08 REC/レック
シェルターの中では薄暗い照明が明滅し、湿った空気には汗と鉄錆の混じった匂いが充満していた。核戦争時に建造された地下施設は、いまや恐慌状態の生存者たちで溢れ返っている。狭い通路や休憩区画は壊れた家具や雑多な物で塞がれ、隅々にはボロボロの物資箱が積み上げられていた。物資不足は、人々の精神をすでに限界へと追い詰めていた。
「補給がなけりゃ……あと三日は保たんぞ……」
中年の男が低く吐き捨てるように言い、ほとんど空になった食料棚を青ざめた顔で見つめていた。避難者たちは弱々しい吊り灯の下に集まり、その表情はどれも疲弊しきっていた。静かに祈る者もいれば、震えながら虚空をただ見つめ続ける者もいる。
少し離れた場所では、母親が衰弱した子どもをきつく抱き寄せ、背中を優しくさすりながら、嗚咽まじりに慰めていた。
「大丈夫よ……もう安全だから……もう誰も、傷つかないわ……」
だが、この重苦しい暗闇の中では、その声はあまりにもか細く、力なく吸い込まれていくばかりだった。
そのとき、地面の下から低く鈍い振動が響き、壁際の金属メッシュがかすかに揺れた。最初、人々は街の地表に残った余震だと思い、誰も気に留めなかった。だが――シェルターの隅に走る壁の裂け目から、一本の翠緑の蔓がひっそりと伸び出した。
それは蛇のように身をくねらせ、細い巻きひげをもぞもぞと動かしながら、暗がりの中をゆっくりと、しかし確実に這い進んでいった。
「カチッ……」
灯りが数度明滅したかと思うと、鋭い破裂音とともに電球が弾け飛び、次の瞬間、シェルター全体が闇に飲み込まれた。生存者たちは悲鳴を上げ、動揺と恐怖が一気に広がった。
「何が起きているのだ!」
鉄棒を握りしめた若い男が周囲を見回しながら叫ぶ。薄い非常灯がようやく点灯し、シェルター内部には重く暗い影が揺れた。
そのとき、壁にもたれ座っていた一人の女性の喉から、かすかな異音が漏れた。振り返った人々が目にしたのは、血走った眼、青ざめた顔、そして首筋に浮かび上がる蔓のような脈管——皮膚の下で蠢く“何か”だった。次の瞬間、彼女は最も近くにいた避難者へ飛びかかり、鋭い爪でその男の喉を切り裂いた。鮮血が勢いよく噴き上がる。
「か、傀儡だ!!」
誰かが悲鳴を上げ、シェルターは一瞬で血と混乱の渦へと沈んだ。
壁や通気口、床の裂け目から同時に何本もの蔓が伸び出し、数人の足首や手首に音もなく絡みつき、そのまま肉体へと侵入していく。あっという間に三、四人が痙攣しながら倒れ込み、皮膚は青紫に染まり、瞳孔は虚ろに開いた。蔓が体内から強引に身体を操り、彼らは痛みに歪んだ表情のまま、口元から血を滲ませて立ち上がる。
「た、助けて……!」
蔓に操られた若い男が涙を流しながら震える手でシャベルを振り上げ、かつての仲間へと振り下ろす。避難者たちは四方へ逃げ散り、絶叫が狭い空間に反響した。
「急げ、西側通路を封鎖しろ!奴らを入れるな!」
シェルターの責任者が怒鳴り、武装した志願兵たちが慌てて銃を構え発砲した。弾丸は蔓の傀儡を貫き、緑色の汁を飛び散らせたが、蔓は断たれた手足をなお操り、執拗に前へ進んで殺戮を続けた。
蔓は蜘蛛の巣のように広がり、シェルターは瞬く間に、血と蔓が絡み合う屠殺場と化した。切断された四肢や砕けた骨が散乱し、生存者たちは核心区画へと押し込まれるように退避していく。扉の外では絶え間なく悲鳴が響き、蔓が隙間から静かに這い入ろうとしていた。シェルターの最後の防衛線は、すでに崩壊寸前だった。
夜の帳が降りるころ、市街地には耳をつんざく戒厳警報が鳴り響き、深紅の警告灯が荒廃した通りを血のような赤で染め上げていた。崩れかけた高層ビルの合間には蔓が張り巡らされ、人影のない道路には車の残骸と血痕が点々と残っている。大使館跡地の門は固く閉ざされ、数名の武装警備員が緊張した面持ちで引き金に指をかけ、周囲の闇を警戒して立っていた。
館内では、館長と職員たちが青ざめた顔で臨時指揮室に身を寄せていた。壁のスクリーンには街中の監視映像が映し出されている。蔓が街区を覆い、市民が襲われ、政府軍が次々に後退していく光景――どれも目を覆いたくなる惨状だった。
「戒厳区域は制御不能だ。すぐに撤収しなければならない。」
館長は歯を食いしばり、こめかみを伝う汗を拭おうともしなかった。
「はい。避難経路は確保済みです。大使閣下と皆さまは、我々のチームが護衛いたします。」




