第1話 ようこそ魔王軍宴会部へ!
「はい、これで今日から君も、魔王軍の一員だね!」
バサッと無造作に投げ渡されたのは、黒いマントと、やたら重い鉄の名札だった。
そこにはこう刻まれている。
《魔王軍 宴会部 物資管理係 カイン》
……よりによって、宴会部。
「ねえ、聞いてる? 宴会って魔王軍の最重要イベントだから! 適当にやったら即、胃に穴開くから!」
怖いよ説明が!
俺をスカウトした黒ドレスのお姉さん――リリスさん。
――が、満面の笑みで脅してきた。
「あ、ちなみにうち、ブラックって言われがちだけど、最近はホワイト化を目指してるから! ちゃんと休み月一回あるし!」
月、一回……?
それって労働基準に違反しているんじゃ?
聞き間違いであってほしい。
* * *
「よーし、新人紹介するわよー!」
広い宴会場に連れてこられると、そこにはすでにモンスターたちがずらり。
鬼族、オーガ、ゾンビ、リザードマン、サキュバス、ドラゴン(※人型)。しかも、全員がゴクゴク酒を飲みながら、盛り上がってる最中だった。
「宴会部、今日から新しい荷物運び担当です!」
皆の注目が僕に集まる。
「カイン、ほら、自己紹介!」
リリスさんにぐいっと背中を押される。
「あ、えーと、カインです……よろしくおねがいしま――」
一瞬の沈黙の後……、
「おう、じゃあまずこれ持ってけぇぇぇぇ!!」
ドガッ。
突然、鬼族の兄ちゃんが、樽サイズの酒瓶を投げつけてきた!
「ぎゃあああああっ!!」
なんとかキャッチするも、腕がブルブル震える。
次にオーガのおっさんがグリフォン丸ごと一羽を差し出してくる。
「ナイスキャッチ! よーし次! このグリフォンの丸焼き運べぇ!」
「ひえええええっ!!」
熱いし、重い!でも、めちゃくちゃいい匂いする!
「や、火傷する! っていうか、俺、宴会準備係じゃなかったの!? なんで体力技みたいな扱い受けてるの!?」
「宴会だぞ!? 宴だぞ!? 体力勝負に決まってんだろ!!!」
何この理不尽世界。
勇者パーティーが恋しい……いや、やっぱり恋しくない。
俺には勇者時代に鍛えた筋力と忍耐力がある。こんな扱いは屁でもない。
大量の荷物を運び続ける俺を見て、モンスターたちは大盛り上がりだ。
「いいぞ、いいぞ、新人、なかなか根性あるじゃねぇか!」
「このまま世界征服パーティーの準備も頼めるな!」
「次はデスワームのカクテルを作らせようぜ!!」
悪ノリが止まらない。もう、やけくそだ。
俺は、叫んだ。
「よっしゃあああああ!! 運んでやるよォォォ!! 宴会でも世界征服でも、荷物一個残さず、全部運び切ってやるわぁぁぁぁ!!!」
だが、グリフォンの丸焼きを背負い、鬼族たちの悪ノリに付き合いながら、俺は思う。
こんなハチャメチャな世界だけど、喜んでくれる。以前は勇者たちに尽くしても感謝の言葉すらない。
この仕事も……悪くないかもな、と。
――こうして俺、カインは、魔王軍宴会部の正式な荷物運び係として、魔王軍ライフをスタートさせたのであった。