第5話:今後の指針
「ではまずは現状を把握していただきましょう」
シュタイナーさんは何事もなかったかのように言う。
ちょっと待って下さいな。
俺、少し前は訳のわからない理由で黒騎士さんに殺されかけていたのですが、そこの所どうなのよ?
「今の貴方様はこの世界の王であり、神の一柱であらせられます」
はい、もう既に訳がわかりません。
「貴方様のお名前は、帝崎聖夜でもあり、ヴォーダン・オーディンでもあるのです」
はっはー!
超ご機嫌な説明がきたぜー!
もうホント訳がわからないんだぜ!
「リディア様の神殺し(ゴッド・マーダー)の能力は、殺した神の力を自身の力として行使出来るというものです。ですが、正直な話、今の貴方様に敵う神はこの世のどこを探してみてもいないでしょう。言うなれば、貴方様は存在そのものが反則なのです。同様に、貴方様を殺せる神はおりません。ということは貴方様を殺せる人間も存在しないということ。ここまでは理解できましたかな?」
「ああ」
「さすがですな。では次ですが・・・」
正直まったくこれっぽっちも理解できません。
だから適当に返事をしました。
だって何をどう説明されてもわかりそうもないからね!
「ここは、紛れもない日本です。まあ、多少貴方様が存じている日本とは変わってはいますが」
うん。
多少どころか、もういっそ別世界だよね!
「このようなことになってしまったのは、封印されし古き神々がこの世に蘇ってしまったからです」
「神様って本当にいたんだー」
「ええ」
「でも、どうして封印ってのが解けたんでしょうか?」
そこで、シュタイナーさんは押し黙る。
「世界の英雄が死んでしまったからよ」
シュタイナーさんの代わりに答えたのは、小さな女の子であり、自称吸血鬼兼俺のマミーと言い張るリディアちゃん。
「我が息子、聖夜にもわかりやすく簡単に説明すると、この世界に存在していた古き神々を封印したのが我が息子、聖夜の両親。つまり、琢磨とアリスの二人。その二人が死んでしまったのが一番の原因ね」
本当に、父さんと母さんは死んだのか・・・。
うん?
ちょっと待てよ?
「リディアさんは俺の両親とはどういったご関係で?」
「戦友」
わお。
ただの友達ではなく、戦の友と書いて戦友ときたか。
つーか、本当に父さんと母さんはどんな仕事をしていたのでしょう?
「ちなみに、シュタイナーとやらも二人の戦友だったようです。ついさっき知りましたが」
ぺこりと頭を上げてみせるシュタイナーさん。
そんなシュタイナーさんはリディアちゃんに話の続きを促せる。
「この世界は我が息子、聖夜が生きていた世界の遥か未来です」
タイムトラベラー聖夜と呼んでくれー。
わははははー。
そんなフラグを立てた覚えは一切ないけどね!
「貴方はあの時、偶然と奇跡と、英雄の血によって、私から神殺し(ゴッド・マーダー)の能力を受け継いだのよ」
あの時と言うと、生き倒れていた人を助けた時だろうか?
しかし、私からというが、あの時の人と、リディアちゃんとでは、背丈が全然違わないかい?
顔は・・・似てはいるが。
どっちにしても謹んでお返ししたいです。
「でも、まあこれで良かったのかもしれないわね」
まったくよくありません。
主に俺が。
「時期は早まったけれど、将来、神殺し(ゴッド・マーダー)の能力は我が息子、聖夜に引き継がせる予定だったし」
そんな予定は俺の将来設計に入っていなかったのですが?
「というか、どうして俺が息子なのでしょうか?」
「私の能力を引き継いだから」
うむ。
息子の定義を間違って認識しているのは俺なのだろうか?
「神殺し(ゴッド・マーダー)の能力引き継ぎには条件があり、その条件とは一度死ぬこと。人間の肉体のままでは、その身に神の力を受け継げないから。だから、シュタイナーは我が息子、聖夜を刺し殺した」
「その節はどうも」
とはシュタイナーさん。
その返しはちょっと違うんでない?
めちゃくちゃ痛かったし、寒かったし、熱かったし、総合的に言えば、怖かったのだからね!
「まあそんなことがあって、我が息子、聖夜は見事、神殺し(ゴッド・マーダー)となっ
たわけだけど、ここで一つ問題が出てきたのよ」
「問題?」
「ええ、予想よりも早く古き神々が目覚めてしまったの。本来、琢磨とアリスが死んでも、百年ぐらいは問題ないと思っていたのだけれど、どうしてか古き神々は目覚めてしまった。その目覚めの影響を受け、時空は歪み、あらゆる次元、事象が繋がり一つになってしまったの。我が息子、聖夜が意識を失ってから実際には一日ほどしか時間の経過はないわけだけど、世界は古き神々の影響を受けて、千年の時が経ってしまった」
世界よ。
もう少し根性で頑張ろうぜ!
「と、いうわけで、我が息子聖夜にはこの世から古き神々を一掃してもらいます」
無理ですよー。
「ああ、すみません訂正します。一掃するのは、この世界に生きる全ての生命に害を与える神のみです。古き神々の中にも、温和な神は存在しますから、そういった神をも一掃する必要はありません」
どっちにしても無理ですよー!
つーか面倒くさい。
ゲームしたい。
マンガ読みたい。
友達と遊びたい。
友達いないけど・・・。
彼女とイチャイチャラブラブしたい。
彼女もいないけど・・・。
「そして――」
まだ説明が続くのか。
「害を成す古き神々を一掃しつつ、我が息子、聖夜には国を立ち上げて貰います」
「はい?」
「国を作るには、人の力が必要です。なので、我が息子、聖夜は仲間を集めて国を作るのです」
「どうして国なんて作るのか聞いてもいいですか?」
「神に対抗するためです」
訳がわかんないよー!
助けてマミー!
「ん? 呼びましたか?」
と、リディアさんが訪ねてくる。
「今何か、我が息子からの救難信号的なものを受信したのですが・・・」
「ナンデモナイヨ?」
「そうですか。では早速出発するとしましょう」
「どこへ?」
そんな俺の問いかけに、シュタイナーさんが答えた。
「旧東京、現名の無い国です」
「我が息子、聖夜。いつでも戦える準備をしておきなさい」
そう言うと、二人は俺に背を向けてさっさと歩き始めるのだった。