人生終了のお知らせ
「――カイン、お前、クビな!」
その一言で、俺の人生は唐突に終わった。
「……は?」
間の抜けた声が漏れる。だが、言い放った張本人――勇者リオンは真顔だった。
「荷物、重そうだったし。動き鈍いし。パーティーの足引っ張ってるし?」
「いやいやいや!? 俺、誰よりも荷物運んでたからな!? 死にかけながら!」
「重そうな時点でアウト~。はい、解散解散!」
冗談のようにポイッと、俺はパーティーから追い出された。
こんなの、ありかよ……。
俺には戦闘の才能も、魔法のセンスもなかった。それでも、荷物運びだけは誰にも負けない自信があった。
食料も薬草も装備も、誰よりも重たい荷を背負い、文句ひとつ言わず走り続けてきた。
その努力のすべてが、たった一言で吹き飛んだ。
――追放理由、「重そうだから」。
(リオンの腹の肉の方がよっぽど重そうだろ……)
心の中で毒づいても、現実は変わらない。仲間たちは誰も、俺を庇おうとしなかった。
むしろ、俺から距離を取るようにして立ち去っていく。
――完全なる、孤立。
* * *
そして今、俺は町の広場に座り込んでいる。
財布の中には、銀貨三枚ぽっち。
背中のリュックも、無造作に地面に転がっていた。
(……詰んだ)
この国では「追放者」というだけで、どの冒険者パーティーも門前払いだ。
戦えず、魔法も使えず、荷物持ちとしての誇りさえ砕け散った俺に、もはや行く先などない。
見上げた空は、どこまでも青く、やけに遠かった。
(……せめて、奇跡でも降ってこねぇかな)
そんな叶いもしない願いを呟いた、まさにその時だった。
――ドゴォオオオオンッ!!
「うおおおっ!?」
頭上から轟音が響き、空から何かが降ってきた!
慌てて飛び退いた俺の目の前に、ふわりと黒いドレスの裾が揺れる。
現れたのは、ツノとコウモリの羽を持つ、美しすぎる女だった。
全身に豪華な装飾を施したドレスをまとい、肌の露出は少ないのに、妙に妖艶だ。
赤い瞳が俺を見つめ、にこりと笑う。
「ねぇ、君。荷物運び、得意?」
「……は?」
突飛な質問に、間抜けな声が漏れる。
「うち、魔王軍なんだけど! 宴会係、今、大募集中なの!」
「ま、魔王軍!?」
いきなり何を言い出すんだ!?
宴会係って、どういうことだ!?
「特にね、宴会運営できる人材、超不足してて困ってるの。君、得意そうでしょ? だからうちで働かない?」
「いやいやいや、どこをどう見てそう思った!?」
思わず叫んでしまった。俺、元・勇者パーティーの一員なんですけど……。
「え、でも君、追放者でしょ? 無職でしょ? 最高じゃん! 即採用!!」
「は!? なぜ即決!?」
女はにこりと笑って、俺の腕をぐいっと掴んできた。
「私はリリス。魔王軍・宴会部門の責任者だよ! 今日から君は、宴会係ね!」
すでに俺の話なんか聞いていない。完全に暴走モードだ。
(……いや待て、俺、これ拒否できるか?)
銀貨三枚。家も職も仲間もなし。
生き延びるためには、どこだろうが、働くしかない。
「……わかった。やります」
そう答えると、リリスは満面の笑みを浮かべた。
「いい返事っ!」
ぱちん、と指を鳴らすリリス。
次の瞬間――
広場にズラリと現れる黒ローブの軍団!
「宴会だあああああ!!」
「「「カンパーーーーイ!!」」」
ドゴォォォン!!
酒樽が爆発し、肉が空を飛び、通行人たちがパニックを起こす。
「ぎゃあああああ!!」
「魔王軍が広場を占拠してるぞおお!!」
「逃げろおおおお!!」
地獄絵図だった。
口をパクパクさせながら、その狂乱を見つめる俺。
(な、なにこれ……)
そんな俺の肩を、リリスがにこにこと叩いてくる。
「安心して! 宴会さばけるようになったら、すぐ昇進するから!」
「昇進って……どこに?」
「最終的には、魔王様直属の給仕班だよ!」
(……それ、出世って言っていいのか!?)
「とにかく、まずは宴会のノリを覚えようねー!」
ノリ? なにそれ? どこのスキル?
ツッコミどころが多すぎて頭が追いつかないが、リリスの手は俺の腕をがっしり掴んだまま離さなかった。
(……まあ、死ぬよりはマシか)
覚悟を決めて、俺は運命に身を委ねる。もう、帰る場所なんてどこにもないのだから――。
こうして俺は、異世界一ブラックと名高い魔王軍に、宴会係として就職することになった。
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10話くらい投稿してブクマ付かなかったら続き辞めようかなと思います。