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場面転換の関係で短めです。
普請現場で事故が起きて、怪我人が多数出ている模様という一報で、取り急ぎやってきた風斗は、感動歓喜渦巻く様子に一瞬立ちすくんだ。
万歳、と彼の大事な女性の名を叫び、風斗の姿を目に入れるとさらに興奮は増して、
「おめでとうございます!!」
とは、いったい何事か。まるで初めて風織姫が降りた日のような狂乱ぶりだ。
何の騒ぎ、と言いさして、風斗は有夏に抱えられてぐったりした様子の早桜を見つけた。血相を変えて駆け寄り、温かい体と、多少顔色は悪いがしっかりとした呼吸に安堵した。
「----何があった?」
「力、使ったの。早桜が。」
有夏は兄に早桜を渡し、崩壊した建物を指し示した。
「早桜が風で支えてくれたから、逃げ遅れた人を救出できて。」
「・・そうか、」
うっすらと浮かんだ汗を袖口で拭って、風斗は大事そうに胸深く抱えたまま立ち上がった。
「おもしろい組み合わせだな。」
鷹里は一礼し、守衡は肩を竦め、経清は何か言いたげだったが結局小さな会釈を送った。苦い顔の錠屋富忠と、悲壮な様子の娘と腕に抱えられた子どもを一瞥し、凡その成り行きは掴めた、と頷いた。
「まずは怪我人の手当て。それからこの現場の状況の検分。居合わせた者からの聞き取り。速やかに報告を上げよ。」
「御意。」
まずはそうびの小館に、風織姫を休ませてきたいのだろう。踵を巡らせた背を、有夏が追っていった。夫と目こそ合わせたが、この面子の中に残るのが当然とばかりに、置いて去った。
闇衛内の、非常に微妙な問題なのだから、大和人の部外者として、連れて去るのが穏当だろうに----いや、ここは自分から辞すのが適当か?
「経清どの、守衡どの、お手伝いをお願いできますか。」
確定調で鷹里が振り向いた。
風斗はとりあえず、鷹里に向かって命じていったが、指示は三つ。居るのは三人。
数に数えられていた、らしい。
----結局。
再集合が為せたのは、春の陽が、夕刻の色に身を変える頃となった。
事故が起きたのは、巳の刻であったから、結局半日かかりっきりになった訳だ。
だが、この報告が、ただ、報告で終わるとはだれ一人思っていない。
長くなった一日の終わりは、まだ見えていなかった。
いざ修羅場⁉(当社比w)




