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現代にはそぐわない「歴史的」表現がございます。
気を付けてお進みください。
「貴方様は、どのような責をお取りになられるのです?」
白い頬は、怒りに紅潮している。
「もとをただせば、あなたさまが千夜丸を----わたくしを、まったく顧みなかったからではございませんか?」
遠く、鳥の鳴く声がする。薄闇が入り込んできた室内だが、灯火を点けようと動ける雰囲気ではなく、息を詰める。
「当たり前の父として、千夜丸を構い下さってあれば、あの子は母について回ったりせず、男ども珍しがって、工務の内に入ったりもしなかったでしょう!!」
「阿衣、やめぬか!」
焦った様子で錠屋が娘の肩に手を掛けたが、阿衣はその手を振り切って、風斗ににじり寄った。
「一度も抱き上げたことすらないというのに、」
鬼気迫るとはこういうことか。男どもは動けないでいる。
「わたくしから吾が子を、父親顔して取り上げようとなさる!?」
「そなたの落ち度だ。」
諭そうと思ったのかもしれない。
「俺は、そなたと子を離そうと思ったことはなかった。」
「関わりない、ですものね。」
話を公正に聞いていれば、天秤は風斗には傾かない。経清が痛ましそうに阿衣を見遣る。
「でも、いまは、わたくしは目障り。そうでしょうとも!!」
頬を紅潮させ、目を輝かせた阿衣は今まで一番生気に溢れて、・・・美しい。
「貴方様が! いま、突然合われた風織姫を騙る若い娘に入れあげて!」
この態であれば、もしかして風斗の凍った心を溶かしていたかもしれなかった。鷹里の感想だ。
「阿衣止めよ。風織姫さまを、ここに到って騙りなどと、」
錠屋が娘を落ち着かせようとしたが、
「騙りでございますわ!」
高らかに、確信的に阿衣が言う。
「わたくしの言っていることも分からぬ、白痴のような顔で! 有夏さまの背に隠れているだけの、人形!!」
「阿衣どの、」
鷹里が口を挟む。
「あなたとて、風織姫が御業を使ったのを間近にご覧になったではないか?」
「まあ! 皆様!!」
とは、周囲をあざ笑うような、わざとらしさだ。
「あれは、風斗の御力ですわ。」
ほほほほ、と軽やかに笑う。
「あの小娘が為したように見せかけただけ。」
風斗は無表情。鷹里はゆっくり息を吐き。
「小娘を風織姫とするために----そう、あの崩壊も、風斗が仕組まれたことでしょう?」
「・・ほぉ、」
面白くなってきた、とばかりの守衡。
「わたくしが小娘を懲らしめに行くだろうと察して、そうびに伴えぬわたくしの侍女が立ち話に夢中になるように若い職人をけしかけて、千夜丸を建物内に誘い込んで。----そして、梁を落とした。そうでございましょう?」
「なるほど。仕込もうとすれば、やれなくはないでしょうかね?}
「おい、何を言い出す・・・、」
同意するような守衡に、経清はぎょっとする。守衡は---いっそ、晴れやかに笑っていた。
「あなたには、風斗がそう見えるのですね。」
穏やかに、穏やかに。
「風織姫への想いのためには、何もかもを捧げて、ためらいないと。」
「ええ!」
く、と顎を上げた。
「放り出せ。」
それは灼熱の怒りだ。
「風斗が自分の欲望のために、ひたかみの民を犠牲にすると…そんなことを口にする女なぞ、要らぬ。」
飄々とした、人を食うような物言いが身上の男が、身体の芯から怒りを発していた。
「あなたも、ひたかみの民のひとりだから、風斗は決して棄て去りはしないが、預名方は違うぞ。預名方として、風斗を貶める者なぞ、不要ぬし、許さぬ。」
一切の反駁を許さない、苛烈さであった。




