20 ポイント・オブ・ノーリターン
その一言は、静かな水面に石を投げ込んだように、瞬く間に波紋を広げた。
「冗談だろ!」
警備員が眉をひそめる。
「一人で行くなんて自殺行為だ!」
「隅に隠れていれば安全だなんて、誰にも保証できない。」
颯真は低く言い、何気なく懐中時計を閉じた。
カチッという乾いた音が、死んだように静まり返った夜にやけに響いた。
「奇襲されて終わるような賭けはしたくない。自分の命は、自分で責任を取る。」
教授は鋭い眼差しで口を開きかけたが、颯真の冷ややかな視線に遮られた。
その目は、普段の飄々とした態度とはまるで別人のようだった。まるで結末を見通しているかのような静けさを湛え、深夜の海のように凪いでいるのに、かえって背筋が寒くなる。
空気は凍りついたように重く、遠くではガラス窓のカーテンが風にあおられてはためく音だけが聞こえていた。
「放っておけよ。」
学生の一人が小声で吐き捨てた。
「こんな狂ったやつ。」
警備員の男は歯ぎしりし、最後に鼻で笑った。
「あとで忠告しなかったなんて言うなよ。」
颯真はそれ以上何も言わず、背を向けて小道の方へ歩き出した。足音が広い芝生にかすかに響き、孤独で、それでいて揺るぎなかった。
セレステは遠ざかっていくその背中を見つめながら、胸がぎゅっと締めつけられるのを感じた。さっきまでの非難の声と、颯真の言葉が頭の中で何度も繰り返される。
彼の言うことが間違っていないことは分かっていた。だが、もし今ここで後を追えば――もう二度と引き返せないかもしれない。
彼女の指先は氷のように冷たく、心臓は太鼓のように激しく鼓動していた。彼女は俯き、唇を噛みしめる。すると突然、颯真の冗談めいた声が耳元によみがえった。
「主人公なら、困難に立ち向かわないとな。」
まるで何かに背中を押されたかのように、彼女ははっと顔を上げ、彼の後を追って歩き出した。
「待ってください!」
皆が一瞬、呆然とする。教授は眉をひそめて言った。
「君は……正気か!?」
「暗い片隅で死ぬのを待つなんて、嫌です。」
セレステの声はかすかに震えていたが、そこにははっきりとした決意がこもっていた。彼女は教授を見つめ、必死に平静を保ちながら言う。
「あなたたちにはあなたたちの道がある。私には私の決断があります。」
そう言うと、彼女は足早に颯真に追いつき、彼の隣に並んだ。
颯真はわずかに驚いたように彼女を振り返り、やがて見慣れた笑みを浮かべた。
「やっと腹をくくったか?」
セレステは静かに頷いた。
「あなたを信じます。」
二人は人影のない小道を肩を並べて進み、街灯の淡い光に照らされながら、やがて夜の闇と鳴り響く警報の中へと姿を消していった。背後では、生き残った人々が静かに二人の背中を見送っていた。誰一人として声を上げる者はなく、夜風に揺れる草や蔓のざわめきだけが響く。まるでキャンパス全体が、孤独な道を進む二人を静かに見守っているかのようだった。
夜がさらに深まるにつれ、ゴシック様式の塔のシルエットが鋭い刃のように夜空を切り裂いていた。教授に先導された一行は、管理棟の裏手にある古びた石壁に身を寄せ、寮と校舎の影の間を縫うようにして、ゆっくりと進んでいった。
夜風には甘く湿った、生臭い匂いが混じっている。蔓の生い茂る草地や崩れかけた壁の間をすり抜け、不気味なざわめきを立てていた。遠く運動場の方では、颯真とセレステの姿はとっくに開けた道の先に消え、朧な夜の中にかすかな黒い影が揺れているだけだった。
草むらの中では、蔓が音もなくうごめき、蛇のように地面を這いながら人々へ忍び寄っていた。欠けた月が夜空に浮かび、かすかな銀色の光を落として辛うじて周囲を照らしている。数本の街灯がちらつきながら、濃い闇と蔓の影の中にまだらな光を投げかけていた。
学生たちは恐怖に怯え、衣服は泥と血で汚れている。何人かは恐怖のあまり震えながら、かすれた声で呟いていた。
「もうすぐだ……もうすぐ着く……」
そのとき、死のような静寂を破るかすかな「パキッ」という音が響いた。
痩せた一人の学生が反射的に振り返る。次の瞬間、足首を締めつけられる感覚が走った。視線を落とすと、数本の蔓が一斉に四肢へ絡みつき、彼の体を脇の茂みへと引きずり込んでいく。
暗闇の中から、押し殺した咳と必死のもがき声が聞こえた。だがそれも、突然ぷつりと途絶えた。
人々が恐怖に駆られて振り返ると、影の中でその学生の顔がみるみる青白く歪んでいくのが見えた。数秒後、彼の両目は白く濁り、口や鼻から濃い緑色の液体があふれ出す。ゆっくりと立ち上がったその体は、まるで糸で操られた人形のように、不気味な姿勢へとねじ曲がっていた。
寄生する触手のような蔓が、首筋や眼窩、口元からうねりながら這い出し、その肉体を操っていた。




