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第6話:旧東京―現名も無き国への旅路(遭遇戦)

どことも知れぬ場所の、辺りが良く見渡せる丘の上。


「わわわわわわわわわ、我がぁぁぁぁぁぁぁあ、主ィィィィィのおおおおおお仰せぇぇぇぇだだぁぁあ!!」

 

そこで、神を呪いし黒騎士は、大きな鎌を頭上に掲げて叫ぶ。


 「じじじじじじじィィィィィィィィ直にィィィィィィィィィぃぃぃぃぃ、神殺し(ゴッド・マーダー)が来るぅぅぅぅぅう!!」


 その狂ったような咆哮に追従するかのように、鳴り響く地響きは軍勢と呼ぶに相応しい数の異形の者たちによってもたらされたものである。


 丘の上から見渡せば、どこもかしこも黒い影に塗りつぶされている。


 「殺せ!!!!!!!! 我らが主ぃぃぃぃぃぃぃぃィぃィぃィぃィぃィぃィぃィぃのおおおおおおおおおおおおお言葉ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァぁぁぁぁァぁァぁァぁ!!」


 『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっ!!!!』


 黒い影の軍勢はそれぞれが携える武器を掲げて声を限りに叫ぶのだった。







 もう丸二日は歩き続けている。


 一睡もしていない。


 だけども、眠くもなければ疲れも一切感じない。


 俺って、実はすごい体力の持ち主だったのか?


 「今の貴方様は神なのです。人間であった頃の常識は今の貴方様には一切通用しませんよ」


 心を呼んだのかと思う程、的確な答えを示してくれたシュタイナーさん。


 「リディアは平気?」


 「ええ。我も人間ではありませんからこの程度では疲れなど。それよりも、我の名を呼び捨てにするとはいい度胸だと言いたいのですが?」


 笑顔を保ったまま、言葉に刺を持たせて言うリディア。


 「でもさ、リディアちゃんって言うと怒るでしょ?」


 「我を侮辱しているとしか思えません」


 「母さんとも呼ぶなと?」


 「まだそんな歳ではありません」


 自分は息子呼ばわりするくせに・・・。


 つーか、軽く千年は生きてるんだから、歳なんてもう気にする必要はないように思うが、声に出して言えば厳しい罵倒が俺を待っているので黙っていることを固く誓う俺。


 「それじゃあなんて呼べと?」


 「・・・・・・リディアでけっこうです。なんだか考えるのが面倒くさいので」


 本人の許可が下りたので、これからもリディアと呼ぶとしよう。


 「しかし流石に飽きがくる景色ですね」


 「そうですな」


 そう答えたシュタイナーさんは突然俺に話を振ってきた。


 「聖夜様」


 「なんですか?」


 「これまで歩んできた景色を見て、何かに気付きませんか?」


 一週間前までプレイしていたRPGの攻略途中のダンジョンみたいな景色ですね!


 と、考えるが口にしない。


 瓦礫の山に、人の気配がまったくしない廃墟、無造作に生えまくった草に、あちこち窪んだ跡の地面。


 驚くような光景はまだまだ見たが、一体何に気付けと?


 「うーん・・・わかりませんね」


 「そうですか。では」


 言って、シュタイナーさんは顔の前で指を一本立てた。


 その立てた指をそのまま空に向かって指差す。


 「空?」


 「ええ。何か変だとは思いませんか?」


 暗いなー。


 真っ暗だなー。


 そんな感想しか浮かんでこない。


 あれ?


 ちょっと待てよ?


 二日間、空にある筈のものを見た記憶がないぞ?


 「えーと・・・太陽?」


 「そうです。太陽です」


 「それがどうかしたの?」


 「・・・ふむ。まあ、直にわかります」


 なら聞かないで~。


 「それはそうと、聖夜様」


 「なんですか?」


 「そろそろ戦闘準備をお願い致します」


 「は?」


 そう言うと、シュタイナーさんは急に立ち止った。


 「頑張るのですよ、我が息子、聖夜」


 リディアはポンポンと俺の腰を軽く叩く。


 何を頑張れと?




 「神殺し(ゴッド・マーダー)!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 

 またですか!?


 「殺す!! 殺す!! 殺す!!」


 叫び声を上げながら、黒騎士が突進してくる。


 前の黒騎士とは違い、今度の黒騎士は武器を持っていなかった。


 その代わりに黒騎士は背後に軍勢を従えていた。


 「我がァぁァぁァぁァぁァぁァぁァぁあああ主ィぃィぃィぃのおおおめめめめ命ィぃィぃィ!!!!!! ここここここ殺すぅぅぅぅぅぅ!!! 殺せえぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 それが合図だったのだろう。


 背後に従えていた軍勢が一斉に突撃してくる。


 向かってくるのは土で作られたような、出来の悪い人形のようなものだった。


 「ラルヴァ・ドール」


 「ら・・・何?」


 「あの軍勢はラルヴァ・ドールと言いまして、文字通り、黒騎士が造り出した意思を持たぬ人形です。それどころか痛みも感じす、ただ黒騎士の命令を忠実にこなすだけの存在です。なに、貴方様にとって、あの程度の軍勢など、どうということはありません」


 嘘つけ!!


 無理!!


 つーか、今さらっと俺にとってって言ったよな!?


 ってことは、あの数を俺一人で何とかしろと、仰りやがりますか!?


 どう考えても死ぬ!!


 それにシュタイナーさん今二回も自分で軍勢だと仰りましたよね!!


 軍勢ってのはね、数がかなり揃っていないと使わない言葉なんだよ?


 ということは、一人でどうにかするなんて出来るわけないよね?


 「では、よろしくお願い致します」


 「ちょ、待って!!」



 

 「神殺し(ゴッド・マーダー)!!!!!」



 

 もう考えている時間なんてないよ!!


 どうするんだ俺!!


 「さて、我が息子、聖夜がどう切り抜けるのかとても楽しみです」


 リディアは本当に楽しそうに笑顔で言う。



 

 『思考せよ』


 「は?」


 『軍勢に勝利するには何をすべきか?』


 なんだ・・・コレ?


 『思考せよ。軍勢に勝利するには、同じく軍勢を叩きつければ良い』


 いや、あのー。


 『思考せよ。汝は既に最強の軍勢を得ている』


 何言ってるんだ?


 『思考せよ。己は常に汝と共にあり。己の名はフギン(思考)』


 え? 


 それだけ?


 今の本当に何だったんだ?


 俺が既に軍勢を持っている?


 おかしなことを仰る。


 自分を含めて三人では軍勢とは言わないのだよ。




 「神殺し(ゴッド・マーダー)!!!!!!」



 

 あー!! 


 もうすぐそこまで――。



 


 純白な馬。


  その体躯は巨躯。


   跨るは一騎当千の戦士。


    一騎で敵は無く、軍勢で最強。



 

 知らない言葉だった。


 ただ、知らなかったが、今はもう知識として俺の中にある。


 思い出したわけではなく、今知った。


 だけど、使えるとわかる。


 だから、俺はその言葉を口に出した。




 『シグフェズル(戦の父)!!』




 思い描いた姿だった。


思い描いた姿は白い騎士。

 

そして――


その数は、軍勢!

 

黒騎士の軍勢を遥かに上回る数の白騎士たちは、高らかな(とき)の声を上げて突撃していく。

 

相手は何の抵抗も出来ずに消えていく。


 その光景は戦などではなく、一方的な暴力だった。


 残された黒騎士は、白の波に飲み込まれて消えて去った。


 

 「これほどとは・・・。さすがは我が息子、聖夜」


 白騎士たちが勝鬨(かちどき)を上げている中で、リディアの声は何故か鮮明に聞こえてきた。




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