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05 ワールド・ウォーZ

 無数の実弾が刹那に発射され、狙いすましたように怪物の醜悪なカボチャ頭と蠢く蔓へと集中する。だが怪物は嗤うような声を上げ、絡み合う蔓を盾のように広げて弾幕を受け止めた。わずかに通った弾丸も頭部や蔓の外皮に浅い焦げ跡を刻むだけで、ほとんど効果を与えていない。蔓はまるで鉄甲のように分厚く強靭で、びくともしなかった。

「火力不足だ!重火器を投入しろ!」

 指揮官は険しく叫び、急ぎ第二梯隊を展開させる。

 装甲車の砲塔が唸りを上げて旋回し、砲口が怪物へと狙いを定める。ロケットランチャーを担いだ兵士たちは素早く角度を調整し、安全装置を外して固唾を飲みつつ指令を待った。

「重火力準備!目標ロック、頭部を集中攻撃!部隊の撤退を援護しろ!」

「砲一、砲二、配置完了!」と通信に緊迫した声が走る。

「ロケット班、発射用意——撃て!」

 轟音とともに複数のロケット弾が炎の尾を引き、稲妻のような勢いでカボチャ頭へ突進した。着弾の瞬間、爆炎が土煙を巻き上げ広場を揺らす。空気そのものが震え、遠くの建物の窓までもがびりびりと鳴り響いた。

「命中!続けて押し込め!」

 副官の叫びとともに砲撃は途切れることなく続き、ロケット弾、榴弾、速射砲が怒涛のように降り注ぐ。泥が跳ね、爆炎の光が渦巻く暗雲を赤々と照らし出した。

 濃い霧が空を覆い、腐りかけた植物の甘ったるい悪臭が広がる。地面は不気味にうねり、怪物の真紅の瞳が暗雲の下で妖しく光った。太い蔓が蛇の群れのように身をくねらせ、地面や廃墟、建物の裂け目から次々と姿を現す。

「警戒しろ!蔓の活動が活発だ!全員、足元に注意!」

 通信越しの指揮官の声は掠れ、押し殺した恐怖が滲んでいた。

 言葉が途切れるより早く、舗装の裂け目から漆黒の蔓が突き出し、槍のように鋭く兵士の胸を貫いた。兵士の瞳孔は瞬時に縮み、口元から血が溢れ、掠れた悲鳴を漏らしながら身をよじる。蔓は傷口から暴れるように侵入し、背骨へ、脳幹へ、四肢へと這い回り、まるで無数の毒蛇が血管を駆け巡るかのように体内を突き進んだ。

 兵士の手は激しく震え、皮膚の下では緑色の蔓が脈打つように盛り上がり、顔は凄絶な痛みに歪む。

「あああっ!たす……助けて――!」

 かすれた声を絞り出す彼の瞳には、いまだ痛みと恐怖が鮮明に浮かんでいた。だがその身体はすでに自律を失い、四肢は蔓に引きずられるまま、ゆっくりと硬直していく。唇は微かに震え、涙が静かに頬を伝った。意識だけがはっきりと残されているのに、肉体の支配権は完全に奪われていた。

 刹那、逃げ惑う兵士や民間人の身体にも次々と蔓が突き刺さり、体内へ侵入して神経系を乗っ取り、筋肉や骨の働きを強制的に掌握していく。侵蝕された者の顔色は徐々に青ざめ、皮膚には細かな蔓の網が走り、口や鼻からは淡い緑色の液体が滲み出した。脳と感覚だけが無傷のまま残され、操られる肉体の激痛をひとつ残らず味わわされていた。

「天……ああ、神よ……レックだ!まだ生きている!レック、答えてくれ!」

 ひとりの兵士が悲痛に叫ぶ。寄生された戦友がゆっくりと首をこちらへ向ける。その目にはわずかに昔の面影が残っていたが、尽きることのない痛みと、声にならぬ救いの懇願が滲んでいた。

「……殺してくれ……」

 レックの唇が微かに動き、かすれた声が漏れる。だが次の瞬間、蔓が彼の身体を突き動かし、いつの間にかその手には冷たい光を放つ短剣が握られていた。

「レック!やめろ――!」

 兵士は恐怖に叫び、必死に後退する。しかし、蔓に絡め取られたレックは凄まじい速さで飛びかかり、泥と血が混じる地面へと彼を押し倒した。

 レックの両手は震え、涙があふれ落ちる。だが短剣は蔓に操られ、かつての戦友の腹部へ無慈悲に突き立てられた。血しぶきが舞い、蔓に覆われた彼の頬を赤く染めていく。レックは嗚咽を漏らしながら、何度も、何度も、突き刺し続けた。

「ごめん…ごめん…ごめん……」

「レ……ック……やめ……あああああっ!」

 仲間は絶叫し、必死に足を蹴り上げるが、振りほどく力はもう残っていなかった。

 レックは激しく震えながらも意識だけは途切れず、痛みに顔を歪め、涙と血にぐしゃぐしゃになりながら泣きじゃくった。それでも短剣は機械のように動き続ける。足元の泥は瞬く間に真っ赤へと染まった。

 ほどなくして、瀕死の戦友にも蔓が入り込み、彼の身体を新たな植物の傀儡へと変えていく。長い痙攣ののち、皮膚は青く変色し、口と鼻から緑の液が滲み、瞳孔は徐々に濁り始める。そしてついに立ち上がり、レックの隣へと並んだ。瞳は生気を失いながらも意識だけは残され、底なしの絶望が宿っていた。

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