19 ターニング・ポイント
セレステは少し離れた場所に立ち、両手をぎゅっと握りしめながら、二つの陣営のあいだを視線で行き来していた。顔には葛藤の色が浮かんでいる。何度か口を開きかけたものの、結局言葉にはならなかった。薄暗い灯りの下で、彼女の顔色はますます青白くなり、青灰色の瞳には不安と迷いが満ちていた。
白くなった自分の指の関節を見つめたあと、ふと顔を上げ、彼女は小さな声で颯真に言った。
「まっすぐ行けば早いけど……でも、途中であれに遭ったらと思うと……」
颯真は横目で彼女をちらりと見て、口元に淡い笑みを浮かべた。その笑みには、言葉では言い表せない確信と安心感がにじんでいた。
「分かっている。でも、こういう時は“速さ”と“安全”は両立しない。今はどっちを選んでも安全じゃない。結局は――どっちの危険の方が怖いか、ってことだ。」
セレステは唇を噛んだ。
そのとき、入学初日の光景がふと脳裏に浮かんだ。授業中、颯真が皆の前で教授に真っ向から反論したあの場面だ。あの時、クラスのほとんどが教授の側に立っていたのに、彼だけが流れに逆らい、自分の推論を貫き通した。そして最後には、彼の考えこそが正しかったと証明されたのだった。
その揺るぎない確信と、流れに逆らうことを恐れない胆力は、あの日からセレステの心にそっと憧れの種を植え付けた。そして気づかぬうちに、彼女の胸に淡い想いを芽生えさせていた。
彼女は分かっていた。颯真の考えはしばしば人と違うが、現実によって正しいと証明されることが多いということを。だから今も、本当は彼の側に立ちたかった。あの授業の時のように、もう一度彼を信じたいと思っていた。
しかし、今は皆が教授の意見に傾いている。警備員も学生たちも不安そうな顔をしており、ついさっきまで恐怖に震え、傷だらけだった学生たちでさえ、迂回ルートを取るべきだと声をそろえていた。セレステには軽々しく逆らうことができなかった。もし何か起これば、責任はきっと自分と颯真に向けられる――そんな恐れがあったからだ。
心の葛藤は波のように押し寄せ、呼吸さえ苦しくなった。指先は氷のように冷え、胸の奥では重苦しい鼓動が鳴り続けている。彼女はうつむき、皆の視線を避けた。それでも耳の奥には、さっき颯真が言った穏やかでありながら揺るぎない声が残っていた。
――「どっちの方が怖いか、ってことだ。」
その言葉はまるで鍵のように、彼女の心の扉の前に引っかかっている。だが彼女には、まだそれを押し開ける勇気が出なかった。
「わたし……」
言いかけた言葉は喉で詰まり、結局小さなため息に変わった。彼女はスタジアムへと続く小道の方を見やった。薄暗い街灯の下、遠くまで人影はない。芝生の上には枯れ葉や蔓が散らばり、それはまるで彼らを呼んでいるようでもあり、あるいは警告しているようでもあった。
どちらを選んでも、待っているのは生死も分からない賭け――それだけは、彼女にもはっきりと分かっていた。
迷いと恐怖に飲み込まれそうになった、そのときだった。
颯真がそっと手を伸ばし、彼女の肩に触れた。掌にはかすかな温もりがあり、その小さな熱が服越しに伝わってきて、強張っていた肩の力をゆっくりとほどいていく。
セレステは顔を上げて彼を見た。いつもどこか飄々とした笑みを浮かべている颯真の目に、今はわずかな真剣さと優しさが宿っていた。まるで、言葉にせずこう伝えているかのようだった。
――大丈夫。君がどっちを選んでも、俺はそばにいる。
その瞬間、胸の奥で荒れ狂っていた恐怖は、その手にそっと押さえられたかのように静まり、ゆっくりと落ち着いていった。
颯真は薄暗い芝生の中央に立ち、指先で懐中時計をそっと回していた。銀の鎖が夜風に揺れ、かすかな音を立てる。彼の視線は、スタジアムへ続く小道に向けられたままだった。ぼんやりとした街灯が、前方の人気のない芝生と散らばる枯れ葉をかろうじて照らしている。遠くでは、蔓が彫像やベンチに音もなく絡みつき、まるで眠りについた猛獣のような不気味な気配を漂わせていた。
教授の声が、短い沈黙を破った。
「前にも言ったはずだ。これは遊びじゃない。君の提案はあまりにも危険だ。自分の身勝手が皆を危険にさらすことになると、きちんと理解すべきだ。」
警備員の男も怒声で続けた。
「格好つけて型破りなヒーロー気取りはやめろ! 今は全員の命がかかっているのだ。無茶をして目立とうとするのが一番困るのだよ!」
数人の学生も不満げな表情で、ひそひそとささやき合った。
「こいつ、頭おかしいのじゃないか?」
「自分を救世主か何かだと思っているのかよ。」
「俺たちまで巻き込むなよ。」
セレステは人だかりの端に立ち、青ざめた顔で、無意識のうちに服の裾を指先でもてあそんでいた。周囲の非難の声が次第に激しくなっていくのを聞きながら、心臓が見えない手でぎゅっと握り締められているような感覚に襲われていた。
しかし颯真は、まるで何も聞こえていないかのように、いつもの気だるげな口調でゆっくりと口を開いた。
「そんなにその道を行きたくないなら、行かなければいい。俺は一人で行く。」




