07 ランド・オブ・ザ・デッド
夜は墨のように濃く、重い暗雲が連邦首都を押し潰すように覆っていた。かつて繁栄を誇った街並みも、壮麗だった議政広場も、今や無残な廃墟へと変わり果てている。焦げた土と腐敗した植物の、甘く鉄臭い気配が空気を満たし、呼吸するだけで腐土を肺に流し込むようだった。街の至る所で深紅の蔓が血管のように広がり、人類の領域を静かに侵食していた。
上空から見下ろせば、街はわずか数時間で陥落していたことがわかる。中央通りは壊れた車と倒壊した建物で埋まり、裂け目やマンホール、崩れた壁面から蔓が噴き出しては絡み合い、街路を巨大な血管の網へと変えていた。遠方の議政庁の残骸では、蔓がすでに深く根を張り、彫像やレリーフを呑み込み、ねじれた緑の腫瘍のような塊へと変貌させていた。
街路や路地では、人々が恐慌状態で逃げ惑い、悲痛な叫びがこだましていた。幼い子どもを抱えた母親が廃墟の間を蹌踉と走り抜ける。直後、足元を突き破って蔓が飛び出した。それはまるで意志を宿すかのように母親の服をかすめ、隣を走っていた男へと巻きつき、一瞬で身体を引き裂く。緑の蔓は飛び散った血を吸い上げ、瞬く間に新たな恐るべき植物の傀儡へと変じた。
「お願いだ、やめて……来るな!!」
男の喉は裂けんばかりに震え、眼にはなお尽きることのない恐怖が焼き付いていた。だが彼の肉体はすでに蔓に奪われ、痙攣しながら周囲の人々へ襲いかかる。生存者たちは絶叫し、四方へと逃げ散った。叫びと泣き声が夜空に重なり、まるで煉獄の嘆きそのもののように響き渡った。
政府軍は必死に抵抗を続けていたが、街路も路地も、戦闘はすでに制御不能となっていた。重火力車両は崩れ落ちた建物の残骸の間を苦労して進み、機関銃と火炎放射器が交互に咆哮しながら、次々と現れる傀儡や蔓を焼き払い、撃ち払おうとしていた。しかし一帯をようやく掃討しても、すぐさま地中から新たな蔓が噴き出し、それと同時に新たな植物の傀儡が次々と生まれ落ちてくるのだった。
「急げ!この区画の電源を切れ!角の通路も封鎖しろ!奴らをこれ以上広げるな!」
将校が通信回線に怒号を飛ばすが、その声は爆発音と悲鳴にかき消される。戦場では、寄生された兵士が涙を流し、唇を震わせながら、体内の蔓に操られるまま銃を構え、かつての戦友へ向けて引き金を引いた。連続する銃声とともに血が四散し、目を覆いたくなる惨劇が広がった。
街の象徴的建造物は次々と陥落した。かつて高くそびえていた展望塔は深夜、轟音とともに崩れ落ち、その骨組みは太い蔓に絡め取られ、砕けた金属片とコンクリートが周囲一帯に散乱した。市立図書館の外壁には深い亀裂が走り、うねる蔓が伸び出して巨大な彫像を闇の中へと引きずり込んだ。古びた時計塔もまた轟然と崩壊し、瓦礫と塵が舞い上がる中、無数の蔓が毒蛇のようにその隙間をうごめいた。
高高度偵察ドローンの映像には、街が緑の蔓の網によって一寸ずつ侵食され、もはや無傷の区域が存在しない様が映し出されていた。街路は蔓に断ち割られ、政府軍の残存部隊はわずかな仮設拠点へと後退を余儀なくされ、通信は次第に途絶していく。前線指揮車の中で、作戦参謀は画面に映る消えかけた市街マーカーを見つめながら、震える声で呟いた。
「終わりだ……もう持ちこたえられん……」
生き残りの人々は廃墟や地下鉄の残骸に身を潜め、震えながら囁き合った。
「外はもう落ちた……私たちに、まだ希望なんてあるの……?」
しかし、その問いに答えられる者はいなかった。遠い夜空の向こうでは、巨大な蔓の怪物の影がゆらりと姿を現し、猩紅の双眸で街全体を見下ろしていた。廃墟と、なお必死にあがく残兵たちを――冷たい傍観者のように、あるいは最終の「収穫」の刻を静かに待つ者のように。




