第4話:神殺しの闘い
『オーディン』
『ヴォーダン』
そんな言葉が俺の脳裏に浮かび上がる。
「おお・・・」
ヴォーダン。
ウォーダン、ヴォータンとも呼ばれる神を、黒騎士はかつて崇拝していた。
「おおう・・・我が神よ!!」
ヴォーダンという神は、ゲルマンの主神であり、ドイツ地域などではこの名で呼ばれ、風や死を司り、暴風雨の夜に声をたてて疾走する霊たちや、稲妻や雷の霊を支配する神であるとされる。
「何故・・・何故・・・」
古い時代は戦いの神、嵐の神であったが、時代が下ると主神となっていったのである。
「私は貴方を心から信頼していたというのに、貴方は私の信頼を裏切られた!! 神殺し(ゴッド・マーダー)などという下賤な輩に殺され、貴方は私の信頼を裏切ったのです!
よろしい。ならば私は、貴方を殺した神殺し(ゴッド・マーダー)を、この手で屠りその栄華を我がものと致しましょう!!」
特に北ヨーロッパではオーディンとして広く信仰されたが、キリスト教が広まるにつれて、主神から死神などに神格が変化していった神である。
「な、何だよコレ! なんか変なんだけど!! 頭の中でわけのわからない情報がぐるぐるぐるぐると流れ込んできて――」
「安心なさい。我が息子、聖夜。それは神殺し(ゴッド・マーダー)である貴方の能力のほんの一部」
「は、はい!?」
「どんなに素晴らしい力であっても、その力の扱い方、知識を知っておかねば、それはただの宝の持ち腐れ」
「いや、あの・・・」
「神殺し!(ゴッド・マーダー)」
ああもう、黒騎士さん。
貴方さっきからうるさいですよ!
オーディンには、八本足の戦馬スレイプニルという愛馬がいる。
「八本足!? それもう馬じゃないよ!!」
「我が息子、聖夜。今は黙って情報に耳を傾けていなさい」
フギン(思考)、ムニン(記憶)という二羽のワタリガラスを世界中に飛ばし、二羽が持ち帰るさまざまな情報を得ているとされている。
全知全能の神 。
詩の神 。
戦神 。
魔術と狡知の神。
死と霊感の神 。
万物の神。
戦死者の父。
偉大で崇高な神。
叫ぶ者。
語る者。
高き者。
禍を引きおこす者。
知恵者 。
フロプタチュール 。
軍勢の父 。
恐ろしき者。
勝利を決める者。
仮面をかぶる者。
人間の神。
兜をかぶれるもの(グリーム)。
旅路に疲れたもの(ガングレリ)。
兜をつけたもの(ヒァームベリ)。
第三のもの(スリジ)。
わきかえるもの・海。
波。
戦士の目をくらますもの(ヘルブリンディ)。
片眼のもの(ハール)。
真実のもの(サズ)。
姿を変えるもの(スヴィパル)。
真実をおしはかるもの(サンゲタル) 。
軍勢の名で快く感じるもの(ヘルテイト)。
突くもの(フニクズル)。
片眼を欠くもの(ビレイグ) 。
焔の眼をせるもの(バーレイグ)。
(蜜酒を)隠すもの、守るもの(フィヨルニル)。
誘惑に長じたもの(グラプスヴィズ)。
途方もなく賢いもの(フィヨルスヴィズ)。
眼深に帽子をかぶったもの(シーズヘト)。
長髯の者。
戦の父。
馬にのって突進するもの(アトリーズ)。
船荷の神。
顔をかえることのできるもの(イヤールク)。
船人。
促進者。
滅ぼす者。
望むもの(オースキ)。
最高のもの(オーミ)。
同じように高きもの(ヤヴンハール)。
盾をふりまわすもの(ビヴリンディ)。
魔法の心得あるもの(ゲンドリル)。
槍をもつもの(スヴィズル)。
目覚めたるもの(ヴァク)。
高座につくもの(スキルヴィング)。
さすらうもの(ヴァーヴズ)。
生贄に決められたもの(ガウト) 。
灰色の鬚。
戦の狼。
ヴィズリル 。
勝利の父 。
シーズグラニ 。
万物の父。
盲目。
フリニカル 。
分捕品をつくる者。
攻撃者 。
疾駆する者 。
試す者 。
片眼の英雄。
知を欲す者。
これらは全てオーディンの呼称である。
「我がかつて殺した神の名は、ヴォーダン=オーディン。さあ、我が息子、聖夜。貴方はどの力を我に魅せてくれるのかしら?」
「この手で神を殺し、私が新たな神となろう!!」
言って、黒騎士は左の掌の上で激しく燃え上がっていた炎の塊を、血のように紅い長剣に叩きつけた。
次の瞬間、黒騎士の持つ長剣は爆ぜ、その手から姿を消した。
「がぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!」
その奇声とも咆哮ともつかない発声の後、黒騎士の頭上に十階建てビル並みの、超巨大な剣が出現した。
「え~、うそですよね?」
その剣は、大きさは比べ物にならないほど巨大だが、刀身は先ほど黒騎士が装備していた剣と同じく、血のように紅かった。
「わた、わたたたたた、わたしィィィィがががががががぁぁぁぁ!!!! 神にいィィなああああああああああああああるゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!」
その狂った声と共に、黒騎士は頭上に出現した超特大剣を俺に目がけて振り下ろす。
待て。
待て、待て、待て!!
そんな大きなもの反則でしょ!?
死ぬの!?
俺こんなわけのわからない状態のまま死んじゃうのか!!
『ガグンラーズ(勝利を決める者)!!』
へ?
あれ?
今、俺何か言った?
パリン。
その音を合図にしたかのように、ガラスの割れるような破壊音が周囲に響き渡る。
「おおおおおおっ!! 主よ! 我が神よ!!!
私は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そんな言葉を残し、黒騎士は消滅した。
文字通り、消え失せたのである。
「ど、どうなってんのコレ?」
暗闇の中、一つの小さな灯が、この世界を覆う闇に対し、小さな抵抗を示すかのように輝いていた。
「ミネルバ様」
老人のしわがれた声が、主の名を呼んだ。
「神を呪いし黒騎士の一人、『ラルヴァ1 ブラッド・ソード』が消滅致しました」
「っ!」
そこは、かつて日本と呼ばれていた国の首都・東京。
その、跡地であり、現在は闇に飲み込まれた国である。
この国には、まだ名前は無い。
「では、ついに現れたのですか!?」
「はい。我らの英雄が誕生されました」
人の身に神の力を宿す者。
人に対し最強。
神に対し最凶。
あらゆる生命を超越せし存在。
その者、神殺し(ゴッド・マーダー)。
「これで、この世界は救われるのですね」