紫の蝶々 (プロローグ 3/3P)
プロローグ(3/3ページ)
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嫌。嘘。嫌。嘘。嫌。嘘──
嫌です、お母さん…
嘘って言って下さい。
私をどこかに行かせないで。
お母さんと一緒にいたい。
ずっと一緒にいたいのです。
泣いて泣いてどれくらい叫んでも聞き入れては貰えなかった願い。
もう光は消えて、お母さんの気配もない。
お母さんがいない。
いくら泣き叫んでも届かない。
突然世界が変わった。ここは容赦なく雨が降っていて…冷たい。先程までは燃え崩れる家にいたのだから、明かに違う場所だった。
原因はお母さん。
お母さんが何かしたのだ。
そんな事が出来たのかとも思ったけれど今の心情や現状を思えばそれはもう些細な事に思えた。
ここは一体何処なのか。
辺りは薄暗く時折雷がなっている。植物が沢山あって私はその上に倒れていた。
私は一人になってしまったのだ。
お母さん…
私を逃がしたお母さんは無事なのだろうか。あの見知らぬ男の人達に捕まった後はどうなるのだろう。
何処にいるの。ここはお母さんからどれくらいはなれているの。
知らない場所で激しい雨に体力と熱を奪われていく身体。起き上がる気力もなくて、どうなっても良いとただ瞳を閉じる。
そうしてどれくらい時間が経っただろう、少しだけ弱くなった雨に濡れる植物や花の匂いがする。その中で冷たくなった身体に寄り添う暖かさがあった。
(むらさき…!)
その存在は確かに私の腕の中にいた。小さく、でも確かな鼓動を感じると凄く安心できた。
(一人じゃなかった……)
(一人じゃなかった…!)
急に胸に温かいものが込み上げてきて涙が零れるけれど、温かな雫はすぐに雨と混じり冷えていく。
『蝶…』
『蝶…………』
私を必死に呼ぶ声。
紫の声。
温かさ。
その存在。
それらは全てを無くした私の最後の希望だった。
『蝶…このままじゃ…』
「む…ら…………」
答えたい、私も紫を呼びたいのに掠れた声は音にならなかった。
その代わりにぎゅうっと抱き締める。
『蝶!?…声が…』
ごめんなさい、紫。
あなたは私が守らなきゃいけないのに…
身体が動かない。
声が出なくて…
答える事が出来ない。
『大丈夫…分かってる』
私にその体を擦り寄せると涙の跡を舐めて…微笑んだ。
『ぼくが助けてあげるから…もう泣かないで』
紫はそう言葉を残して私の腕から出て歩いていく。
『人を…探してくるから』
紫の暖かさがなくなりまた一人になった私は段々と意識を保っていられなくなっていった。
(むらさき……ごめんなさい…)
(//)