紫の蝶々 (プロローグ 2/3P)
プロローグ(2/3ページ)
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お伽噺が好きだった。
小さい頃からお母さんの話してくれるお話。そのお話の世界はキラキラ輝いている。
だけれどどのお話もいつも決まって同じところで終わった。お母さんも続きは知らないと、寂し気に声を細める。そんなお母さんがとても切ない。
だから私が続きを教えてあげたい、お母さんに笑っていて欲しい、そんな風にいつからか願うようになっていた。
憧れは夢に。
夢は願いへと変化する。
その日は突然訪れた。
「蝶っっ!!!」
私を呼ぶお母さんのいつもと違う声で目覚めると辺りには煙が立ち込めていて、何がが燃えている様な焦げ臭いにおいがしている。
「え……」
「こっ…だっ!!と…とう…つ…たぞ!」
少し遠くからバタバタと数人の足音と知らない男の人の怒鳴るような声が聞こえた。
「な、なに…」
「蝶…落ち着いて」
(何が何だか分からないけど、知らない人が何人かいて、何かを探してる…?そして何かが燃えている)
「…お母さん、これって」
震える手でお母さんを掴む。
何が目的か分からないけれど、本能が逃げなければと警告を鳴らしていた。
(怖いけど、ここで死ぬわけにはいかない。幸いにも奥の間であるここにはまだ火は付いていないし、見つかってはいないみたいだ)
「…ムー?」
『ここだよ!』
するりと腕に飛び込んできたムーを抱き締めて「大丈夫ですよ…」と呟いた。
「…時は来てしまいました。安全に暮らしていたかったけど…」
「お母さん?」
「蝶、ムー、貴女達は逃げなさい」
「なに、言ってるんですか…お母さんも一緒に」
「彼等は恐らく、私とお父さんが狙いです。貴女達の存在は知られていないから………私が逃がします」
そうお母さんが言うと入り口が大きな音を立てて崩れて炎が舞い上がった。
「嫌です!お母さん、お母さんもっ!!」
『おかあさんっ』
「こっちにも部屋があるぞ───っ!!!」
先程よりも近くに聞こえた男の声にビクッと身体が震えた。
(なに、なんなの。お母さんとお父さんが狙い?何で私たちだけ逃げるの?お母さんは………?)
不安から涙が滲んでくる。
(泣いてる場合じゃないのに!!)
そう思っても溢れてくる涙でよく見えないお母さんを抱き締めれば、優しく微笑んでいる気がする。
「時間がありません……蝶、紫…貴女達と過ごした日々は幸せでした。…どうか元気で……生きて下さい」
「…お、かあさん…いや…どうして………」
突如、空間が分からなくなるくらいの光に包まれたかと思えばお母さんの温もりが離れる。
お母さんが何かしたんだと分かったけれど…お母さんは見えなくなった。
「お母さん!!いや、お母さんっ!お母さんお母さんお母さぁ────んっっ!!!!!」
その瞬間に手を伸ばしたけれどお母さんに届かない。
『愛しています……』
『いつまでも………………』
脳裏にお母さんの声が響いて私達は光へと吸い込まれた。
「いやぁぁぁあああぁぁぁ!!!!!」
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