17 パラサイト・ヴァイン
図書館の廊下には、けたたましい警報がなおも響き渡っていた。頭上の照明は、溺れる直前の最後のもがきのように明滅し、周囲は自分の心臓の鼓動さえ聞こえそうなほど静まり返っている。
颯真とセレステは肩を並べて歩き、闇の中に潜む未知の存在を刺激しないよう、足音を極力殺して進んでいた。
「ルート、わかるの?」
セレステは、まるでこの死のような静寂を乱すのを恐れるかのように、小声で尋ねた。
颯真は首を少し傾けて彼女を横目で見やり、どこか頼りない笑みを浮かべる。
「まあ、放送で言っていたスタジアムの方向に向かえばいいだろ。どうせ全部封鎖されているし、ほかに選べる道もないしな。」
二人は人影のない廊下を進み、半開きの図書館の扉を抜けた。
前方のキャンパスの芝生には、ぼんやりとした街灯の下で、数人の人影が集まっているのが見える。
セレステの胸がきゅっと締めつけられ、思わず颯真の手首をつかんだ。
「……誰かいるわ」
彼女は低くささやいた。
颯真はうなずき、もう一方の手で無意識にポケットの中の懐中時計に触れた。見慣れたひんやりとした感触がそこにあることを確かめると、小さく息を吸い、セレステを伴って慎重に近づいていく。
灯りの下では、数人が身を寄せ合い、険しい表情を浮かべていた。肩から血をにじませている者もいれば、顔色を失っている者もいる。年配の金髪の男が一人しゃがみ込み、学生の腕の傷を手当てしていた。
「おい、そっちの……人間だよな?」
颯真が、わざと軽い調子で沈黙を破った。
数人の視線が一斉にこちらへ向いた。顔には警戒と緊張が浮かんでいる。だが、やって来たのが学生らしい姿で、異様な様子もないと確認すると、彼らはようやくわずかに安堵の色を見せた。
「学生か? どうしてまだここにいる?」
声をかけてきたのは、大学の警備制服を着た中年の男だった。眉を深くしかめ、手には護身用の警棒を握り、腰には拳銃を下げている。
セレステは平静を装って一歩前に出た。
「私たち、さっき図書館から出てきたばかりで……放送でスタジアムに避難するようにって聞いて……」
隅のほうでは、教授らしいスーツ姿の男が、曲がった眼鏡をかけたまま歯を食いしばっていた。声には隠しきれない恐怖がにじむ。
「あいつらは……どこにでもいる!」
颯真は目を細めた。教授の手の甲に、細い蔓に引っかかれたような跡がうっすら残っているのに気づき、どこか不気味な違和感を覚える。
「いったい何が起きているのだ?」
颯真が尋ねた。
警備員の男はため息をつき、少し離れた暗い小道の奥へ落ち着かない視線を向けた。
「最初は車でそのままキャンパスを出るつもりだった。東門からな。だが、駐車場を出た途端、外はうごめく蔓だらけだった。街灯も電柱も、全部絡みつかれていた。
その先の通りで、巡回中のパトカーが蔓に襲われるのを見たのだ。警官はその場で蔓に突き刺されて……そのまま操られるみたいに動き出した。」
「蔓に……操られる?」
セレステは目を見開いた。
「あれらは植物の傀儡だ。」
教授の声は低くかすれており、まるで残っている勇気をすべて振り絞っているかのようだった。
「蔓に絡め取られた人たちは、目はまだ動き、口では助けを求めているのに、体はまったく自分の意思で動かせない……まるで歩く死体だ!」
空気が一瞬で凍りついた。セレステの顔はみるみる青ざめる。
颯真は相変わらず平然と眉を上げて言った。
「つまり、この現実は、俺がこれまで遊んできたどの終末ゲームよりも、ずっとエグいってわけか。」
警備員は彼の軽口に構う余裕もなく、続けた。
「俺たちはこの目で見たのだ。警官が二人、車から引きずり出され、その場で蔓に体を貫かれて傀儡に変えられていくのを。さらに恐ろしいのは、あの怪物たちが武器まで使うことだ! すでに傀儡になっていた警官の一人が、まだ拳銃を握ったまま、助けを求めて駆け寄ってきた市民に向かって何発も撃ったのだ。銃声が人気のない通りに響き渡り、市民たちはその場で倒れ、血があたり一面に飛び散った。」
「私、あの人たちが助けを求めて叫んでいるのを聞いたのです。」
ジャージ姿の女子学生が震える声で言った。頬には涙の跡が残り、声には恐怖と怒りがにじんでいる。
「警官たちは『助けて! 助けて!』って叫び続けていたのに、手には銃を握っていて、助けを求めて駆け寄った人たちに何発も撃っていたのです。弾が一発一発、体に撃ち込まれて……市民はその場で倒れて、胸は血だらけで……。それでもその警官は、撃ちながらかすれた声で『助けて! 助けて!』って叫び続けていて、まるで狂ってしまったみたいでした。誰も近づくことができなくて、助けることなんてできませんでした。」
颯真は数人の負傷者に目を向け、眉をひそめた。
「そのケガは、どうしてできたのだ?」




