第2話 初仕事でトラブル勃発!
「え、これ全部、今日運ぶんですか?」
俺は宴会場の隅に置かれている箱を見て、目を疑った。
「そうだよ。何か問題でもある?」
「いや……」
文句ある?みたいな、リリスさんの眼力に俺は言葉を詰まらせた。
木箱の中には、酒・肉・珍味・謎の光る液体(※危険)など、宴会に必要な物資がギュウギュウに詰められていた。
(問題しかないよ!? だってこれ、箱が多すぎてもはや山になってるじゃん!!)
リリスさんは涼しい顔で言った。
「だいじょーぶ、君には体力しか期待してないから! 筋肉でどうにかしてね!!」
美人顔でウィンクする、リリスさん。
「言い方ひどくないですか!? もっとこう、信頼とか、希望とか……」
「ないね!」
俺の言葉はバッサリきられた。
* * *
「じゃ、とりあえず最初の木箱から運ぶか……っと」
一番手前の箱を持ち上げた、その瞬間――
ブシャアアアアアアア!!!
「ぎゃあああああああっ!?」
――中から飛び出してきたのは、無数の小型モンスターたち。
なんだコイツらァァァ!?
「『踊る前菜』だよ! 逃がしたら宴会崩壊だから!」
同じ宴会部のオーガが言う。
何その重要情報!? 前もって言ってよ!!
『踊る前菜』とか言う小型モンスターたちは、ゾンビ兵の顔に張り付くわ、リザードマンの尻尾に噛みつくわ、サキュバスのスカートに突撃するわーー祭りの屋台や宴会場を爆走し――もうカオス状態。
「きゃー!」
「やだぁあああああ!!」
「おい、新人。早く捕まえろ」
必死でモンスターを追い回す俺。
滑る! 転ぶ! なぜか天井からサソリが降ってくる!
汗と涙とサソリまみれになって、ようやく全匹確保。
その頃には、俺はほぼ干物になっていた。
「新人、なかなかやるじゃねぇか!」
「デスワームの腸液でも飲むか?」
「疲労回復にオススメよん♪」
鬼族、ゾンビ、リザードマンの人が進めてくる。
「遠慮します!!!」
――だが、地獄はまだ終わらない。
「おい、新人ー! こっちの木箱も頼むわ!」
そう言って持ってこられたのは、異様に頑丈な封印が施された黒い木箱。
(……嫌な予感がする)
俺はビビりながら蓋を開ける。
グオオオオオオオオ!!!!!
――ドラゴン(幼体)が飛び出してきた。
ぎゃあああああああっ!? 予感的中ゥゥゥゥ!!
人型じゃないほうのドラゴン! 炎吐いてくるタイプのやつ!!
宴会場が即・火の海。
「新人ー! 消火係も兼任だからヨロシクねー!」
「聞いてないよォォォォ!!!?」
俺は桶にデスワームの体液を入れ、炎にぶっかけ、体を張って鎮火に成功。
燃えた床、焦げた料理、スモークされたサキュバス。
――惨状だが、何とか任務完了……したのか?
「うん、初仕事にしては上出来ね!」
リリスさんは、炎の中でなぜか紅茶をすする。
余裕っぷりの態度だ。
「いや、上出来とそう言う感じじゃないでしょ!? 火事だよ!? ドラゴンだよ!? しかもまだ一箱目だよ!?」
「そうね。じゃ、次の箱、いってみようか♪」
地獄か!!!
――こうして、俺の初仕事は、物理的にも精神的にも、炎上で幕を閉じた。