第3話:神殺し
「うそ~ん」
目が覚めるとそこは、朽ち果てた建物の中だった。
夢であって欲しい。
だけど、現実はそんなに甘くはないわけで。
「おめでとうございます」
満面の笑みでそう言う人物に心当たりがありました。
俺を刺した張本人、シュタイナー・バルバロッソ。
シュタイナーさんは、今にも崩れてしまいそうな壁に、その巨躯を預けた状態で、にかっと凶悪な笑みを浮かべながら、続けて言った。
「聖夜くん――いえ、貴方様は、今このとき、この瞬間を持って世界の王になられた。貴方がどのような王として今後振る舞うのかを楽しみに――」
「ちょ、ちょっとシュタイナーさん! 意味わからないこと言ってないで、まずは説明してくれません!? どうして俺のこと刺したんですか!? 危うく死んじゃう所でしたよ!」
「いえ、あなたはすでに死亡しておられますが?」
答えたのはシュタイナーさんではなかった。
シュタイナーさんの背後から、小さな人影が姿を現した。
あらまあ可愛らしいお譲ちゃん。
どこのお貴族さまの娘さんかしら?
「えーと・・・どちらさまでしょうか?」
あれ?
でも、この女の子どこかで見たことがあるような、ないような。
「ええ。そうね。まずは自己紹介から始めましょうか」
落ち着いた感じの女の子だなや~。
やっぱりどこかのお金持ちのお嬢様?
「我の名は、リディア・オクターバ。世界最古の吸血鬼であり、真祖にして、神殺し。そして、あなたにとってはここが一番重要ね。我は、あなたの母です」
金髪碧眼の髪の長い小さな女の子はそう言うと、長い髪を優雅にかきあげて俺を見つめる。
フランス人形のように完璧に整った、一つの美の極致を体現したかのような、そんな女の子。
そうか。
可哀想に。
この子も俺と一緒で友達がいないんだな。
だから、こんなふざけた妄想をして遊ぶしかないのか。
君の気持はよくわかる。
何しろ、俺も友達いない歴=年齢(十五歳)だから、君より年期は重い猛者だよ。
大丈夫。
友達がいなくたって、人生なんとかやっていけるもんさ!
「うん、そうなんだ。君みたいな可愛いらしい吸血鬼がいたのか~。そうかそうか。うんうん。でも、神様を殺すなんて物騒なことは言っちゃ駄目だよ? ね~、お母さん。あはは―――」
「シュタイナーとやら、我はこの子を今にも亡きものにしてやりたいのだが、今の我がこの無礼者を殺せる確率はいかほどか?」
「皆無です。この世界において、このお方を殺せる者は存在しません」
「ふむ。わかってはいたことだが、やはり腹立たしい」
「まあまあ。聖夜様も、状況が理解できていないだけですので」
「ふむ。なるほど。では、しばしの猶予をこの者に与えるとしましょう」
「感謝致します」
うん。
まったく話が見えてこないぞ?
そもそも、ここってどこだよ!
まったく見覚えがないぞ?
そんな疑問が顔に出ていたのかもしれない。
「ここは六王山市ですよ」
「ここのどこが?」
俺の記憶の中にある、六王山市は都会とまでは言わないが、それなりにビルは建っていたし、何より住宅街があった。
だけど、ここはというと。
シュタイナーさんがいる方とは反対側に顔を向ける。
壁は見事に崩れていたため、外の景色を見ることが出来た。
俺の視界いっぱいに広がる景色は、土に、草に、至る所が崩れた廃墟と豪華? 三点セットだった。
これで剣と魔法が出てくれば、完璧にファンタジーだな~。
「神殺し!!!」
そんな雄叫びと共に、全身を黒い鎧で覆い隠した騎士が現れた。
いつの間に!?
というかどこから現われましたか!?
黒騎士は、右手に刀身が血のように紅く染まった真紅の長剣を装備し、左手には何故か掌の上で激しく燃え上がっている炎の塊を浮かべている。
うん、ファンタジーだね。
「ふむ。面倒くさいことになってしまいましたな」
シュタイナーさんは余裕の笑みを浮かべて言った。
いいえ、面倒くさいとか言ってるレベルじゃなくて、俺今、割と本気で命の危機を感じているのですが?
「シュタイナーとやら。どうでしょうか? 口で説明するよりも、実際に体験していただいた方が、理解も早く済むのではないでしょうか?」
「そうですな」
なんだか激しく嫌な予感がしますのは気のせいでしょうか?
恐らく気のせいではないと思います。
そうだよね。
「決まりですね。では、ええと・・・」
「彼の名前は帝崎聖夜です」
「では改めまして、帝崎聖夜。我が息子として、新たな神殺しとして、まずは目の前の相手を倒してみなさい」
倒せと申されましても・・・。
ほら見てごらんなさい。
あちらの黒騎士さんがお嬢さんの一言で、殺る気を漲らせているじゃありませんか!?
「神殺し!!!」
だから、それ何!?