさ、仕舞には普通にやらかした時もあってさ――」


 またまたここで要約タイムだ。そして、その内容はこうだ。

 とある学校帰りの放課後、アキコは友達と一緒に帰っていたらしい。


 んで、友達がコンビニに寄りたいらしいので、同じくコンビニに入り、ホットスナックを買って先に外で待っていると――、


『お待たせ~。ごめんね待たせちゃって』


『いいよ、別に。何買ったの?』


『クラッカーだよ。これで久々にワンマンパーティーするつもりなんだ。

 ま、これはそのために必要な材料かな』


『へぇ、パーティーか、いいじゃん! ねぇねぇ、それにアタシもお邪魔するとかってアリ?』


『う~~~~ん、アリ~~~!!』


『やったーーー!』


 両腕を作って大きな丸を作る友達に、喜びを爆発させるようにアキコは抱き着くと、同じく「クラッカー」を求めにコンビニへ再突入した。


 しかし、探せど探せど「クラッカー」は見つからず。

 思い切って店員に聞いてみれば、「そんなものは売ってない」と言われる始末。

 泣く泣く退散して、そのことを友達に報告してみれば――、


『え、私が見た時には普通に在庫合ったけど』


『そうなの? え、何買ったの?』


 そして、アキコが友達のコンビニ袋を見てみると、中にあったのはお菓子の「クラッカー」だったと。


 どうやらその時のアキコは、音を鳴らす方の「クラッカー」と勘違いしてたらしい。

 まぁ、普通はクッキーの種類名では聞かないもんな。


「もうその時、恥ずかしさですっごい体熱くなっちゃってさ。

 しばらくまともに友達の顔が見れなかったもん」


 今も思い出し恥ずかししたのか、左手を団扇代わりに扇ぐアキコ。

 その動作によるほんの小刻みに動く双丘に目が奪われていると――、


「アキコちゃんを辱めるなんて最低な友達だね。呪い死ねばいいんだよ」


 彼女の隣にいるレイコがとんでもない怖い発言をした。

 なんか過激派がいるんだけど。

 表情分からないから余計怖いし、さすがに思想強すぎて怖いよ、それは。

 まぁ、表情なんてさらさら見たくないんだけど。


 そんなこんなで会話をしていると、いつの間にかお弁当を食べ終わっていた。

 なんとまぁ思っていたよりも、楽しんで聞いていたみたいだ。


 アキコもお弁当を食べ終わったのか、空のお弁当箱を片付け、お弁当袋に詰めた。

 そして立ち上がり、すぐ横にある窓をガラッと全開にすると、両手を縁につけ、少しだけ身を乗り出した。


 まだ金髪の部分の長い髪が、風に遊ばれてフワリと揺れる。

 そんな美少女にしか許されないポージングに、私は思わず見惚れてしまう。

 とても絵になる。あのサラサラしてそうな髪を手で梳きたい。嗅ぎたい。


「ひゃっ!」


 その時、ブワッと突風が窓へと流れ込む。

 ダイレクトにぶつかった風の壁に、アキコが可愛い声を出しながら、両手で顔を覆った。


 それこそ、窓から少し横にズレた位置にいる私も目を細める程度には、風の勢いは強い。

 にもかかわらず、その黒髪は微動だにしなかった。


「ちょっとアッコー! 窓閉めて、他の人に迷惑でしょ!」


「そうだよ、教卓にあるプリント一部飛んじゃってるじゃん!」


「ごめーん! すぐ閉めるから!」


 友達に咎められたことにより、眉尻を下げ、いそいそと窓を閉めるアキコ。

 ただし、私が一声かけて換気のために少しだけ開けてもらった。

 それからアキコは、改めて顔の前で手を合わせると――、


「ごめんね、こんなつもりじゃなかったんだけど」


「別に、私は気にしてないよ」


「なら、いいんだけど。ハァ、なんかちょーっちツイてないこと多いな」


 そう小言を呟き、アキコは再び席に着き、悩まし気に頬杖をついた。

 そんな彼女を見ながら、私はチラッと隣のレイコを見て――、


「......ちなみに、ツイてないって思うようになったのはいつから?」


「う~ん、正確な時期はわかんないけど、二週間ぐらいかも?」


 二週間ぐらい......その時には、アキコの周りにはレイコは居なかった。

 だからまぁ、つまりそういうこと。


「疲れてるのかなぁ~」


「憑かれてるみたいだね。とりあえず、知り合いの除霊師を教えるよ」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)



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